講演情報
[G-P-6]噴火湾拡大説
*加藤 孝幸1 (1. アースサイエンス株式会社)
キーワード:
噴火湾の拡大、噴火湾構造線、広域応力場の転換、フィリピン海プレート、鮮新世
はじめに噴火湾(内浦湾)は, その西側を渡島半島に囲まれる直径約50kmの円形の湾である.その成因について, 火山のカルデラや小惑星の衝突によるクレーターとは考えられない. ここでは, 2023年に発見された「噴火湾構造線」や, 鮮新世末以降の噴火湾拡大の可能性について述べる.地質構造の特徴 渡島半島のリニアメントの解析や断層の観察によると, 南北系圧縮場の時期と東西系圧縮場の時期がある. 白亜紀の花崗閃緑岩や中新世の訓縫層・八雲層には, ときに南北系圧縮場で生成したと考えられる構造が残存し, かつ東西系圧縮場で生成したと考えられる構造が重複する. 国縫層や八雲層に貫入するドレライトなどは南北系の貫入面が卓越する. 渡島半島には南北系(NNE-SSWないしN-S)右横ずれ断層が発達する. NNE-SSW断層の一部には南北系圧縮場に伴う左横ずれ断層が認められる. 渡島半島には南北系褶曲軸が発達する. このことは上記断層群, とくにNNE-SSW方向の右横ずれ断層群が発達することに対応している. 噴火湾西縁の陸上部には八雲断層(a, b)として知られる活断層が知られている.この活断層に挟まれて瀬棚層を乗せた花崗閃緑岩が上昇している. 八雲断層は活断層としては東傾斜で東側が西方へ衝上すると考えられているが, 横ずれ成分についてはよくわかっていない. 八雲断層の続きは瀬棚層を切る断層として, 杉型雁行配列して南へ続く. 八雲町市街地南東方(熱田地区)で, 八雲層を幅50mにわたって破砕する南北系高角東傾斜(約70°E)の横ずれ成分の卓越する大きな断層が発見された. 考察渡島半島の第四紀は東西系圧縮場にあると考えられるので, 加藤・菅原(2017)が述べたように, 南北系圧縮場の時期は八雲層堆積後, すなわち主として鮮新世であろう. 東西系圧縮場は太平洋プレートの運動で説明可能であるが, 南北系圧縮場はその運動では説明できない. 高橋(2005,2006)などは東北日本が約300万年前まではフィリピン海プレートの影響下にあり, 南北系圧縮場にあった可能性を示しているが, 東北日本の延長である渡島半島も同様のテクトニック場にあった可能性が考えられる.中新世後期の八雲層やそれ以前の地層に貫入するドレライトなどが南北系であることは, これらが鮮新世の南北系の圧縮場の時期に貫入した可能性が考えられる.渡島半島にみられるNNE-SSW断層の多くは右横ずれ断層である. しかし, その一部にみられる南北系圧縮場に伴う左横ずれ断層はこの方向の右横ずれ断層がかつては左横ずれ断層であって, これが後に右横ずれ断層に転化した可能性が考えられる.渡島半島に南北系褶曲軸が発達することは上記断層群, とくにNNE-SSW方向の右横ずれ断層群が発達することに対応している. 活断層である八雲断層の続きは瀬棚層を切る断層として, 杉型雁行配列して南へ続くので, 現在でも, 全体として南北系断層が右横ずれ変位を起こす応力が働いていると考えられる.噴火湾の拡大に関連すると考えられる, 八雲町市街地南東の地点を通って噴火湾西縁を画する, 南北に伸びる構造線(噴火湾構造線)が発見された. 右横ずれ断層と考えられる.これらを総合すると, フィリピン海プレートの北進が終了する約300万年前の時期までは噴火湾と渡島半島は存在しなかった可能性がある. その後フィリピン海プレートの北西進への転換に伴って, 太平洋プレートによる東西系圧縮場と, これに伴う千島弧の南西進の影響下に移行する時期に, 噴火湾の拡大が始まったと考えられる.引用文献 加藤孝幸・菅原誠(2017) 日本地質学会北海道支部講演要旨.高橋雅紀(2005) 日本地震学会2005年度秋季大会講演予稿集, A029. 高橋雅紀(2006) 地学雑誌, 115, 116-123.
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