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[T15-O-2]三重県志摩半島の黒瀬川帯における後期ペルム紀付加体の認定

*内野 隆之1 (1. 産総研地質調査総合センター)
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キーワード:

後期ペルム紀、付加体、黒瀬川帯、志摩半島、三重県

紀伊半島東部の志摩半島は北から,三波川帯,秩父帯北帯,黒瀬川帯,秩父帯南帯,四万十帯に地帯区分されている.特に本地域の黒瀬川帯には,先ジュラ紀の黒瀬川古期岩類や前期白亜紀の汽水成層だけでなく,ジュラ紀付加体も産し,それらがサンドイッチ状に繰り返して分布する複雑な地質構造を呈している(第1図).黒瀬川古期岩類は,蛇紋岩,細粒斑れい岩,石英閃緑岩,角閃岩,後期三畳紀以前の結晶片岩,デボン紀及び後期ペルム紀の浅海成層からなる(内野ほか,2017).鳥羽市の砥谷海岸の北ルートでは,前期白亜紀汽水成層(松尾層),ジュラ紀付加体(青峰コンプレックス),約200 Maの結晶片岩(砥谷コンプレックス)が良く観察できる(内野ほか,2017).なかでも,ルート中央部に産する付加体露頭は,泥質基質中に玄武岩,石灰岩や砂岩がレンズ状に取り込まれている典型的な混在相を示し(第2図),しばしば巡検地になっているほか(坂ほか,1999),三重県立博物館ではその写真が巨大パネルとして常設展示されている.玄武岩類や石灰岩の岩塊を特徴的に含むこの付加体露頭は,砂岩やチャートの岩塊を主に含む青峰コンプレックスの一般的な岩相とはやや異なっており,その岩相の特徴からペルム紀の付加体に対比できる可能性が指摘されている(磯﨑ほか,1992;杉山ほか,1993).そこで,演者は本混在岩中の砂岩岩塊2試料から砕屑性ジルコンを抽出し,U-Pb年代測定を行った.その結果,ともに後期ペルム紀の最若クラスター年代を示すことが明らかになった.ここの砂岩岩塊からはかつてYamagiwa and Saka(1972)によってLepidolina kumaensisYabeina columbianaなどのペルム紀の紡錘虫化石が発見され,本地質単元を「鳥羽層群」として別個に定義されたこともあった.ただし,紡錘虫化石が再堆積によるものである可能性も示されている(坂,1988).これらの化石に加え,今回,砂岩岩塊から後期ペルム紀のジルコン年代が得られたことは,本混在岩が後期ペルム紀の付加体である可能性を示唆するものである.志摩半島の黒瀬川帯では,後期ペルム紀の浅海成層は認定されていたが(内野・鈴木,2016),同時代の付加体だとすると,志摩半島では初の認定になる.黒瀬川帯における後期ペルム紀の付加体は,九州,四国,紀伊半島東部から更に志摩半島にかけて連続して分布することになる.

[文献]
磯﨑行雄・橋口孝泰・板谷徹丸, 1992, 黒瀬川クリッペの検証.地質雑, 98, 917–941.
坂 幸恭・加藤 潔・津村善博・大場穂高,1999,志摩半島の秩父帯と黒瀬川帯.日本地質学会第106年学術大会見学旅行案内書, 163–186.
坂 幸恭・手塚茂雄・岡田洋一・市川昌則・高木秀雄, 1988, 蛇紋岩メランジュ帯としての志摩半島, 五ヶ所–安楽島構造線.地質雑, 94, 19–34.
杉山和弘・小澤智生・畔柳勇生・古谷 裕, 1993, 三重県志摩半島東部のジュラ系白根崎層(新称)および白亜系松尾層群の層序と放散虫化石.大阪微化石研究会誌特別号, 9, 191–203.
内野隆之・鈴木紀毅,2016,三重県志摩半島の黒瀬川帯から見出された後期ペルム紀整然層と広域対比.地質雑,122, 207–222.
内野隆之・中江 訓・中島 礼,2017,鳥羽地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅).産総研地質調査総合センター,141p.
Yamagiwa and Saka(1972)On the Lepidolina zone discovered from the Shima Peninsula, Southwest Japan. Trans. Proc. Palaeont. Soc. Japan, N. S., no. 85, 260-274.

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