講演情報
[T6-P-1]滋賀県琵琶湖南部に分布する白亜紀後期野洲花崗岩体の全岩化学組成
*中村 一喜1、下岡 和也1、岡林 識起2、壷井 基裕1 (1. 関西学院大学、2. 日本大学)
キーワード:
白亜紀花崗岩、全岩化学組成、野洲花崗岩
滋賀県南部地域周辺には後期白亜紀に形成された花崗岩質岩体が環状に分布している1)。これらの花崗岩体はK-Ar年代より、100-90 Maの古期花崗岩類の鈴鹿岩体と比叡岩体、80-70 Ma前後の新期花崗岩類の比良、田上、野洲岩体に区別される2)。本研究で扱った野洲花崗岩体は、標高が高くなるにつれて下部相、主岩相、上部相に分類され、岩相分布、記載岩石学的特徴、全岩化学組成、斜長石の鉱物化学組成が報告されている1)。また、本岩体では、下部相から上部相にかけて含水量が低下することが報告されるとともに、脱ガスによる水蒸気圧力低下による過冷却が起こったとされている1)。全岩化学組成は主成分元素と一部の微量成分元素の測定が行われているのみであり1)3)、全岩化学組成に基づくマグマ溜まりプロセスの検討は行われていない。そこで、本研究では野洲花崗岩体について、全岩化学組成分析を実施し、化学組成の特徴を把握するとともに、微量成分元素組成の特徴から野洲花崗岩体のマグマ過程について考察を行った。
野洲花崗岩体から18試料採取し、蛍光X線分析装置で主成分元素10元素と微量成分元素14元素について分析を行った。SiO2は68.9-77.7 wt.%の範囲を示した。主成分元素の挙動はハーカー図上において、SiO2の増加に伴って、Fe2O3, MnO, TiO2, CaO, MgO, P2O5は明らかな減少傾向を示し、Al2O3, Na2Oはわずかに減少傾向を示し、K2Oはわずかに増加傾向を示した。また、MgOは0.1-0.3 wt.%と非常に低い値を示した。これらの結果は先行研究1)と類似している。微量成分元素は、ハーカー図上でZr, Sr, Co, Cr, VがSiO2の増加に伴い減少傾向を示し、Rbが減少傾向を示した。また、Baの含有量は下部および主岩相の多くの試料で600-800 ppmであり、上部相の試料と十二坊山頂付近の試料はおよそ400-500 ppmと低い値を示した。また、地球化学的判別図から、すべての試料はプレート内花崗岩に分類された。
野洲花崗岩体には石英中の液相包有物の存在が報告されている4)。本研究における下部および主岩相の高いBa含有量はマグマ固結時の流体相の影響によるものであると考えられる。また、Baの含有量が上部相にかけて減少することは、Baが脱ガスの際に流体相とともに取り去られたためであると考えられる。一方で、上部地殻の平均化学組成5)で規格化したパターン図上では、全ての試料が類似したパターンを示した(図1)。これらの地球化学的特徴は野洲花崗岩体が単一の珪長質マグマだまりから形成され、その後の結晶化プロセスと脱ガスにより組成を多様化させたことを示唆する。
謝辞
試料およびデータの提供をしていただきました岸上竜士氏に深く感謝申し上げます。
1) 細野・牧野 (2002), 地質学雑誌, 108, 1, 1-15
2) 沢田・板谷 (1993), 地質学雑誌, 99, 12, 975-990
3) 周琵琶湖花崗岩団体研究グループ (2005), 地球科学, 59, 89-102
4) 牧野ほか (2021), 琵博研報, 30, 123-131
5) Rudnick and Gao (2003) The crust, Elsevier-Pergamon, 3, 1-64
野洲花崗岩体から18試料採取し、蛍光X線分析装置で主成分元素10元素と微量成分元素14元素について分析を行った。SiO2は68.9-77.7 wt.%の範囲を示した。主成分元素の挙動はハーカー図上において、SiO2の増加に伴って、Fe2O3, MnO, TiO2, CaO, MgO, P2O5は明らかな減少傾向を示し、Al2O3, Na2Oはわずかに減少傾向を示し、K2Oはわずかに増加傾向を示した。また、MgOは0.1-0.3 wt.%と非常に低い値を示した。これらの結果は先行研究1)と類似している。微量成分元素は、ハーカー図上でZr, Sr, Co, Cr, VがSiO2の増加に伴い減少傾向を示し、Rbが減少傾向を示した。また、Baの含有量は下部および主岩相の多くの試料で600-800 ppmであり、上部相の試料と十二坊山頂付近の試料はおよそ400-500 ppmと低い値を示した。また、地球化学的判別図から、すべての試料はプレート内花崗岩に分類された。
野洲花崗岩体には石英中の液相包有物の存在が報告されている4)。本研究における下部および主岩相の高いBa含有量はマグマ固結時の流体相の影響によるものであると考えられる。また、Baの含有量が上部相にかけて減少することは、Baが脱ガスの際に流体相とともに取り去られたためであると考えられる。一方で、上部地殻の平均化学組成5)で規格化したパターン図上では、全ての試料が類似したパターンを示した(図1)。これらの地球化学的特徴は野洲花崗岩体が単一の珪長質マグマだまりから形成され、その後の結晶化プロセスと脱ガスにより組成を多様化させたことを示唆する。
謝辞
試料およびデータの提供をしていただきました岸上竜士氏に深く感謝申し上げます。
1) 細野・牧野 (2002), 地質学雑誌, 108, 1, 1-15
2) 沢田・板谷 (1993), 地質学雑誌, 99, 12, 975-990
3) 周琵琶湖花崗岩団体研究グループ (2005), 地球科学, 59, 89-102
4) 牧野ほか (2021), 琵博研報, 30, 123-131
5) Rudnick and Gao (2003) The crust, Elsevier-Pergamon, 3, 1-64
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