講演情報

[T18-O-6]令和6年能登半島地震の津波堆積物の地球化学

*土屋 範芳1,2、Mindaleva Diana2、平野 伸夫2、布原 啓史 (1. 八戸工業高等専門学校、2. 東北大学)
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キーワード:

令和6年能登半島地震、津波堆積物、地球化学、化学組成

令和6年能登半島地震により,能登半島北岸,東岸および西岸には津波が観測され,それにより津波浸水域には津波堆積物が堆積した.著者らは,2011年の東日本大震災による津波堆積物について被災エリアのほぼ全域から津波堆積物を採取し,三陸海岸ならびに仙台平野に津波堆積物には相当量のAsが含有されていること,さらに水溶出挙動ならびに海水溶出挙動について検討し,津波堆積物の処理には十分な注意と,その後に利用についても配慮が必要であることを指摘した(土屋ら, 2012).令和6年能登半島地震についても,主成分に加えてAsおよび重金属汚染の可能性について明らかにすべく,津波堆積物とその化学組成について検討を行った.
 津波堆積物は,2024年3月29-31日に輪島市ならびに珠洲市から総計24個採取した.エネルギー分散型蛍光X線分析装置(Epsilon 5, Perkin Elmer社製)を用いて化学組成を分析した.Asの含有量は,5.6から22.5 ppmの範囲にあり,2011年の東日本大震災の津波堆積物のAs含有量と比較すると総じて低い値となった.また,Cu (71), Zn (171), Pb (35)についても,2011年の太平洋沿岸域の津波堆積物と比較して,有意に高い値は認められなかった (カッコ内は測定試料中の最高値,単位ppm).
 令和6年能登半島地震では,地震そのものによる倒壊家屋や道路・水道設備の被災などが数多く報じられているが,これらに加えて津波による浸水被害にも重篤なものがあり,さらに調査当時もまだ十分な復旧作業までには至っていない地域が数多くあった.今回の津波堆積物と化学組成分析から,少なくとも化学組成の観点からは,今回の津波による環境への影響は限定的であると考えられるが,一方で能登半島西側では,隆起が進み,海岸線が大きく後退したところがある.これらの地域では,津波堆積物に加えて,大きく広がった海岸の砂泥による粉塵被害もあり,今後の復旧.復興活動,そして生活や産業の再興には十分な注意が必要である.

土屋ら(2012)東北地方太平洋沖地震により岩手,宮城,福島沿岸域の津波堆積物のヒ素に関するリスク評価,地質雑, 118, 419-430.

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