講演情報
[T15-O-6]砕屑性ジルコンのU–Pb年代から下部-中部中新統田辺層群の堆積年代を制約できるか
*安邊 啓明1、星 博幸2、羽地 俊樹3、佐藤 活志4、仁木 創太5、平田 岳史6、岩野 英樹7、檀原 徹7 (1. 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター、2. 愛知教育大学自然科学系、3. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター、4. 京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、5. 名古屋大学宇宙地球環境研究所年代測定研究部、6. 東京大学大学院理学系研究科化学専攻、7. 株式会社京都フィッション・トラック)
キーワード:
砕屑性ジルコン、ジルコンU–Pb年代、前弧海盆、田辺層群、中新世
西南日本には前期-中期中新世の前弧海盆堆積物が東西に断片的に分布している.これらの堆積物の多くは,Blow (1969) の浮遊性有孔虫化石層序におけるN8帯(約17.0–15.1 Ma; Hoshi et al., 2019; Raffi et al., 2020)に対比される一方,N9帯(約15.1–14.1 Ma; Raffi et al., 2020)を示唆する浮遊性有孔虫化石はごく限られた地域からしか産出しない.このことから,西南日本前弧域では15 Ma頃に広域的な不整合が形成されたと考えられている(尾崎,2009; Takano, 2017).しかし先行研究では,ほとんどの堆積盆で堆積終了時期ないし現存する地層の堆積時期の上限が制約されていない.そのため,前弧域で広域的な不整合が同時期に形成されたかどうかは明らかではない.紀伊半島南西部に分布する下部-中部中新統田辺層群はWade et al. (2011) のM5b帯(約16.3–15.1 Ma; Raffi et al., 2020)に対比され,16.3 Ma以降に堆積が継続していたことが判明している.本研究は,田辺層群の堆積岩試料から分離した砕屑性ジルコンのU–Pb年代を測定し,堆積時期の上限を制約することを目的とする.
8試料から分離し測定した330粒子のうち,221粒子からコンコーダントな年代値が得られた.最若粒子年代値は約19.4 Maであり,この粒子と不確かさの範囲で年代値が重複する粒子はなかった.すべてのデータをまとめると,1900–1750 Ma,290–155 Ma,115–55 Maの年代値にまとまりが見られた.
最も若い単一粒子年代値に基づくと,田辺層群の堆積年代の上限は約19.4 Maより若いと考えられる.しかしこの最若粒子年代値は,浮遊性有孔虫化石が示唆する堆積年代(約16.3 Ma以降)より古く,かつ浮遊性有孔虫化石の産出層準より上位であることから,実際の堆積年代とは乖離していると考えられる.紀伊半島周辺では15 Ma以降に噴出物を伴う火成活動が起こった(例えば,岩野ほか,2007; Shinjoe et al., 2019).本研究で測定を行った試料中にこれら火成活動起源の中期中新世ジルコンが含まれなかったことは,現存する田辺層群が15 Ma以前の堆積物であることを示唆する.砕屑性ジルコンの最若粒子年代値と浮遊性有孔虫化石の示唆する堆積時期が乖離している原因として,15 Ma以前に紀伊半島周辺では火成活動が低調だったこと(例えば,Kimura et al., 2005)が考えられる.本研究の結果は,砕屑性ジルコンの年代から推定された最大堆積年代が,その直後の後背地において火山活動が少ない場合には,実際の堆積年代と大きく乖離し得ることを示唆している.よって,砕屑性ジルコンから最大堆積年代を推定した際には,その直後の火山活動の状況を検討する必要がある.
<謝辞> 野外調査実施にあたり,2019年度深田野外調査助成,南紀熊野ジオパーク研究助成の支援を受けた.
<参考文献> Blow (1969) Proceedings of the First International Conference on Planktonic Microfossils, 199–422. Hoshi et al. (2019) Chem. Geol., 530, 119333. 岩野ほか (2007) 地質雑,113,326–339.Kimura et al. (2005) Geol. Soc. Am. Bull., 117, 969–986. 尾崎 (2009) 日本地方地質誌5, 朝倉書店, 43–61. Raffi et al. (2020) Geologic Time Scale 2020, Elsevier, 1141–1215. Shinjoe et al. (2019) Geol. Mag., doi: 10.1017/S0016756819000785. Takano (2017) Dynamics of Arc Migration and Amalgamation-Architectural Examples from the NW Pacific Margin, InTech, 1–24. Wade et al. (2011) Earth Sci. Rev., 104, 111–142.
8試料から分離し測定した330粒子のうち,221粒子からコンコーダントな年代値が得られた.最若粒子年代値は約19.4 Maであり,この粒子と不確かさの範囲で年代値が重複する粒子はなかった.すべてのデータをまとめると,1900–1750 Ma,290–155 Ma,115–55 Maの年代値にまとまりが見られた.
最も若い単一粒子年代値に基づくと,田辺層群の堆積年代の上限は約19.4 Maより若いと考えられる.しかしこの最若粒子年代値は,浮遊性有孔虫化石が示唆する堆積年代(約16.3 Ma以降)より古く,かつ浮遊性有孔虫化石の産出層準より上位であることから,実際の堆積年代とは乖離していると考えられる.紀伊半島周辺では15 Ma以降に噴出物を伴う火成活動が起こった(例えば,岩野ほか,2007; Shinjoe et al., 2019).本研究で測定を行った試料中にこれら火成活動起源の中期中新世ジルコンが含まれなかったことは,現存する田辺層群が15 Ma以前の堆積物であることを示唆する.砕屑性ジルコンの最若粒子年代値と浮遊性有孔虫化石の示唆する堆積時期が乖離している原因として,15 Ma以前に紀伊半島周辺では火成活動が低調だったこと(例えば,Kimura et al., 2005)が考えられる.本研究の結果は,砕屑性ジルコンの年代から推定された最大堆積年代が,その直後の後背地において火山活動が少ない場合には,実際の堆積年代と大きく乖離し得ることを示唆している.よって,砕屑性ジルコンから最大堆積年代を推定した際には,その直後の火山活動の状況を検討する必要がある.
<謝辞> 野外調査実施にあたり,2019年度深田野外調査助成,南紀熊野ジオパーク研究助成の支援を受けた.
<参考文献> Blow (1969) Proceedings of the First International Conference on Planktonic Microfossils, 199–422. Hoshi et al. (2019) Chem. Geol., 530, 119333. 岩野ほか (2007) 地質雑,113,326–339.Kimura et al. (2005) Geol. Soc. Am. Bull., 117, 969–986. 尾崎 (2009) 日本地方地質誌5, 朝倉書店, 43–61. Raffi et al. (2020) Geologic Time Scale 2020, Elsevier, 1141–1215. Shinjoe et al. (2019) Geol. Mag., doi: 10.1017/S0016756819000785. Takano (2017) Dynamics of Arc Migration and Amalgamation-Architectural Examples from the NW Pacific Margin, InTech, 1–24. Wade et al. (2011) Earth Sci. Rev., 104, 111–142.
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