講演情報
[T7-O-2]鹿児島県甑島の中新世岩脈の全岩化学組成と火成活動の位置付けの検討
*新正 裕尚1、藤内 智士2、折橋 裕二3、金指 由維3、佐々木 実3、淺原 良浩4 (1. 東京経済大学、2. 高知大学、3. 弘前大学、4. 名古屋大学)
キーワード:
西南日本、中新世、沖縄トラフ、岩脈、瀬戸内火山岩
鹿児島県串木野の西方沖合の東シナ海にある甑島諸島には中新世の活動と見られる貫入岩が広く分布する.主に花崗閃緑岩からなる岩体が上甑島,下甑島に貫入しており,特に下甑島の岩体は東西3–4 km,南北10 kmにおよぶ.近年のジルコンU-Pb年代測定により上甑島,下甑島の岩体とも約10 Maに形成されたことが明らかになった(Shinjoe et al., 2021; 礼満ほか, 2021).一方,甑島諸島には多数の中間質〜珪長質の岩脈が貫入している(藤内ほか, 2008).これらの岩脈の全岩化学分析結果を報告し,既報の放射年代を参照して甑島の中新世火成活動のテクトニックな位置付けについて議論する. 岩脈の方位について藤内ほか(2008)は北西-西北西走向をもつ岩脈群(以下NW岩脈),北北東-北東走向をもつ岩脈群(以下NE岩脈)に大別し,貫入関係からNW岩脈のほうが古い貫入時期とした.また,藤内ほか(2008)は,安山岩岩脈は北西走向のものが,デイサイト・石英斑岩岩脈は北北東走向のものが卓越することを指摘している.今回両岩脈群試料について蛍光X線分析により全岩化学組成を求めた.試料はTonai et al. (2011)で取り扱われた上甑島から下甑島北部の海岸に露出するものである.NW岩脈の組成は玄武岩質安山岩からデイサイトにおよぶが,全体として安山岩質のものが卓越する.一方NE岩脈の組成は玄武岩質安山岩から流紋岩までにおよぶが,ややSr/Y比の高いデイサイト組成のものが卓越する.これらの大局的な特徴は藤内ほか(2008)による岩相と岩脈方位の対応と整合的である.NW岩脈の安山岩の中にFeO*/MgO<1でCr, Niにとみ高Mg安山岩に分類されるものが見られる.新正ほか(2002)は下甑島の花崗閃緑岩から高Mg安山岩類似の組成をもつ火成包有物を報告したが,独立した岩脈を構成する岩石として見出された.NW岩脈の中で高Mg安山岩組成の試料の一つはTonai et al. (2011)により14.7 ± 0.4 Maの黒雲母K-Ar年代が報告されたものである.この年代は瀬戸内火山岩類の活動時期と重複している.甑島の北東約50 kmに近接する天草地域の中新世火成岩類について,Ushimaru and Yamaji (2022)は岩脈・岩床の方位に基づく古応力解析から, Shinjoe et al. (2024)は珪長質火成岩のジルコンU-Pb年代(14.5–14.8 Ma)および全岩組成から瀬戸内火山岩類との対比を主張している.本報告での観察は,瀬戸内火山岩類の活動域がさらに甑島地域まで延長する可能性を示唆する.一方NE岩脈については,Tonai et al. (2011)により7.0 ± 0.6 Maの角閃石K-Ar年代が報告されている.また,NE岩脈と類似した組成をもつ下甑島南部のデイサイト岩脈についてShinjoe et al. (2021)は花崗閃緑岩の貫入岩体の年代と区別できない9.85 ± 0.15 MaのジルコンU-Pb年代を報告している.Tonai et al. (2011)はNW岩脈の古地磁気偏角が西偏し,NE岩脈の古地磁気偏角に明確な偏角の振れが見られないことから,両者の活動の間に当地域が反時計回りのブロック回転を被ったことを指摘した.ブロック回転のトリガーとなった北東・南西走向のF2断層群の活動は中新世の北部沖縄トラフ拡大に伴う伸長場(Sibuet et al., 1995など)との関連が指摘されている(大岩根ほか, 2007; Tonai et al., 2011).これらの岩脈群の放射年代データを再検討することで,ブロック回転の時期,すなわち北部沖縄トラフの活動史をより拘束できる可能性がある.文献:大岩根ほか(2007)堆積学研究, 64, 137–141.; 礼満ほか(2021)鹿児島県地学会誌, 117, 1–7.; 新正ほか (2002) 東経大人文自然科学論集, 114, 13–24.; Shinjoe et al.(2021) Island Arc, 30, e12383.; Shinjoe et al.(2024) Island Arc, 33, e12506.;Sibuet et al. (1995) In B. Taylor (ed.), Back arc basins, 343–379, Springer.; 藤内ほか(2008)地質雑, 114, 547–559.; Tonai et al. (2011) Tectonophys., 497, 71–84.; Ushimaru & Yamaji (2022) J. Struct. Geol., 154, 104485.
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