講演情報
[T14-O-1]海上保安庁海洋情報部による沖縄トラフと東シナ海陸棚調査のこれまでと将来の展望
*小原 泰彦1、南 宏樹2 (1. 海上保安庁海洋情報部・海洋研究開発機構・名古屋大学、2. 海上保安庁海洋情報部)
キーワード:
沖縄トラフ、東シナ海陸棚、海上保安庁海洋情報部
沖縄トラフは、ユーラシアプレートに位置する活動的な背弧海盆であり、大陸地殻においてリフティングの発生を理解できる場であり、地質学研究の対象として長年にわたり注目されてきた。 海上保安庁水路部(当時)では1975年から1982年に奄美大島以南の琉球弧の調査を実施した。その後、1984年から1986年にかけて、当時の新造の測量船「拓洋」による総合的な大陸棚調査を沖縄トラフと東シナ海陸棚の広範囲で実施した。この調査では、沖縄トラフで初めてマルチビーム測深が実施され、沖縄トラフの地形・テクトニクスの詳細が明らかとなった。その直後、リソスフェア探査開発計画(DELP)の調査や「しんかい2000」の潜航調査、フランスの調査船ジャンシャルコーとドイツの調査船ゾンネによる調査など、海上保安庁水路部の大陸棚調査を皮切りに、マッピング調査と潜航調査が数年間に渡って集中的に実施された。これらの調査を受け、リフトの発達史や複数の海底熱水サイトの発見など、沖縄トラフの地球科学的理解の基礎が1980年代に形作られてきた。 2008年からは、海上保安庁海洋情報部は領海・EEZ調査として、より高分解能なマルチビーム測深と地殻構造探査、ドレッジとコアによる包括的な底質調査を沖縄トラフと東シナ海陸棚で実施している。2013年からは自律型潜水調査機器(AUV)による精密地形調査を開始し、2020年と2021年には、海上保安庁で最大の測量船となる「平洋」と「光洋」が就役し、領海・EEZ調査が更に強化されたところである。 2008年からの領海・EEZ調査の成果の一つとして、縮尺100万分の1の海底地形図「南西諸島」(No. 6315)が2014年4月に刊行されている。また、2014年6月には久米島沖において、AUV調査によって日本周辺で知られている中では最も規模の大きなチムニー群が発見され、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構により海底熱水鉱床であることが確認され、「ごんどうサイト」と命名されている。2016年には火山フロントの位置が不明瞭である琉球弧南部において、AUV調査による詳細地形の解析から宮古島沖の第3宮古海丘が海底火山であることを発見した。地殻構造探査では、大陸性地殻で特徴的に存在するP波速度6 km/sの中部地殻が、地殻の薄化が顕著な南部沖縄トラフにおいても確認され、沖縄トラフは大陸地殻の伸張段階にあることが示された。このように、領海・EEZ調査からは、今後の資源開発や、海底火山やテクトニクスの解釈にかかる基盤情報として活用が期待される成果が得られている。 これまでの沖縄トラフと東シナ海陸棚の調査は、国内の調査機関がそれぞれ独自に実施しているのが現状である。そのような中、海上保安庁海洋情報部と産業技術総合研究所は今年(2024年)から沖縄トラフと東シナ海陸棚のデータ・試料解析に係る包括的な共同研究を開始した。今後、沖縄トラフと東シナ海陸棚の地球科学的な理解がより一層深まることが期待される。
コメント
コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン