講演情報
[T15-O-1]南部北上帯西縁の前期古生代変成岩類からの砕屑性ジルコンU–Pb年代とその古地理学的意義
*鈴木 敬介1、栗原 敏之2、原 英俊1、石川 賢一3、大槻 丈瑛4、植田 勇人2 (1. 産業技術総合研究所地質調査総合センター、2. 新潟大学理学部地質科学プログラム、3. 旭鉱末株式会社、4. 東日本旅客鉄道株式会社)
キーワード:
砕屑性ジルコン、南部北上帯、ゴンドワナ、Terra Australis造山帯
近年,ジルコンU–Pb年代測定がアジア大陸東縁域で幅広く実施され,南中国地塊東縁,中央アジア造山帯東端の微小地塊群(Jiamusi–Khanka–Bureya地塊),西南・東北日本の各古期岩類の同時代性が明らかにされた [1].これらが本来,同一の大陸基盤として発達したとする新たな枠組みが提案され,’原日本’の初期形成史が見直され始めている [2].しかし,アジアの諸地塊群・島弧が前期古生代にゴンドワナ大陸北東縁に沿ったプロトテチス海あるいは古太平洋のいずれかの沈み込み帯 [3] の影響を受けたことを考慮すると,現状の原日本の形成論には再解釈の余地がある.すなわち,ゴンドワナ大陸北東縁の分裂以前における原日本と他地塊群の具体的な復元位置を確定させ,相互の関連性を議論する必要がある.
ここで演者らは東北日本の南部北上帯に着目した.本地帯西縁の下部古生界は松ヶ平―母体変成岩類とそれらを不整合で覆う合の沢層・鳶ヶ森層で構成され [4],後者の地層からはゴンドワナ大陸北東縁や南中国地塊との古生物地理学的関連性を示唆する後期デボン紀の植物化石(Leptophloeum)が産出する [5].南部北上帯西縁の下部古生界から砕屑性ジルコンを抽出し,その供給源となった原岩を探索することは,前期古生代におけるゴンドワナ大陸北東縁に沿った原日本と他地塊群との間の古地理学的関連性を明らかにする上で重要となる.
本発表では,松ヶ平―母体変成岩類の砂質・珪質片岩からの砕屑性ジルコンU–Pb年代とその古地理学的意義について紹介する.各試料のU–Pb年代スペクトラは480–470 Ma,650–550 Ma,1300–900 Maのピークを有する.480–470 Maの岩体は日本と南中国地塊東縁ではあまり報告がないが,Jiamusi地塊南縁では476 Maの花崗岩・変成岩類が認められる [6].しかし,Jiamusi地塊からの砕屑性ジルコンU–Pb年代は650–550 Maのピークを示さず,最も卓越するピークは950–800 Maである [7].また,南中国地塊東縁からの砕屑性ジルコンU–Pb年代は1300–900 Maの卓越したピークを有するが,650–550 Maのピークは小規模である [8].これらの傾向はゴンドワナ大陸北東縁の中でもインド北部-オーストラリア西部側,すなわちプロトテチス海沿いの沈み込み帯に位置した地塊群で顕著である [9, 10].一方,ゴンドワナ大陸北東縁と古太平洋との間で発達したTerra Australis造山帯(特に,オーストラリア東部)では,480–470 Maの花崗岩・変成岩とともに,650–550 Maと1300–900 Maの両ピークが卓越する砕屑性ジルコンU–Pb年代について多くの報告がある [11, 12].これらの比較を基に総合的に解釈すると,原日本と南中国地塊–Jiamusi地塊はゴンドワナ大陸の初期形成時において,古太平洋とプロトテチス海のそれぞれ異なる領域に復元される.
引用文献: [1] Isozaki (2019). Isl. Arc, 28, e12296. [2] Isozaki (2023). Geological Society, London, Special Publications, 533, 505–517. [3] Metcalfe (2021). Gondwana Res., 100, 87–130. [4] Ehiro et al. (2016). The Geology of Japan. Geological Society, London., pp. 25–60. [5] Saito and Hashimoto (1982). J. Geophys. Res.: Solid Earth, 87, 3691–3696. [6] Yang et al. (2023a). Int. Geol. Rev., 65, 1289–1319. [7] Ovchinnikov et al. (2019). J. Asian Earth Sci., 172, 393–408. [8] Yao et al. (2011). Gondwana Res., 20, 553–567. [9] Chen et al. (2021). GSA Bulletin, 133, 1947–1963. [10] Yang et al. (2023b). GSA Bulletin, 136, 861–879. [11] Purdy et al. (2016). Gondwana Res., 39, 41–56. [12] Dirks et al. (2021). Lithos, 398, 106343.
ここで演者らは東北日本の南部北上帯に着目した.本地帯西縁の下部古生界は松ヶ平―母体変成岩類とそれらを不整合で覆う合の沢層・鳶ヶ森層で構成され [4],後者の地層からはゴンドワナ大陸北東縁や南中国地塊との古生物地理学的関連性を示唆する後期デボン紀の植物化石(Leptophloeum)が産出する [5].南部北上帯西縁の下部古生界から砕屑性ジルコンを抽出し,その供給源となった原岩を探索することは,前期古生代におけるゴンドワナ大陸北東縁に沿った原日本と他地塊群との間の古地理学的関連性を明らかにする上で重要となる.
本発表では,松ヶ平―母体変成岩類の砂質・珪質片岩からの砕屑性ジルコンU–Pb年代とその古地理学的意義について紹介する.各試料のU–Pb年代スペクトラは480–470 Ma,650–550 Ma,1300–900 Maのピークを有する.480–470 Maの岩体は日本と南中国地塊東縁ではあまり報告がないが,Jiamusi地塊南縁では476 Maの花崗岩・変成岩類が認められる [6].しかし,Jiamusi地塊からの砕屑性ジルコンU–Pb年代は650–550 Maのピークを示さず,最も卓越するピークは950–800 Maである [7].また,南中国地塊東縁からの砕屑性ジルコンU–Pb年代は1300–900 Maの卓越したピークを有するが,650–550 Maのピークは小規模である [8].これらの傾向はゴンドワナ大陸北東縁の中でもインド北部-オーストラリア西部側,すなわちプロトテチス海沿いの沈み込み帯に位置した地塊群で顕著である [9, 10].一方,ゴンドワナ大陸北東縁と古太平洋との間で発達したTerra Australis造山帯(特に,オーストラリア東部)では,480–470 Maの花崗岩・変成岩とともに,650–550 Maと1300–900 Maの両ピークが卓越する砕屑性ジルコンU–Pb年代について多くの報告がある [11, 12].これらの比較を基に総合的に解釈すると,原日本と南中国地塊–Jiamusi地塊はゴンドワナ大陸の初期形成時において,古太平洋とプロトテチス海のそれぞれ異なる領域に復元される.
引用文献: [1] Isozaki (2019). Isl. Arc, 28, e12296. [2] Isozaki (2023). Geological Society, London, Special Publications, 533, 505–517. [3] Metcalfe (2021). Gondwana Res., 100, 87–130. [4] Ehiro et al. (2016). The Geology of Japan. Geological Society, London., pp. 25–60. [5] Saito and Hashimoto (1982). J. Geophys. Res.: Solid Earth, 87, 3691–3696. [6] Yang et al. (2023a). Int. Geol. Rev., 65, 1289–1319. [7] Ovchinnikov et al. (2019). J. Asian Earth Sci., 172, 393–408. [8] Yao et al. (2011). Gondwana Res., 20, 553–567. [9] Chen et al. (2021). GSA Bulletin, 133, 1947–1963. [10] Yang et al. (2023b). GSA Bulletin, 136, 861–879. [11] Purdy et al. (2016). Gondwana Res., 39, 41–56. [12] Dirks et al. (2021). Lithos, 398, 106343.
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