講演情報
[T6-O-10]ジルコン中メルト包有物を用いた花崗岩質マグマのメルト含水量・圧力解析
*齊藤 哲1、谷脇 由華2、川島 泰地1 (1. 愛媛大学理工学研究科、2. 株式会社シアテック)
キーワード:
花崗岩、メルト包有物、ジルコン、含水量、圧力
1. はじめに
メルト包有物はマグマ溜まり中で成長する鉱物中に周囲のメルトが取り込まれたものであり、メルトの化学組成や含水量といった情報を保持している。花崗岩中のメルト包有物はマグマ冷却中の結晶化により不均質な多相包有物となっているため、その組成分析のために高温高圧実験による包有物の均質化(ガラス化)がおこなわれている。石英中のメルト包有物については、均質化実験中のホスト鉱物からの混染によるSiの増加や、流体との反応によるNaの増加といったメルト組成の改変が指摘されている(Frezzotti, 2001 Lithos)。これに対し、ジルコンに含まれるメルト包有物は、均質化実験中のホスト鉱物からの混染が限定的であり(Gudelius et al., 2020 Geochim Cosmochim Acta)、また変質に強いジルコンはメルト包有物の改変を妨げるため、メルトの組成情報を復元するために適した研究対象である(Thomas et al. 2003 Rev Mineral Geochem)。一方、ガラス中の含水量についてSEM-EDSを用いた見積り方法が提案されており(下司ほか, 2017火山)、さらにメルトの主要元素組成を用いた地質圧力計を適用することで、ジルコン中メルト包有物のSEM-EDS分析から含水量と圧力の解析が可能となっている(Kawashima et al., under revision J Mineral Petrol Sci)。本発表では、花崗岩に含まれるジルコン中メルト包有物について、SEM-EDS分析により得られたメルト組成と含水量および圧力見積もりの結果について報告する。なお、均質化実験の手法はTaniwaki et al. (2023 Lithos)に、含水量見積もり手法は下司ほか(2017 火山)に従った。
2. 実験試料
研究に使用した試料は、(1)白亜紀領家帯柳井地域に産する黒雲母花崗閃緑岩(蒲野花崗閃緑岩)、(2)新第三紀伊豆衝突帯甲斐駒ヶ岳岩体の角閃石黒雲母花崗閃緑岩、(3)新第三紀外帯花崗岩類御内岩体の黒雲母花崗岩である。(1)蒲野花崗閃緑岩は、領家変成岩の構造に調和的に貫入し、その境界近傍では変成岩がミグマタイト様を呈する。ジルコン試料採集地点近傍の変成岩からはおよそ529〜420 MPaの圧力が見積もられており(Ikeda, 2004 Contrib Mineral Petrol)、中部地殻相当程度の深度に貫入したものと考えられる。(2)甲斐駒ヶ岳岩体は四万十帯中に貫入し、周囲の岩石に接触変成作用を与えている。当岩体については角閃石Al圧力計からおよそ310〜220 MPaの圧力が見積もられており、上〜中部地殻相当の深度に貫入した岩体と考えられる(Watanabe et al., 2020 J Mineral Petrol Sci)。(3)御内岩体は四万十帯中に貫入し、周囲の岩石に接触変成作用を与えている。岩体中には晶洞など浅所貫入を示唆する産状が認められる。ジルコン中メルト包有物の主要元素組成を用いた地質圧力計から166〜80 MPaの圧力が見積もられており、地殻浅所に貫入した岩体と考えられる(Taniwaki et al., 2023 Lithos)。
3. 結果と考察
3.1. ジルコンの産状とメルト組成・含水量
(1) 蒲野花崗閃緑岩試料中のジルコンは、主要鉱物の粒間に多く認められた。メルト包有物のSiO2含有量は無水換算で76〜79 wt%、含水量は6.4〜11.3 wt%であった。(2) 甲斐駒ヶ岳岩体試料中のジルコンは、主要鉱物の粒間や黒雲母のリム部に包有されるものが多く、まれに角閃石に包有されるものも認められた。メルト包有物のSiO2含有量は無水換算で78〜79 wt%、含水量は4.8〜9.0 wt%であった。(2)御内岩体試料中のジルコンは、主要鉱物の粒間に多く認められた。メルト包有物のSiO2含有量は無水換算で77〜79 wt%、含水量は2.4〜6.6 wt%であった。本研究で使用した3試料とも、メルト包有物のSiO2含有量が高く、鉱物粒間の分化したメルトを包有物として取り込んだものと考えられる。このことはジルコンが主成分鉱物の粒間やリム部に認められることと調和的である。
3.2. 圧力見積もり
メルト包有物の組成を用い、MagMaTaB地質圧力計(Weber and Blundy, 2024 J Petrol)を用いた圧力検討を行った。その結果、蒲野花崗閃緑岩試料からは563~266 MPa、甲斐駒ヶ岳岩体試料からは303~185 MPa、御内岩体試料からは235〜92 MPaの圧力が得られた。メルト包有物組成から得られた含水量と圧力は、含水量-圧力図上において、ハプロ花崗岩メルトの含水飽和曲線に沿ってプロットされる(図)。このことから、ジルコンが包有した際の花崗岩質マグマ中のメルトは、ほぼ含水飽和状態であったと考えられる。このように、ジルコン中のメルト包有物の均質化実験とSEM-EDS分析により、花崗岩質マグマ中のメルトの含水量と圧力の情報を得ることが可能である。
メルト包有物はマグマ溜まり中で成長する鉱物中に周囲のメルトが取り込まれたものであり、メルトの化学組成や含水量といった情報を保持している。花崗岩中のメルト包有物はマグマ冷却中の結晶化により不均質な多相包有物となっているため、その組成分析のために高温高圧実験による包有物の均質化(ガラス化)がおこなわれている。石英中のメルト包有物については、均質化実験中のホスト鉱物からの混染によるSiの増加や、流体との反応によるNaの増加といったメルト組成の改変が指摘されている(Frezzotti, 2001 Lithos)。これに対し、ジルコンに含まれるメルト包有物は、均質化実験中のホスト鉱物からの混染が限定的であり(Gudelius et al., 2020 Geochim Cosmochim Acta)、また変質に強いジルコンはメルト包有物の改変を妨げるため、メルトの組成情報を復元するために適した研究対象である(Thomas et al. 2003 Rev Mineral Geochem)。一方、ガラス中の含水量についてSEM-EDSを用いた見積り方法が提案されており(下司ほか, 2017火山)、さらにメルトの主要元素組成を用いた地質圧力計を適用することで、ジルコン中メルト包有物のSEM-EDS分析から含水量と圧力の解析が可能となっている(Kawashima et al., under revision J Mineral Petrol Sci)。本発表では、花崗岩に含まれるジルコン中メルト包有物について、SEM-EDS分析により得られたメルト組成と含水量および圧力見積もりの結果について報告する。なお、均質化実験の手法はTaniwaki et al. (2023 Lithos)に、含水量見積もり手法は下司ほか(2017 火山)に従った。
2. 実験試料
研究に使用した試料は、(1)白亜紀領家帯柳井地域に産する黒雲母花崗閃緑岩(蒲野花崗閃緑岩)、(2)新第三紀伊豆衝突帯甲斐駒ヶ岳岩体の角閃石黒雲母花崗閃緑岩、(3)新第三紀外帯花崗岩類御内岩体の黒雲母花崗岩である。(1)蒲野花崗閃緑岩は、領家変成岩の構造に調和的に貫入し、その境界近傍では変成岩がミグマタイト様を呈する。ジルコン試料採集地点近傍の変成岩からはおよそ529〜420 MPaの圧力が見積もられており(Ikeda, 2004 Contrib Mineral Petrol)、中部地殻相当程度の深度に貫入したものと考えられる。(2)甲斐駒ヶ岳岩体は四万十帯中に貫入し、周囲の岩石に接触変成作用を与えている。当岩体については角閃石Al圧力計からおよそ310〜220 MPaの圧力が見積もられており、上〜中部地殻相当の深度に貫入した岩体と考えられる(Watanabe et al., 2020 J Mineral Petrol Sci)。(3)御内岩体は四万十帯中に貫入し、周囲の岩石に接触変成作用を与えている。岩体中には晶洞など浅所貫入を示唆する産状が認められる。ジルコン中メルト包有物の主要元素組成を用いた地質圧力計から166〜80 MPaの圧力が見積もられており、地殻浅所に貫入した岩体と考えられる(Taniwaki et al., 2023 Lithos)。
3. 結果と考察
3.1. ジルコンの産状とメルト組成・含水量
(1) 蒲野花崗閃緑岩試料中のジルコンは、主要鉱物の粒間に多く認められた。メルト包有物のSiO2含有量は無水換算で76〜79 wt%、含水量は6.4〜11.3 wt%であった。(2) 甲斐駒ヶ岳岩体試料中のジルコンは、主要鉱物の粒間や黒雲母のリム部に包有されるものが多く、まれに角閃石に包有されるものも認められた。メルト包有物のSiO2含有量は無水換算で78〜79 wt%、含水量は4.8〜9.0 wt%であった。(2)御内岩体試料中のジルコンは、主要鉱物の粒間に多く認められた。メルト包有物のSiO2含有量は無水換算で77〜79 wt%、含水量は2.4〜6.6 wt%であった。本研究で使用した3試料とも、メルト包有物のSiO2含有量が高く、鉱物粒間の分化したメルトを包有物として取り込んだものと考えられる。このことはジルコンが主成分鉱物の粒間やリム部に認められることと調和的である。
3.2. 圧力見積もり
メルト包有物の組成を用い、MagMaTaB地質圧力計(Weber and Blundy, 2024 J Petrol)を用いた圧力検討を行った。その結果、蒲野花崗閃緑岩試料からは563~266 MPa、甲斐駒ヶ岳岩体試料からは303~185 MPa、御内岩体試料からは235〜92 MPaの圧力が得られた。メルト包有物組成から得られた含水量と圧力は、含水量-圧力図上において、ハプロ花崗岩メルトの含水飽和曲線に沿ってプロットされる(図)。このことから、ジルコンが包有した際の花崗岩質マグマ中のメルトは、ほぼ含水飽和状態であったと考えられる。このように、ジルコン中のメルト包有物の均質化実験とSEM-EDS分析により、花崗岩質マグマ中のメルトの含水量と圧力の情報を得ることが可能である。
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