講演情報
[T1-O-9]鳥取県若桜のザクロ石角閃岩に伴われるトロニエム岩の年代と成因
*高橋 瑞季1、遠藤 俊祐1、亀井 淳志1 (1. 島根大学)
キーワード:
ザクロ石角閃岩、トロニエム岩、古生代
はじめに
ザクロ石角閃岩の部分融解は,造山帯の下部地殻や海洋地殻の高温沈み込み(沈み込み開始直後や若いスラブの沈み込み)において発生しうる重要なプロセスである.北米カタリナ島や南米パタゴニアなど,世界のいくつかの沈み込み型変成帯では,ザクロ石角閃岩とトーナル岩~トロニエム岩の組合せが,沈み込んだ海洋地殻の部分融解を示すと解釈されている(Angiboust et al., 2017など).鳥取県東部の若桜地域の蛇紋岩中からも,ザクロ石角閃岩とトロニエム岩の組合せが報告されており,ザクロ石角閃岩の部分融解によりトロニエム岩が形成された可能性が示された(髙橋・遠藤, 2023).本発表では,新たに両岩石の全岩化学分析およびトロニエム岩中のジルコンU-Pb年代測定を行い,両岩石の起源と年代について検討した.
地質概略
若桜地域では,約300Maの変成年代をもつ高P/T型変成岩の蓮華変成岩(志谷層)と,その構造的上位を占める大江山オフィオライト相当の超苦鉄質岩類が分布する(Nishimura and Shibata, 1989).志谷層の泥質片岩は緑泥石帯からザクロ石帯への累進変成作用を示し,一部に青色片岩相の鉱物組合せをもつ苦鉄質片岩を伴う(Kabir and Takasu, 2021).超苦鉄質岩類は原岩の組織を残す塊状蛇紋岩から面構造の強く発達した片状蛇紋岩まで変化する.片状蛇紋岩により志谷層と隔てられた泥質片岩(灰曹長石-黒雲母帯相当)中に,ザクロ石角閃岩およびトロニエム岩が複数枚のレイヤーとして産する.
岩石記載
ザクロ石角閃岩は,優黒質部とそれを切る少量の優白質部からなる.優黒質部は主に自形のザクロ石(~15 vol%),褐色角閃石(>60 vol%),チタナイトにより構成される.優黒質部のザクロ石斑状変晶は昇温期の累帯構造を保持し,多量の斜長石,石英,ルチル,緑れん石を包有する.優白質部は斜長石,石英,白雲母,ゾイサイト,緑れん石,チタナイトにより構成される.優白質部のザクロ石は自形の輪郭を残して斜長石+石英に置換された「ゴースト」となっている.トロニエム岩はマイロナイト化しており,粗粒の斜長石,白雲母,ゾイサイトと細粒化した石英を主とし,構成鉱物はザクロ石角閃岩を切る優白質部と同様である.
全岩化学組成とジルコンU-Pb年代
ザクロ石角閃岩はSiO2-Nb/Y図において,玄武岩~玄武岩質安山岩組成のサブアルカリ岩である.また,Ti-V図などの判別図でMORB領域にプロットされる.トロニエム岩はSiO2 = 70.5-77.8 wt%,Na2O+K2O = 7.3-8.9 wt%,MgO = 0.23-0.58wt%の組成範囲をもつ.ザクロ石角閃岩(Y = 29-37 ppm, Zr = 137-80 ppm)に比較して,トロニエム岩(Y = 0.3-2 ppm, Zr = 12-35 ppm)はYやZrに枯渇し,高Sr/Y比(171-639)のアダカイト的な特徴を示した.
トロニエム岩のジルコン含有率は低いが,回収されたジルコン粒子はオシラトリー累帯をもつ.測定した30粒子はいずれもコンコーダントな年代を示した.最も古い1粒子を除く加重平均年代は340.3±2.0 Ma (MSWD = 1.8)となり,これらジルコンのTh/U比は0.00-0.05であった.一方,最も古い1粒子の年代は399.5±17.0 Ma(Th/U = 0.31)であった.
考察
若桜地域のザクロ石角閃岩は,MORB類似の全岩組成から火山弧下部地殻ではなく沈み込んだ海洋地殻起源と考えられる.また,トロニエム岩はザクロ石角閃岩の部分融解によるアダカイト質メルト起源の可能性がある.しかしザクロ石角閃岩から推定されるピーク温度(660-700℃:髙橋・遠藤2023)は含水ソリダス付近であるため,トロニエム岩はメルト起源と流体起源の双方の可能性が残る.トロニエム岩から得られた340 Maのジルコンは,低いTh/U比から流体起源を示唆する.だが,この年代値は蓮華変成作用の年代と重複しており,志谷層の青色片岩相変成作用とほぼ同時期に,ザクロ石角閃岩とトロニエム岩が形成されるような高温沈み込みを想定することになる.一点ではあるが,火成ジルコンとみなしうる高Th/U比のジルコンが約400 Maの年代値を示すことから,トロニエム岩がメルト起源であった場合,ザクロ石角閃岩の部分融解は400 Ma頃に起こった可能性がある.
文献: Angiboust et al. (2017) Gondwana Res., 42, 104-125; Kabir and Takasu (2021) Earth Sci. 75, 19-32; Nishimura and Shibata (1989) Mem. Geol. Soc. Japan, 33, 343-357; 髙橋・遠藤 (2023), 日本地質学会第130年学術大会講演要旨, T2-O-06
ザクロ石角閃岩の部分融解は,造山帯の下部地殻や海洋地殻の高温沈み込み(沈み込み開始直後や若いスラブの沈み込み)において発生しうる重要なプロセスである.北米カタリナ島や南米パタゴニアなど,世界のいくつかの沈み込み型変成帯では,ザクロ石角閃岩とトーナル岩~トロニエム岩の組合せが,沈み込んだ海洋地殻の部分融解を示すと解釈されている(Angiboust et al., 2017など).鳥取県東部の若桜地域の蛇紋岩中からも,ザクロ石角閃岩とトロニエム岩の組合せが報告されており,ザクロ石角閃岩の部分融解によりトロニエム岩が形成された可能性が示された(髙橋・遠藤, 2023).本発表では,新たに両岩石の全岩化学分析およびトロニエム岩中のジルコンU-Pb年代測定を行い,両岩石の起源と年代について検討した.
地質概略
若桜地域では,約300Maの変成年代をもつ高P/T型変成岩の蓮華変成岩(志谷層)と,その構造的上位を占める大江山オフィオライト相当の超苦鉄質岩類が分布する(Nishimura and Shibata, 1989).志谷層の泥質片岩は緑泥石帯からザクロ石帯への累進変成作用を示し,一部に青色片岩相の鉱物組合せをもつ苦鉄質片岩を伴う(Kabir and Takasu, 2021).超苦鉄質岩類は原岩の組織を残す塊状蛇紋岩から面構造の強く発達した片状蛇紋岩まで変化する.片状蛇紋岩により志谷層と隔てられた泥質片岩(灰曹長石-黒雲母帯相当)中に,ザクロ石角閃岩およびトロニエム岩が複数枚のレイヤーとして産する.
岩石記載
ザクロ石角閃岩は,優黒質部とそれを切る少量の優白質部からなる.優黒質部は主に自形のザクロ石(~15 vol%),褐色角閃石(>60 vol%),チタナイトにより構成される.優黒質部のザクロ石斑状変晶は昇温期の累帯構造を保持し,多量の斜長石,石英,ルチル,緑れん石を包有する.優白質部は斜長石,石英,白雲母,ゾイサイト,緑れん石,チタナイトにより構成される.優白質部のザクロ石は自形の輪郭を残して斜長石+石英に置換された「ゴースト」となっている.トロニエム岩はマイロナイト化しており,粗粒の斜長石,白雲母,ゾイサイトと細粒化した石英を主とし,構成鉱物はザクロ石角閃岩を切る優白質部と同様である.
全岩化学組成とジルコンU-Pb年代
ザクロ石角閃岩はSiO2-Nb/Y図において,玄武岩~玄武岩質安山岩組成のサブアルカリ岩である.また,Ti-V図などの判別図でMORB領域にプロットされる.トロニエム岩はSiO2 = 70.5-77.8 wt%,Na2O+K2O = 7.3-8.9 wt%,MgO = 0.23-0.58wt%の組成範囲をもつ.ザクロ石角閃岩(Y = 29-37 ppm, Zr = 137-80 ppm)に比較して,トロニエム岩(Y = 0.3-2 ppm, Zr = 12-35 ppm)はYやZrに枯渇し,高Sr/Y比(171-639)のアダカイト的な特徴を示した.
トロニエム岩のジルコン含有率は低いが,回収されたジルコン粒子はオシラトリー累帯をもつ.測定した30粒子はいずれもコンコーダントな年代を示した.最も古い1粒子を除く加重平均年代は340.3±2.0 Ma (MSWD = 1.8)となり,これらジルコンのTh/U比は0.00-0.05であった.一方,最も古い1粒子の年代は399.5±17.0 Ma(Th/U = 0.31)であった.
考察
若桜地域のザクロ石角閃岩は,MORB類似の全岩組成から火山弧下部地殻ではなく沈み込んだ海洋地殻起源と考えられる.また,トロニエム岩はザクロ石角閃岩の部分融解によるアダカイト質メルト起源の可能性がある.しかしザクロ石角閃岩から推定されるピーク温度(660-700℃:髙橋・遠藤2023)は含水ソリダス付近であるため,トロニエム岩はメルト起源と流体起源の双方の可能性が残る.トロニエム岩から得られた340 Maのジルコンは,低いTh/U比から流体起源を示唆する.だが,この年代値は蓮華変成作用の年代と重複しており,志谷層の青色片岩相変成作用とほぼ同時期に,ザクロ石角閃岩とトロニエム岩が形成されるような高温沈み込みを想定することになる.一点ではあるが,火成ジルコンとみなしうる高Th/U比のジルコンが約400 Maの年代値を示すことから,トロニエム岩がメルト起源であった場合,ザクロ石角閃岩の部分融解は400 Ma頃に起こった可能性がある.
文献: Angiboust et al. (2017) Gondwana Res., 42, 104-125; Kabir and Takasu (2021) Earth Sci. 75, 19-32; Nishimura and Shibata (1989) Mem. Geol. Soc. Japan, 33, 343-357; 髙橋・遠藤 (2023), 日本地質学会第130年学術大会講演要旨, T2-O-06
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