講演情報

[T1-O-1]長崎変成岩野母ユニットにおける泥質片岩の曹長岩化過程:pulverizationとreaction-enhanced permeability

*森 康1、黒木(佐藤) 直子、重野 未来1、西山 忠男2 (1. 北九州市立自然史・歴史博物館、2. 熊本大学)
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キーワード:

流体移動、交代作用、浸透性、長崎変成岩、沈み込み帯

長崎変成岩野母ユニットの三和累層は、主に泥質片岩と苦鉄質片岩からなる低温高圧変成岩であり、下位の蛇紋岩と衝上断層を介して接している(宮崎・西山 1989)。泥質片岩のフェンジャイトK–Ar年代は90–70 Maである(Hattori & Shibata 1982; Nishimura 1998)。泥質片岩の炭質物ラマン地質温度計は約470℃のピーク変成温度を示す。
 三和累層と蛇紋岩の衝上断層付近では、泥質片岩が帯状に曹長岩化している。この曹長岩化帯は厚さにより異なった産状を示す:厚さ10 cm未満のものは細脈や小断層に沿った漸移的な白色化帯、厚さ1 m程度のものは漸移的な白色化帯を伴う塊状曹長岩層、厚さ2 m以上のものは漸移的な白色化帯のない塊状曹長岩層である。塊状曹長岩層には肉眼的な空隙が多くあり、顕微鏡下でpulverization(微粉砕)された緑簾石の粒子を特徴的に含む厚さ約100µmの粉砕層が発達する。全岩化学組成にもとづく組成–体積関係は、曹長岩化に伴う数%の固体体積減少を示す。
 以上の知見は、衝上断層の活動時に下盤の蛇紋岩から上盤の損傷帯(三和累層)に反応性流体が浸透し、泥質片岩の曹長岩化が生じたことを示す。初期の浸透は粉砕層を通じて生じたと考えられる。この段階での流体の流量は小さかったと思われるが、pulverizationは曹長岩化の前駆現象として流路の形成に重要な役割を果たしただろう。泥質片岩と流体の交代反応(=曹長岩化)が始まると、固体体積減少を主な原因としたreaction-enhanced permeabilityにより流体の流量が増加し、曹長岩化が自己促進されたと考えられる。この例は、pulverizationとreaction-enhanced permeabilityが岩石の浸透性を制御し、沈み込みコンプレックスにおける流体移動と浸透交代作用を助長する可能性を示す。

Hattori H & Shibata K 1982, Bull Geol Surv Japan 33: 57–84; 宮崎一博・西山忠男 1989, 地質学論集 33: 217–236; Nishimura Y 1998, JMG 16: 129–140

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