講演情報

[T7-O-3]室戸半島,四万十帯古第三系室戸半島層群のテクトニクス再考

*原 英俊1、松元 日向子2、藤内 智士3 (1. 産業技術総合研究所 地質情報研究部門、2. 大日本ダイヤコンサルタント株式会社、3. 高知大学)
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キーワード:

四万十帯、室戸半島層群、付加体、古第三紀、砂岩

四国東部の室戸半島では,四万十帯に属する始新統〜中新統付加体が広く分布する(平ほか,1980).このうち始新統〜下部漸新統は室戸半島層群(大山岬層・奈半利川層・佐喜浜メランジュ・室戸層),上部漸新統〜下部中新統は菜生層群(日沖メランジュ・津呂層・坂本メランジュ・岬層・四十寺山層)と呼ばれている(Hibbard et al., 1992, 君波,2016).今回,両層群において,砂岩・玄武岩の化学組成,砂岩・珪長質凝灰岩のジルコンU-Pb年代,炭質物ラマン温度計による温度構造を検討した.そして,室戸半島層群の佐喜浜メランジュと室戸層のテクトニクスについて,再検討を要する以下のことが明らかになった. 
 佐喜浜メランジュは,多色泥岩や砂岩を含む泥質岩優勢なメランジュからなり,模式地の佐喜浜や羽根川流域で,奈半利川層の構造的下位に広く分布する.本メランジュからは,中期〜後期始新世を示す放散虫化石年代が報告されている(平ほか,1980).今回,羽根川河口に分布する凝灰岩より,中期始新世のジルコンU–Pb年代を得た.また佐喜浜メランジュは,釣の口や奥郷で,室戸層に挟在して分布することが知られている.今回,釣の口に分布する凝灰岩より,漸新世中頃のジルコンU–Pb年代を得た.この年代値は,佐喜浜メランジュの形成年代である中期〜後期始新世より明らかに若い年代を示す.そのため釣の口や奥郷に分布するメランジュについては,佐喜浜メランジュより分離し,漸新世中頃のメランジュとして再定義する必要がある.また玄武岩の化学組成は,佐喜浜メランジュではE-MORB,漸新世のメランジュではE-MORBとN-MORBの特徴を示す.両メランジュでは,含有されている玄武岩について,異なる特徴が認められる. 
 室戸層は砂岩泥岩互層を主体とし主部をなすA部層と,分布域南端の泥質岩優勢なB部層に区分されている(平ほか,1980).A部層からは,後期始新世〜前期漸新世を示唆する放散虫化石年代が報告され,凝灰岩のジルコンU–Pb年代として前期漸新世が得られた.上述の漸新世の底付けされたメランジュに対し,室戸層群は海底地すべり堆積物を含む付加体浅部を構成する漸新統に相当する.なお室戸層B部層については,菜生層群に属する可能性も指摘されている(平ほか,1980).室戸半島層群と菜生層群の砂岩の化学組成を検討した結果,SiO2に対し,Al2O3,Sr,Y,Vなどで負の相関が認められた.そして砂岩のSiO2含有量は,室戸半島層群では約80wt%以上,四十寺山層を除く菜生層群では約80%以下からなる特徴を示す.B部層の砂岩化学組成は,SiO2含有量が80%以下で,菜生層群の砂岩に類似する.またB部層の砂岩より得られた砕屑性ジルコンの最若クラスターU–Pb年代は後期漸新世を示し,菜生層群の日沖メランジュ砂岩の最若クラスターU–Pb年代に類似する.すなわち砂岩の特徴から,B部層は日沖メランジュに対比されるといえる. 
 従来,室戸半島層群と菜生層群の境界は椎名―奈良師断層と呼ばれ,断層を挟んで温度構造変化が認められるout-of-sequence thrustとされた.ビトリナイト反射率から推定された温度は,室戸半島層群で平均約285℃,菜生層群で約195℃と,約90℃の温度差が認められている(Underwood et al., 1993).室戸層B部層が日沖メランジュに対比されることから,椎名―奈良師断層は日沖メランジュ中に発達したout-of-sequence thrustであるといえる.また炭質物ラマン温度計による温度構造解析では,断層を挟んだ上盤と下盤の温度差は従来より小さい約60℃が見積もられた.

文献:君波,2016,6.四万十帯.日本地方地質誌7 四国地方,203-248. Hibbard et al., 1992,Island Arc, 1, 133-147. 平ほか,1980,四万十帯の地質学と古生物学-甲藤次郎教授還暦記念論文集,319-389. Underwood et al., 1993, GSA Spe. Pap. 273, 151-168.

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