講演情報

[T13-O-22]アラビア湾南岸地域の浅海性炭酸塩プラットフォーム堆積物に記録された白亜紀中期の湿潤化と堆積・初期続成作用

*山本 和幸1、高柳 栄子2、アルジュネイビ マリアム3、アルファルファン ザハラ3、栗田 裕司5、佐藤 時幸4、辻 喜弘1、井龍 康文2 (1. 株式会社INPEX、2. 東北大学、3. ADNOC Offshore、4. 秋田大学、5. 新潟大学)
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キーワード:

白亜紀中期、炭酸塩プラットフォーム、湿潤化、堆積・初期続成作用、アラビア湾南岸地域

アラビア湾南岸地域には、白亜紀を通じて浅海性炭酸塩プラットフォーム堆積物が厚く堆積している。これらの堆積物は、地下深部の油田の岩石コア試料や陸上の露頭で観察可能であり、古くから研究されてきた。本研究の研究対象であるアラブ首長国連邦アブダビ沖に位置する油田では、白亜紀中期のセノマニアン階炭酸塩プラットフォーム堆積物が貯留岩を形成しているが、同貯留岩は、他の層位区間の白亜系堆積物と比較して岩相が多様で、貯留岩性状が極めて不均質である。また、炭質頁岩の挟在が認められ、これはアラビア湾南岸地域の白亜系層序の中でも稀な事例である。このような不均質な岩相・貯留岩性状の成因や分布を明らかにするために、油田内の坑井で得られた岩石コア試料や物理検層データを用い、岩相解析、化学分析、微化石抽出などの包括的な検討を実施した。
検討した坑井が位置するエリアは、炭酸塩プラットフォームの頂部から斜面、陸棚内堆積盆地の沖合までの広い範囲を網羅している。プラットフォーム頂部の坑井では、厚歯二枚貝化石を含むバイオストロームが厚く発達しており、これは沖合に向かって大型生砕物の量を減じながら、有機物と浮遊性有孔虫化石に富む陸棚内堆積盆地の深海性堆積物に側方変化する。プラットフォーム頂部で厚く堆積する厚歯二枚貝のバイオストロームの最上部では、黒色の炭質頁岩を伴う坑井が多数認められる。この炭質頁岩は植物片に富み、シダ植物の胞子化石や渦鞭毛藻化石が含まれている。炭質頁岩の上位と下位の炭酸塩堆積物の炭素・酸素・ストロンチウム同位体比組成および微量元素濃度には差異が無く、岩相の違いも認められないことから、この炭質頁岩は、厚歯二枚貝が生息する浅海環境に隣接した海浜の塩性湿地で堆積し、軽微な海進・海退イベントで炭酸塩プラットフォーム堆積物に塩性湿地堆積物が挟在したものと考えられる。
一方、この炭質頁岩が集中的に分布する炭酸塩プラットフォームの頂部では、炭酸塩堆積物がカルスト化による溶脱やセメンテーションを不規則に被っている。カルスト化による角礫化や古土壌の挟在、埋没後の化学圧密でスタイロライトが発達している岩相が多く認められる。角礫化している岩相には炭質頁岩の角礫も多く含まれている。これらのカルスト化の程度は、炭酸塩プラットフォームの頂部から沖合に向かって減少する傾向が認められる。また、炭酸塩プラットフォーム頂部において炭酸塩プラットフォーム堆積物の最上部を水平に掘削した坑井の物理検層データの解析から、同堆積物の層位区間内に、その上位を不整合で覆うコニアシアン階海成頁岩が見出された。これは、同海成頁岩の堆積時あるいは堆積後に、セノマニアン階炭酸塩プラットフォーム堆積物内のカルスト化により形成されていた洞窟が崩落し、上位の同海成頁岩が構造的に落ち込んできたものと解釈され、実際の水平坑井で得られたカッティングス試料でも同海成頁岩が確認された。
油田内の坑井の岩石コア試料から採取された多数のコアプラグの薄片観察結果、および孔隙率・浸透率の測定データをコンパイルしたところ、孔隙率・浸透率のトレンドは初生的な堆積相だけでなく、堆積後のカルスト化による溶解・セメンテーション・フラクチャー形成などの続成作用により大きく改変されており、その改変の度合いは、淡水レンズが発達したプラットフォームの頂部で大きく、その外側のエリアでは小さいことが分かった。
以上より、地球環境が極めて温暖であったと考えられている白亜紀中期において、セノマニアン期のアラビア湾南岸地域では湿潤化が強まり、陸化した炭酸塩プラットフォーム上の一部では植生が発達し、それらは炭質頁岩として堆積した。この湿潤化によりカルスト化が顕著に進んだ結果、炭酸塩プラットフォーム堆積物よりなる貯留岩の分布・性状に大きな不均質性が生まれたことが分かった。

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