講演情報
[T1-O-7][招待講演]レーザーアブレーションICP質量分析法に基づくマルチ変成年代学研究の展開
*仁木 創太1、吉田 健太2、沢田 輝3、大柳 良介4、平田 岳史5 (1. 名古屋大学、2. 海洋研究開発機構、3. 富山大学、4. 国士舘大学、5. 東京大学)
【ハイライト講演】本セッションの招待講演である.講演者は,これまで新しい年代測定技術の開発に取り組んでこられた.講演では,変成作用の年代を推定するための LA-ICP-MS 分析の基礎から,変成岩への適用事例や最新の鉱物の年代測定手法の紹介がなされる.(ハイライト講演とは...)
キーワード:
LA-ICP-MS、U–Pb年代測定法、柘榴石、チタン石
局所同位体比分析法の開発と普及に伴い、岩石薄片上で組織観察しながら鉱物粒子ごと、あるいは鉱物粒子内の成長組織ごとに年代測定を実施することが一般的になった1)。組織観察と年代分析箇所の照合は、正確な鉱物の年齢決定を可能とするだけでなく、鉱物の年齢と岩石学・鉱物学的な議論に基づき推定される鉱物形成条件の紐づけを可能とした。そして鉱物の年齢と鉱物形成条件の双方が明らかになることで、鉱物の年齢と地質現象の時期の対応関係をより明確に捉えることができるようになった。
現在、多段階の火成・変成作用を経た岩石の形成過程解明の上で様々な鉱物種・同位体年代系を活用したマルチ年代学研究が盛んに行われている。マルチ年代学研究において、局所同位体比分析法の中でも特にレーザーアブレーションICP質量分析法(LA-ICP-MS)が用いられることが多い。LA-ICP-MSは非スペクトル干渉(i.e., マトリクス効果)を抑えた多元素分析を実施でき2)、この特長は親核種と子孫核種で異なる元素の同時測定が必要な(すなわち元素比分析が必要な)年代測定において、分析の正確性を高める観点で重要である。そして近年では年代標準となるマトリクス合致参照物質が充実していない鉱物種や同位体年代系に関しても信頼できる年代データが得られつつあり、新たな年代測定法の開発が絶えず進展している3)。
最近の研究では、U濃度はごくわずか(1 µg g-1未満)であるが初生Pb濃度はさらに低い(1 ng g-1未満)低U濃度・高U/Pb鉱物(柘榴石・イルメナイトなど)のU–Pb年代学に焦点が当たっている4, 5)。これらの鉱物のU–Pb年代測定はLA-ICP-MSの高感度化により実際の応用研究が進みつつある。たとえば発表者らの研究グループでは高速多点紫外フェムト秒レーザーアブレーション法6, 7)やデイリー型検出器を搭載した多重検出方式のICP質量分析装置8, 9)の実用化により、僅かな試料体積の分析であっても高いシグナルバックグラウンド比でPb同位体信号を計測できるようになった。
以上の局所同位体比分析技術の応用として発表者らのこれまでの研究では、低U濃度・高U/Pb鉱物である柘榴石に着目して石灰質変成岩からピーク変成時の年代情報取得に成功している10)。また同一の岩石に産するチタン石から柘榴石とは異なるU–Pb年代が得られており、殊に三波川帯に属する五良津東部岩体に産する高圧変成石灰岩のチタン石からは約200 Maの先三波川変成作用に関する記録を読み解くことができた11)。この柘榴石とチタン石を組み合わせたマルチ年代学研究は、従来年代制約が困難であった岩相から新たな年代情報を得る手法として、広く変成年代学研究に応用できる可能性がある。
本発表では年代測定やLA-ICP-MSの基礎から石灰質変成岩に対するマルチ年代学の応用研究までを概説する。変成柘榴石のU–Pb年代学研究も発表者らの研究開始当初は世界に先んじたものであったが、現在はドイツを中心に応用研究が急速に発展しており、国際的には最早コモンな手法と言っても過言ではない。この国際的な研究の潮流の中で、日本独自の同位体比分析技術の開発を進め、即時に地質学への応用研究を展開していく両輪が不可欠である。以上を踏まえ、発表の最後に今後の展望に関して述べる。
References
1) D. Rubatto, J. Hermann. Geol. 29: 3, 2001.
2) J. Koch et al., J. Anal. At. Spectrom. 21: 932–940, 2006.
3) A. Simpson et al. Geochron. 4: 353–372, 2022.
4) S. Seman et al. Chem. Geol. 460: 106–116, 2017.
5) J. M. Thompson et al. J. Anal. At. Spectrom. 36: 1244–1260, 2021.
6) T. D. Yokoyama et al. Anal. Chem. 83: 8892–8899, 2011.
7) Y. Makino et al. J. Anal. At. Spectrom. 34: 1794–1799, 2019.
8) H. Obayashi et al. J. Anal. At. Spectrom. 32: 686–691, 2017.
9) K. Hattori et al. J. Anal. At. Spectrom. 32: 88–95, 2017.
10) S. Niki et al. J. Miner. Petrol. Sci. 117: 2022.
11) K. Yoshida et al. Lithos. 398–399: 106349, 2021.
現在、多段階の火成・変成作用を経た岩石の形成過程解明の上で様々な鉱物種・同位体年代系を活用したマルチ年代学研究が盛んに行われている。マルチ年代学研究において、局所同位体比分析法の中でも特にレーザーアブレーションICP質量分析法(LA-ICP-MS)が用いられることが多い。LA-ICP-MSは非スペクトル干渉(i.e., マトリクス効果)を抑えた多元素分析を実施でき2)、この特長は親核種と子孫核種で異なる元素の同時測定が必要な(すなわち元素比分析が必要な)年代測定において、分析の正確性を高める観点で重要である。そして近年では年代標準となるマトリクス合致参照物質が充実していない鉱物種や同位体年代系に関しても信頼できる年代データが得られつつあり、新たな年代測定法の開発が絶えず進展している3)。
最近の研究では、U濃度はごくわずか(1 µg g-1未満)であるが初生Pb濃度はさらに低い(1 ng g-1未満)低U濃度・高U/Pb鉱物(柘榴石・イルメナイトなど)のU–Pb年代学に焦点が当たっている4, 5)。これらの鉱物のU–Pb年代測定はLA-ICP-MSの高感度化により実際の応用研究が進みつつある。たとえば発表者らの研究グループでは高速多点紫外フェムト秒レーザーアブレーション法6, 7)やデイリー型検出器を搭載した多重検出方式のICP質量分析装置8, 9)の実用化により、僅かな試料体積の分析であっても高いシグナルバックグラウンド比でPb同位体信号を計測できるようになった。
以上の局所同位体比分析技術の応用として発表者らのこれまでの研究では、低U濃度・高U/Pb鉱物である柘榴石に着目して石灰質変成岩からピーク変成時の年代情報取得に成功している10)。また同一の岩石に産するチタン石から柘榴石とは異なるU–Pb年代が得られており、殊に三波川帯に属する五良津東部岩体に産する高圧変成石灰岩のチタン石からは約200 Maの先三波川変成作用に関する記録を読み解くことができた11)。この柘榴石とチタン石を組み合わせたマルチ年代学研究は、従来年代制約が困難であった岩相から新たな年代情報を得る手法として、広く変成年代学研究に応用できる可能性がある。
本発表では年代測定やLA-ICP-MSの基礎から石灰質変成岩に対するマルチ年代学の応用研究までを概説する。変成柘榴石のU–Pb年代学研究も発表者らの研究開始当初は世界に先んじたものであったが、現在はドイツを中心に応用研究が急速に発展しており、国際的には最早コモンな手法と言っても過言ではない。この国際的な研究の潮流の中で、日本独自の同位体比分析技術の開発を進め、即時に地質学への応用研究を展開していく両輪が不可欠である。以上を踏まえ、発表の最後に今後の展望に関して述べる。
References
1) D. Rubatto, J. Hermann. Geol. 29: 3, 2001.
2) J. Koch et al., J. Anal. At. Spectrom. 21: 932–940, 2006.
3) A. Simpson et al. Geochron. 4: 353–372, 2022.
4) S. Seman et al. Chem. Geol. 460: 106–116, 2017.
5) J. M. Thompson et al. J. Anal. At. Spectrom. 36: 1244–1260, 2021.
6) T. D. Yokoyama et al. Anal. Chem. 83: 8892–8899, 2011.
7) Y. Makino et al. J. Anal. At. Spectrom. 34: 1794–1799, 2019.
8) H. Obayashi et al. J. Anal. At. Spectrom. 32: 686–691, 2017.
9) K. Hattori et al. J. Anal. At. Spectrom. 32: 88–95, 2017.
10) S. Niki et al. J. Miner. Petrol. Sci. 117: 2022.
11) K. Yoshida et al. Lithos. 398–399: 106349, 2021.
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