講演情報

[T14-O-3][招待講演]地震波探査から見た沖縄トラフの地殻構造と地震活動

*新井 隆太1、大坪 誠2、三澤 文慶2、木下 正高3、石野 沙季2、山本 朱音4,2、KH-21-3およびKH-23-11 乗船研究者 (1. 海洋研究開発機構、2. 産業技術総合研究所、3. 東京大学地震研究所、4. 日本大学)
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【ハイライト講演】約1000万年前から大陸地殻のリフティングによって形成された沖縄トラフでは、近年の地震波探査を中心とした地球物理観測により、海底下構造やリフティングに伴って発生する多様な地殻変動が複数報告されている。本講演では、発表者である新井氏が携わる沖縄トラフの海底下構造と地震活動に関する最新の研究成果をご発表頂く。(ハイライト講演とは...)

キーワード:

沖縄トラフ、背弧リフト、地震波探査、地震活動

本講演では、近年の地球物理観測から明らかとなってきた沖縄トラフの海底下構造と背弧リフティングに伴って発生する多様な地殻活動の関係についてレビューする。
 琉球海溝の背弧側に位置する沖縄トラフでは、約1000万年前に開始したとされる大陸地殻のリフティングによって、現在も様々な地殻活動が発生している。リフティングがより進行している沖縄トラフ南部では海底が北部に比べて深く、八重山海底地溝や与那国海底地溝といったリフト軸と考えられる線状の凹地形が発達している。幅約100kmの狭い海盆内には正断層が密に発達するとともに、海底火山や熱水噴出孔も多数分布している。また、地殻伸長に伴う地震活動も活発であり、歴史的には1938年宮古島北方沖地震のように、M7以上の巨大地震が地殻浅部で発生することも知られている。これら一連の地殻活動は空間的に近接して発生していることから、背弧リフティングを真因とする相互に関連した現象と考えられるものの、その背景にある構造や岩石物性については不明な点が多く、地殻活動の駆動源を含む総合的な理解にはまだ至っていない。さらに、日本の他の海域と比較して沖縄トラフにおける地震・津波・火山の災害リスク評価は遅れており、それらに資する地球物理学的調査の充実が望まれている。
 海洋研究開発機構は2013年以降「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」の一環として、琉球海溝から沖縄トラフにいたる複数の島弧横断測線において大規模な地震波構造探査を実施してきた(Arai et al., 2016; Arai et al., 2017b)。また、本稿著者らの研究グループは2021年および2023-2024年に白鳳丸による共同利用航海を活用し、反射法地震探査を始めとする各種の地球物理観測を沖縄トラフ南部で実施した(Otsubo et al., in prep)。これらの調査で明らかになった重要な知見として、まず八重山海底地溝直下の貫入体構造が挙げられる。反射断面で確認されるこの貫入体は幅数kmの筒状構造をなし,その上端は海底面近傍まで到達している。また、周囲の堆積層より地震波速度が高くかつ透明な領域としてイメージングされることから、散乱強度の高いダイク等で主に構成されていると考えられる。八重山海底地溝内に位置する八重山海丘では高温の熱水噴出が発見されていることから、こうした貫入体が熱水噴出と関係している可能性が高い。貫入体の構造は八重山海底地溝に沿った方向にも大きく変化することもわかった。地溝帯の中央部で見られる成熟した貫入体とは対照的に、地溝帯の端ではその幅は狭い、もしくは堆積層相当の深度では存在が確認できない。こうした構造変化に対応するように、地震活動度にも場所ごとの違いが見られる(Arai, 2021)。つまり、地溝帯の中央部より端において正断層型の地震が活発である。これらの観測事実から、地溝帯の中央部から端に向かってダイクが進展しており、それに伴う応力集中によって地震活動が駆動されていることが示唆される。
 本発表では、上記に加えて、与那国海底地溝のリフト構造、石垣海丘周辺の火山性の構造(Arai et al., 2017a)、および沖縄トラフ南部と北部のリフトシステムの違い(Arai et al., 2018)についても言及する予定である。

引用文献
Arai et al. (2016) Nature Com, 7, 12255
Arai et al. (2017a) JGR-SE, 122, 622–641
Arai et al. (2017b) GRL, 44, 6109-6115
Arai et al. (2018) EPS, 70, 61
Arai (2021) EPS, 73, 160
Otsubo et al. (in prep) Cold rifting genesis in the Okinawa Trough: Crustal thinning in absence of magmatism.

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