講演情報
[T15-O-7]中新統三崎層群の小断層からみる四国南西端の中新世以降の地質構造発達史
*羽地 俊樹1、安邊 啓明2 (1. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター、2. 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)
キーワード:
小断層解析、前弧海盆、後期新生代、古応力、西南日本
前弧海盆の発達およびその後の前弧海盆堆積物の変形史は,沈み込むプレートの運動様式に強く影響を受ける.そのため西南日本の中新世以降の前弧海盆堆積物の分布域では,若いフィリピン海プレートの沈み込みと島弧テクトニクスの関係の検討を目的に層序や構造発達史に関する研究が進められている.本研究では,構造発達史の検討が遅れている三崎層群に着目する.
三崎層群は四国南西端の土佐清水地域に分布する前期~中期中新世の前弧海盆堆積物である(木村,1985;奈良ほか,2017).同層群は浅海域から陸域の堆積物から構成されるが,その層厚は3,000 mに達する.またNE-SW走向でNW方向に傾斜した単斜構造を持ち,その傾斜角は70度に至る.加えて,分布域の北西縁でNE-SW走向の三崎断層で切られ,最上位の地層が基盤と接している.これらの状況から,土佐清水地域では三崎層群の堆積期および堆積後に活発な造構運動があったことが明らかである.しかし,三崎層群では層序や堆積構造に関する研究は行われているものの,構造地質学的な研究例はほとんどない.そこで今回,三崎層群中に認められる小断層の調査を通して四国南西端の構造発達史を検討した.
海岸沿い約20 kmの踏査を実施し,1,000条を越える小断層を観察した.断層面と層理面との関係から,層理面を高角に切るgap断層(基準面を引き離す運動センスの断層,Sato, 2006),層理面を低角に切るoverlap断層(基準面を近づける運動センスの断層),層平行断層の3種類を認識した.産状の調査を通して,gap断層の形成は堆積時に開始していたこと,overlap断層および層平行断層はgap断層より後の同時期に形成したものであることがわかった.
断層スリップデータを地層の姿勢の異なる9つの地域のデータセットに分け,Hough変換法(Sato, 2006; Yamaji et al., 2006)で古応力を検討した.各地域の解析結果には,地層に直交する方向に最大圧縮主応力軸が認められる傾向があった.これは三崎層群に認められる小断層の大部分が,傾動前に正断層型応力の下でできたものであることを示す.
層平行断層の運動センスは NW-SE方向であった.層平行断層とoverlap断層が同時期に形成していることから,これらの変形はNW-SE方向の短縮変形を示唆する.この短縮方向は三崎層群の単斜構造の褶曲軸に直交しており,同構造の形成時のflexural-slipの可能性がある.また,三崎断層の走向もこれと直交しており,同断層の形成もこの短縮変形と同時期と考えて矛盾ない.
以上の結果は,三崎層群の各種の地質構造が,堆積と同時期の伸長とその後の短縮の2つのイベントで説明できることを示す.すなわち,三崎層群は正断層型応力場で発達した三崎前弧海盆を埋積した地層であり,堆積と同時期に伸長変形を被った.そして,その後に短縮変形を被り,現在の地質構造が形作られた.短縮の時期は明確ではないが,周辺の温度構造(Nishizawa and Yamamoto, 2023)・海域の地質構造(岡本ほか,1998)・第四系の分布(太田・小田切,1994)などから後期中新世もしくは第四紀の可能性が示唆される.
【引用文献】
木村,1985,地質雑,91,815‒831.奈良ほか,2017,地質雑,123,471‒489Nishizawa and Yamamoto, 2023, JpGU abstr., MIS13-10.岡本ほか,1998.1: 200,000 豊後水道南方海底地質図および同説明書.太田・小田切,1994.地学雑誌,103, 243‒267.Sato, 2006, Tectonophys., 421, 319‒330.Yamaji et al., 2006, J. Struct. Geol., 28, 980‒990.
三崎層群は四国南西端の土佐清水地域に分布する前期~中期中新世の前弧海盆堆積物である(木村,1985;奈良ほか,2017).同層群は浅海域から陸域の堆積物から構成されるが,その層厚は3,000 mに達する.またNE-SW走向でNW方向に傾斜した単斜構造を持ち,その傾斜角は70度に至る.加えて,分布域の北西縁でNE-SW走向の三崎断層で切られ,最上位の地層が基盤と接している.これらの状況から,土佐清水地域では三崎層群の堆積期および堆積後に活発な造構運動があったことが明らかである.しかし,三崎層群では層序や堆積構造に関する研究は行われているものの,構造地質学的な研究例はほとんどない.そこで今回,三崎層群中に認められる小断層の調査を通して四国南西端の構造発達史を検討した.
海岸沿い約20 kmの踏査を実施し,1,000条を越える小断層を観察した.断層面と層理面との関係から,層理面を高角に切るgap断層(基準面を引き離す運動センスの断層,Sato, 2006),層理面を低角に切るoverlap断層(基準面を近づける運動センスの断層),層平行断層の3種類を認識した.産状の調査を通して,gap断層の形成は堆積時に開始していたこと,overlap断層および層平行断層はgap断層より後の同時期に形成したものであることがわかった.
断層スリップデータを地層の姿勢の異なる9つの地域のデータセットに分け,Hough変換法(Sato, 2006; Yamaji et al., 2006)で古応力を検討した.各地域の解析結果には,地層に直交する方向に最大圧縮主応力軸が認められる傾向があった.これは三崎層群に認められる小断層の大部分が,傾動前に正断層型応力の下でできたものであることを示す.
層平行断層の運動センスは NW-SE方向であった.層平行断層とoverlap断層が同時期に形成していることから,これらの変形はNW-SE方向の短縮変形を示唆する.この短縮方向は三崎層群の単斜構造の褶曲軸に直交しており,同構造の形成時のflexural-slipの可能性がある.また,三崎断層の走向もこれと直交しており,同断層の形成もこの短縮変形と同時期と考えて矛盾ない.
以上の結果は,三崎層群の各種の地質構造が,堆積と同時期の伸長とその後の短縮の2つのイベントで説明できることを示す.すなわち,三崎層群は正断層型応力場で発達した三崎前弧海盆を埋積した地層であり,堆積と同時期に伸長変形を被った.そして,その後に短縮変形を被り,現在の地質構造が形作られた.短縮の時期は明確ではないが,周辺の温度構造(Nishizawa and Yamamoto, 2023)・海域の地質構造(岡本ほか,1998)・第四系の分布(太田・小田切,1994)などから後期中新世もしくは第四紀の可能性が示唆される.
【引用文献】
木村,1985,地質雑,91,815‒831.奈良ほか,2017,地質雑,123,471‒489Nishizawa and Yamamoto, 2023, JpGU abstr., MIS13-10.岡本ほか,1998.1: 200,000 豊後水道南方海底地質図および同説明書.太田・小田切,1994.地学雑誌,103, 243‒267.Sato, 2006, Tectonophys., 421, 319‒330.Yamaji et al., 2006, J. Struct. Geol., 28, 980‒990.
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