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[T6-P-2]西南日本外帯火成活動における、下部地殻の部分融解とマグマの発生: 尾鈴山酸性岩体の例

*北代 拓人1、志村 俊昭1 (1. 山口大学)
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キーワード:

西南日本外帯、尾鈴山酸性岩体、花崗岩、変成岩、ゼノリス

西南日本外帯には,広範囲に花崗岩類が分布している.これらは火山深成複合岩体として見られることが多く,これらのジルコンU-Pb年代は13.5~15.5 Maであるとされている(例えば,新正・折橋, 2017).このことから,非常に限られた期間で起こった同時多発的な火成活動であるといえる.活動時期の前後では,四国海盆の拡大(約26~15 Ma)(Okino et al., 1997)・ユーラシアプレートへの沈み込み開始・時計回り回転運動を伴う日本海拡大(約15 Ma)(Otofiji et al., 1991)といった複数のテクトニックイベントが同時に起こっている.こういった研究は多くなされているが,花崗岩マグマの成因は若いスラブ(四国海盆)の沈み込みに伴うスラブ融解か不明なマグマが熱源となる下部地殻融解であるのか,もしくはその他であるのか統一した見解を得ることはできていない.また,外帯火成活動に関連した地殻深部の変成作用の研究は,小松ほか(1991)など以降,あまり行われていない.

尾鈴山酸性岩体は,中田(1983)によると,宮崎県東部に位置する西南日本外帯花崗岩類の一単位である.主に溶結凝灰岩からなる噴出岩体が基盤の四万十帯の堆積岩を覆う形で分布しており,それらに花崗閃緑斑岩が貫入している.また,岩体南部には四万十帯の堆積岩に対して直接花崗岩が貫入している露頭も見られ,それらは堆積岩に対して接触変成作用を与えているとされる.岩体の花崗岩類中には、苦鉄質な火成岩包有物や堆積岩起源のゼノリス・スピネル包有物が見られるとされている.

本岩体の花崗岩類は,主岩体中に見られるピロタキシティック組織を示す花崗斑岩と岩体北部に岩脈として見られる深成岩の組織を示す花崗岩に分類できる.全岩化学組成はいずれも SiO2 = 66~68 wt% , ASI > 1.1とパーアルミナスな組成を示す.花崗斑岩・花崗岩岩脈の構成鉱物はほとんど同じであり,どちらも角閃石を産さず,マグマ由来の菫青石斑晶が見られる.しかし,花崗岩岩脈中にはアルカリ長石が見られるが,花崗斑岩中には見られない.
【花崗斑岩】コア部分に汚濁帯のある自形の斜長石斑晶が見られ,これらはコアからリムにかけてAnが増加する逆累帯構造を示す.また,累帯構造に沿って包有物が見られる層もあり,これらは周囲に比べてAnに非常に富む.岩体の包有物として片理面の発達した変成岩ゼノリスの他に,珪線石・スピネル包有物やザクロ石ゼノクリストが見られる.
【花崗岩岩脈】自形の斜長石斑晶や融食形を示す石英が見られ,その粒間を埋めるように他形のアルカリ長石が見られる.斜長石は逆累帯構造を示し,コア部分には離溶によると考えられるAnに乏しい部分が見られる.すべての岩体において普遍的にMMEが見られるという特徴がある.

包有物の産状や鉱物組み合わせにより,以下の火成・変成ステージを考えることが出来る.
<Stage-Ⅰa> 下部地殻が変成作用を受け部分溶融した時期.圧力条件はGASP圧力計(Shimura et al., 2023)から得られ,810~860℃で559~610 MPaである.
<Stage-Ⅰb> スピネルの出現によって定義され,Grt + Sil + Spl + Plの4相が共存する時期.圧力条件はGASpP圧力計(Shimura et al., 2023)から得られ.810~860℃で515~573 MPaである.
<Stage->ザクロ石ゼノクリストのリムが形成された時期.温度条件は,Two-Feldspar温度計(Powell & Powell, 1977)から得られ,約900℃である. 

花崗岩類のマグマが菫青石を晶出するほどのパーアルミナスな組成を示すのは,マントル由来の高温の苦鉄質マグマによって地殻の砂泥質岩が部分溶融して珪長質マグマが形成されたためと考えられる.珪線石やザクロ石ゼノクリストは,部分溶融と同時に変成作用を受けた下部地殻の変成岩由来の斑状変晶と考えられる.また,斜長石の組成やアルカリ長石の産状から,マグマだまりが形成された後に,高温の苦鉄質マグマの注入・混交・混合,もしくはマグマだまりの再加熱があったと考えられる.

文献
小松ほか (1991) 地質学会見学旅行案内書, 161–181. 中田 (1978) 地雑 84, 243–256. Nakada (1983) J. Petrol., 24, 471–494. Okino et al. (1997) Geophys. Res. Lett., 26, 2. Otofuji et al. (1991) GJI, 105, 397–405. Powell & Powell (1997) Mineral. Mag., 41, 253–256. Shimura et al. (2023) JMPS. 118, S008. 新正・折橋 (2017) 地雑 123, 423–431.

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