講演情報
[T6-P-5]ボーリング掘削調査による吾妻-浄土平火山,浄土平北火口の爆発的噴火活動史
*大津 好秋1、井村 匠1、伴 雅雄1、常松 佳恵1、長谷川 健2 (1. 山形大学、2. 茨城大学)
キーワード:
吾妻-浄土平火山、浄土平北火口、テフラ層序、噴火活動史
吾妻火山最新期の活動は山体東部の吾妻―浄土平火山(山元,2005)で生じている.1331 年噴火以降の噴出中心は一切経山南東斜面の大穴火口周辺である.一方,浄土平周辺には,大穴火口の他にも明瞭な火口地形を有する火口がいくつかある.このうち,浄土平北火口(JN 火口)は小火砕丘地形を有し,硫黄平南火口列リム上に位置している.本火口は浄土平レストハウスから極めて近く,活動履歴調査は喫緊の課題である.井上(2022MS)はJN 火口周辺の手堀り掘削調査に基づき,JN 火口に由来する噴出物を複数認識し,14C 年代測定を行った.これにより JN 火口が 1331 年以降に活動していた可能性が示されたが,JN 火口由来噴出物は側方連続性が悪く,同火口活動史は未詳である.そこで本研究では JN 火口噴火史構築を目的として,JN 火口リム部のボーリング掘削により採取したボーリングコア試料の観察,XRD 分析に加えて周辺地層観察を実施した.ボーリング掘削は JN 火口リム 1 地点にて実施し,地表より約 13 m 分のボーリングコア試料を取得した.コア試料中に産する地層の対比のため,硫黄平南火口列リム上の露頭 1 地点で露頭観察を実施した.コア中木片 1 試料の14C 年代測定とコア基質部の XRD 分析を行った.
コアは火砕堆積物 31 層と古土壌 1 層から成る.表土,リワーク,ロームを除く火砕堆積物 27 層を粒径と基質の色によって 12 ユニット(上位から順にユニット 1~12)にまとめた.ユニット 10 直下の古土壌中の木片から 1470~1635 年の 2σ 暦年代範囲を得た.ユニット 1 から 12 にかけて淘汰が悪く,粘土質基質で,灰色安山岩片,赤色火山岩片,白色変質岩片を含む.例外的にユニット 6 は淘汰が良く,ユニット 4,11 は砂質基質をもつ.また,ユニット 12 と岩相の似たアグルチネートが硫黄平南火口列リム稜線部から火口壁上部にかけて露出しており,層理面は南西傾斜である.これはJN 火砕丘の基盤とし,ユニット12 に対比した.古土壌より上位の火砕堆積物のうち,基質の多いもの(ユニット 1,3,5,7~10)を XRD 分析にかけた.全試料共通してシリカ鉱物(石英,トリディマイト,クリストバライト),斜長石を多く含み,ミョウバン石,カオリン鉱物,スメクタイトを伴う.ほぼ全ての試料に輝石が含まれる.ユニット 9,10 のみ黄鉄鉱と石膏を伴うが,先行研究ではこのような鉱物組成の層は認められていない(Imura et al.,2021;井上,2022MS).ユニット 1,3,5,10 はイライトとパイロフィライト,ユニット 7 は針鉄鉱,ユニット 8 は磁鉄鉱または磁赤鉄鉱,ユニット 9 は自然硫黄と鋭錐石を伴う.
コアと先行研究(山元,2005;Imura et al.,2021;井上,2022MS;井村ほか,2023)との対比を行った.ユニット1~3,5,8~10 はJN 火口近傍にのみ見られるかあるいは JN 火口近傍で特に層厚が厚く,JN 火口噴出物と判断した.ユニット 4,6,7 は大穴火口由来の噴出物(ユニット 7 は 1711 年噴火噴出物上部層)に対比した.年代測定結果より,JN 火口は1331 年噴火後(15 世紀後半~17 世紀前半)に活動を開始し,他火口と並行して断続的に噴火を起こしたと考えられる.JN 火口噴出物の構成物,地質学的特徴はいずれも,水蒸気噴火またはマグマ水蒸気噴火の堆積物と対応する.鉱物組成からJN 火口噴出物の給源について次のように考察する.斜長石,輝石が含まれる点は,山体の未~弱変質部あるいは噴火に直接関係したマグマ自身が破砕されたことを示唆する.シリカ鉱物,ミョウバン石,カオリン鉱物,パイロフィライト,イライト,スメクタイト,黄鉄鉱,石膏の存在は,酸性~中性変質帯を給源とした噴火であったことを示唆する.特にシリカ鉱物が多いため変質帯の中でも主に珪化帯(酸性変質帯)を破砕したと考えられる.ユニット 9 ,10 は硫化鉱物(黄鉄鉱)と硫酸塩鉱物(ミョウバン石,石膏)を含むのに対し,ユニット 1,3,5,8 は硫化鉱物を含まず,硫酸塩鉱物(ミョウバン石)のみ含む.これは、ユニット 9,10 をもたらした噴火において、硫黄に対してより還元的な変質帯が破砕されたためと考えられる.
【引用文献】
Imura et al. (2021) J. Volcanol. Geotherm. Res., 416, 1–16.
井村ほか (2023) 日本火山学会 2023 年度秋季大会講演予稿集, P49.
井上 (2022MS) 山形大学理学部理学科地球科学コース卒業論文.
山元 (2005) 地質雑, 111, 94–110.
コアは火砕堆積物 31 層と古土壌 1 層から成る.表土,リワーク,ロームを除く火砕堆積物 27 層を粒径と基質の色によって 12 ユニット(上位から順にユニット 1~12)にまとめた.ユニット 10 直下の古土壌中の木片から 1470~1635 年の 2σ 暦年代範囲を得た.ユニット 1 から 12 にかけて淘汰が悪く,粘土質基質で,灰色安山岩片,赤色火山岩片,白色変質岩片を含む.例外的にユニット 6 は淘汰が良く,ユニット 4,11 は砂質基質をもつ.また,ユニット 12 と岩相の似たアグルチネートが硫黄平南火口列リム稜線部から火口壁上部にかけて露出しており,層理面は南西傾斜である.これはJN 火砕丘の基盤とし,ユニット12 に対比した.古土壌より上位の火砕堆積物のうち,基質の多いもの(ユニット 1,3,5,7~10)を XRD 分析にかけた.全試料共通してシリカ鉱物(石英,トリディマイト,クリストバライト),斜長石を多く含み,ミョウバン石,カオリン鉱物,スメクタイトを伴う.ほぼ全ての試料に輝石が含まれる.ユニット 9,10 のみ黄鉄鉱と石膏を伴うが,先行研究ではこのような鉱物組成の層は認められていない(Imura et al.,2021;井上,2022MS).ユニット 1,3,5,10 はイライトとパイロフィライト,ユニット 7 は針鉄鉱,ユニット 8 は磁鉄鉱または磁赤鉄鉱,ユニット 9 は自然硫黄と鋭錐石を伴う.
コアと先行研究(山元,2005;Imura et al.,2021;井上,2022MS;井村ほか,2023)との対比を行った.ユニット1~3,5,8~10 はJN 火口近傍にのみ見られるかあるいは JN 火口近傍で特に層厚が厚く,JN 火口噴出物と判断した.ユニット 4,6,7 は大穴火口由来の噴出物(ユニット 7 は 1711 年噴火噴出物上部層)に対比した.年代測定結果より,JN 火口は1331 年噴火後(15 世紀後半~17 世紀前半)に活動を開始し,他火口と並行して断続的に噴火を起こしたと考えられる.JN 火口噴出物の構成物,地質学的特徴はいずれも,水蒸気噴火またはマグマ水蒸気噴火の堆積物と対応する.鉱物組成からJN 火口噴出物の給源について次のように考察する.斜長石,輝石が含まれる点は,山体の未~弱変質部あるいは噴火に直接関係したマグマ自身が破砕されたことを示唆する.シリカ鉱物,ミョウバン石,カオリン鉱物,パイロフィライト,イライト,スメクタイト,黄鉄鉱,石膏の存在は,酸性~中性変質帯を給源とした噴火であったことを示唆する.特にシリカ鉱物が多いため変質帯の中でも主に珪化帯(酸性変質帯)を破砕したと考えられる.ユニット 9 ,10 は硫化鉱物(黄鉄鉱)と硫酸塩鉱物(ミョウバン石,石膏)を含むのに対し,ユニット 1,3,5,8 は硫化鉱物を含まず,硫酸塩鉱物(ミョウバン石)のみ含む.これは、ユニット 9,10 をもたらした噴火において、硫黄に対してより還元的な変質帯が破砕されたためと考えられる.
【引用文献】
Imura et al. (2021) J. Volcanol. Geotherm. Res., 416, 1–16.
井村ほか (2023) 日本火山学会 2023 年度秋季大会講演予稿集, P49.
井上 (2022MS) 山形大学理学部理学科地球科学コース卒業論文.
山元 (2005) 地質雑, 111, 94–110.
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