講演情報

[T1-O-3]高圧変成蛇紋岩中の変成かんらん石を切る極細粒含水かんらん岩マイクロベインの成因とその地質学的意義:青海メランジュの例★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★

*志関 弘平1、辻森 樹1 (1. 東北大学)
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キーワード:

変成蛇紋岩、変成かんらん石、マイクロベイン、高圧変成作用、飛騨外縁帯

収束プレート境界においてマントルウェッジを構成する蛇紋岩及び含水かんらん岩は、密度差を駆動力とした物質の流れだけでなく、スラブから放出された水流体や炭素の貯蔵、あるいは、蛇紋岩の脱水による元素移動にも大きな影響を与える。つまり、これらの超苦鉄質岩はレオロジー特性の変化など動力学的な重要性と、地球化学的なそれの両方を備え持つ。  
本研究では、海洋プレート沈み込みの2D動力学的モデリング (志関・辻森, 2024 JpGU) の高精度化を目的に、エクロジャイト相に達したスラブ物質を伴う飛騨外縁帯の青海蛇紋岩メランジュの青海川沿いに分布する超苦鉄質岩の記載岩石学的な特徴を調査した。調査対象の蛇紋岩は、アンチゴライトを含む変成蛇紋岩を主とし、局所的に炭酸塩岩化を被り低密度化しているものがある。アンチゴライト蛇紋岩は主として、アンチゴライト+磁鉄鉱+マグネサイト±緑泥石から構成され、一部の蛇紋岩では、蛇紋岩化前の粗粒かんらん岩の組織が残存し、アンチゴライトと共存する変成かんらん石を含む。先行研究では、ダナイト起源と考えられる蛇紋岩中のクロム鉄鉱岩脈を構成するクロム鉄鉱の化学組成と初生的な角閃石の存在から、蛇紋岩の原岩がメルト成分に枯渇した典型的な前弧域マントルを起源とすることが提案されている (辻森, 2004)。蛇紋岩にはまれに、幅数センチ未満の角閃岩の脈が見出され、蛇紋岩化の以前にすでに含水環境にあったことが示唆される。転石も含めて変成かんらん石を保持した試料を解析したところ、粗粒の変成かんらん石 (数 mm) を切る幅100 μm程度の「極細粒の含水かんらん岩マイクロベイン」が複数発見された(図1)。同マイクロベインを含む変成かんらん岩の鉱物組み合わせは、変成かんらん石 (Fo89)+アンチゴライト+緑泥石で少量のトレモラ閃石を伴い稀に透輝石を含む。粗粒の変成かんらん石は一見、プロトグラニュラー組織のように見えるが、アンチゴライトを伴い、まれに劈開状に発達したアンチゴライトも存在する。マイクロベインは他形から半自形のかんらん石 (Fo89)を主としたグラニュラー組織を呈し、板状のアンチゴライトと少量のトレモラ閃石 (Na2O= 1–2 wt%) を含む。EBSDによる解析では、マイクロベイン中の極細粒かんらん石は弱い定向配列をなしており、そのC軸が再結晶脈の伸張方向とおおむね一致していた。
「細粒含水かんらん岩マイクロベイン」の反射電子像から計算で推定した全岩組成をもちいて相平衡モデリングを行った結果、マイクロベインの鉱物組み合わせは温度約580–620℃、圧力1.9 GPa以下で安定である。蛇紋岩の鉱物組み合わせは圧力依存性をあまり示さないため、変成圧力の下限を制約することは難しいが、蛇紋岩中にひすい輝石岩が存在することから変成圧力はJd=Ab+Neの反応線より高圧側と推定される。また、Yamada et al. (2019) により報告された、ホウ素同位体組成の低さからも蛇紋岩が沈み込み帯深部由来であることが示唆されており、変成圧力は1.1–1.9 GPaと推定される。この値は青海地域のエクロジャイトの変成条件1.8–2.0 GPa、550–600℃ (Tsujimori, 2002; Yoshida et al., 2021) とも整合的であり、エクロジャイト相に相当する沈み込み帯深部領域において本脈が形成されたことを示す。本講演では、「細粒含水かんらん岩マイクロベイン」その成因と地質学的な意義について報告を行う。

【引用文献】
志関・辻森, JpGU Meeting 2024, MIS23-P06.
Tsujimori (2002) Int. Geol. Rev., 44, 797–818.
辻森 (2004) 地質雑, 110, 591–597.
Yamada et al. (2019) J. Mineral. Petrol. Sci., 114, 290–295.
Yoshida et al. (2021) J. Metamorph. Geol., 39, 77–100.

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