講演情報
[T6-P-7]蔵王火山1895年噴火における発生源となった火山熱水系の特徴と噴火推移に対応したマグマ-熱水プロセス
*井村 匠1、大場 司2、伴 雅雄1 (1. 山形大学、2. 秋田大学)
キーワード:
蔵王火山、硫黄同位体、水蒸気噴火・マグマ水蒸気噴火
蔵王火山は,東北日本を代表する活火山の一つである。最新の1895年噴火は,水蒸気噴火からマグマ水蒸気噴火へと推移した事例であり,その噴出物には多量の硫酸塩鉱物や硫化物鉱物が含まれている。そこで,蔵王火山1895年噴火の発生源となったマグマ―熱水系の特徴と噴火推移との応答性を調べるために,同噴火噴出物および山頂直近の濁川変質帯に含まれる硫酸塩鉱物や硫化物鉱物の硫黄同位体比(δ34S)を分析した。
本研究では,蔵王火山山頂部の御釜火口湖畔に分布する1895年噴出物(Layer 1~6; Miura et al., 2012)の各層から計6試料,五色岳山体周囲の濁川変質帯より計4試料(NGA1~4;Imura et al., 2024)を採取し,これらを各種鉱物学分析および硫黄同位体分析に供した。1895年噴出物はLayer 1~6からなりいずれも白色~灰色粘土質火山灰である(Miura et al., 2012).濁川変質帯(Nigorikawa Alteration zone, NGA; Imura et al., 2024)は灰色~淡灰色粘土質岩から同色の珪化岩からなる.NGAはロバの耳岩火砕岩類の内部に(ca. 1 Ma; 伴ほか, 2015)に胚胎されており,かつ最新4000年間の活動による五色岳火砕岩類(伴ほか, 2015)に直接不整合に被覆される(Imura et al., 2024)。
採取試料について,山形大学理学部設置のXRDおよび北海道大学理学部設置のFE-SEM-EDSを併用し,硫黄含有鉱物相ならびに共生鉱物組み合わせを決定した。1895年噴出物およびNGAの各試料は,主にクリストバライト,カオリナイトからなり,硫酸塩鉱物としてミョウバン石,石膏,硫化物鉱物として黄鉄鉱を含む。NGA1~NGA4には数cmスケールの脈状自然硫黄も伴われる.1895年噴出物は主に,クリストバライトやカオリナイトを含む粘土化変質火山灰,およびクリストバライト,トリディマイトからなる珪化変質火山灰から構成され,明礬石と黄鉄鉱はそれらの単一火山灰粒子内にて細粒結晶集合体として共存する。ミョウバン石と黄鉄鉱の共生関係はNGA試料においても同様である.一方,石膏は,1895年噴出物では数mm大の遊離性自形結晶としてのみ産する。
試料中の各種硫黄含有鉱物について,段階的化学浸出を行い,鉱物毎の硫黄同位体比(δ34S)を測定した(詳細はImura et al. (2024)を参照)。1895年噴出物では,石膏のδ34Sは+3‰から+5‰,ミョウバン石のδ34Sは+9‰から+13‰,黄鉄鉱のδ34Sは約-10‰と,鉱物毎にそれぞれ異なる範囲を示している。一方,NGA1~NGA4では,石膏,自然硫黄,黄鉄鉱のδ34Sは-12‰から-9‰の範囲であるのに対し,明礬石のδ34Sは+8‰から+18‰と幅広い範囲をとる。
1895年噴出物中のミョウバン石および黄鉄鉱は,産状も含めて,NGA1~NGA4中のそれらの硫黄同位体比とほぼ同じ範囲を取ることから,濁川変質帯(NGA)起源であると考えられ,御釜火口下では濁川変質帯と同様の変質帯が発達していることが想定される。明礬石と黄鉄鉱ペア間の硫黄同位体平衡温度(Ohmoto and Lassaga, 1982)は200〜300°Cであり,これは両者が示す鉱物組み合わせとも矛盾しない。NGA中の石膏のδ34Sは,共存する黄鉄鉱と自然硫黄とほぼ一致することから,黄鉄鉱またはH2Sの地表浅部での酸化により形成した硫酸に由来するものと判断できる(Rye, 1993, 2005; Rye et al., 1992など)。一方,1895年噴出物中の石膏の値は,日本島弧の第四紀火山岩のδ34Sの範囲内(+5~+8‰, Ueda and Sakai, 1984)にほぼ収まる。NGA由来のミョウバン石,黄鉄鉱の産状との違いから非平衡である可能性も考慮すると, 1895年噴出物中の石膏は,噴火中に火道内部で形成されたマグマ性ガスの凝縮物(硬石膏)に由来しており,この硬石膏が地表浅部にて石膏へと置換されたと解釈される。この石膏(硬石膏)を指標とするとLayer 2堆積時点には既にマグマ性ガスの熱水系への供給が開始していたようである。
引用文献
伴ほか, 2015, 蔵王火山地質図;Imura et al., 2024, JVGR; Miura et al., 2012, JVGR; Rye, 1993, Econ.Geol.; Rye, 2005, Chem. Geol.; Rye et al., 1992, Econ. Geol.; Ohmoto and Lassaga, 1982, GCA; Ueda and Sakai, 1984, GCA
本研究では,蔵王火山山頂部の御釜火口湖畔に分布する1895年噴出物(Layer 1~6; Miura et al., 2012)の各層から計6試料,五色岳山体周囲の濁川変質帯より計4試料(NGA1~4;Imura et al., 2024)を採取し,これらを各種鉱物学分析および硫黄同位体分析に供した。1895年噴出物はLayer 1~6からなりいずれも白色~灰色粘土質火山灰である(Miura et al., 2012).濁川変質帯(Nigorikawa Alteration zone, NGA; Imura et al., 2024)は灰色~淡灰色粘土質岩から同色の珪化岩からなる.NGAはロバの耳岩火砕岩類の内部に(ca. 1 Ma; 伴ほか, 2015)に胚胎されており,かつ最新4000年間の活動による五色岳火砕岩類(伴ほか, 2015)に直接不整合に被覆される(Imura et al., 2024)。
採取試料について,山形大学理学部設置のXRDおよび北海道大学理学部設置のFE-SEM-EDSを併用し,硫黄含有鉱物相ならびに共生鉱物組み合わせを決定した。1895年噴出物およびNGAの各試料は,主にクリストバライト,カオリナイトからなり,硫酸塩鉱物としてミョウバン石,石膏,硫化物鉱物として黄鉄鉱を含む。NGA1~NGA4には数cmスケールの脈状自然硫黄も伴われる.1895年噴出物は主に,クリストバライトやカオリナイトを含む粘土化変質火山灰,およびクリストバライト,トリディマイトからなる珪化変質火山灰から構成され,明礬石と黄鉄鉱はそれらの単一火山灰粒子内にて細粒結晶集合体として共存する。ミョウバン石と黄鉄鉱の共生関係はNGA試料においても同様である.一方,石膏は,1895年噴出物では数mm大の遊離性自形結晶としてのみ産する。
試料中の各種硫黄含有鉱物について,段階的化学浸出を行い,鉱物毎の硫黄同位体比(δ34S)を測定した(詳細はImura et al. (2024)を参照)。1895年噴出物では,石膏のδ34Sは+3‰から+5‰,ミョウバン石のδ34Sは+9‰から+13‰,黄鉄鉱のδ34Sは約-10‰と,鉱物毎にそれぞれ異なる範囲を示している。一方,NGA1~NGA4では,石膏,自然硫黄,黄鉄鉱のδ34Sは-12‰から-9‰の範囲であるのに対し,明礬石のδ34Sは+8‰から+18‰と幅広い範囲をとる。
1895年噴出物中のミョウバン石および黄鉄鉱は,産状も含めて,NGA1~NGA4中のそれらの硫黄同位体比とほぼ同じ範囲を取ることから,濁川変質帯(NGA)起源であると考えられ,御釜火口下では濁川変質帯と同様の変質帯が発達していることが想定される。明礬石と黄鉄鉱ペア間の硫黄同位体平衡温度(Ohmoto and Lassaga, 1982)は200〜300°Cであり,これは両者が示す鉱物組み合わせとも矛盾しない。NGA中の石膏のδ34Sは,共存する黄鉄鉱と自然硫黄とほぼ一致することから,黄鉄鉱またはH2Sの地表浅部での酸化により形成した硫酸に由来するものと判断できる(Rye, 1993, 2005; Rye et al., 1992など)。一方,1895年噴出物中の石膏の値は,日本島弧の第四紀火山岩のδ34Sの範囲内(+5~+8‰, Ueda and Sakai, 1984)にほぼ収まる。NGA由来のミョウバン石,黄鉄鉱の産状との違いから非平衡である可能性も考慮すると, 1895年噴出物中の石膏は,噴火中に火道内部で形成されたマグマ性ガスの凝縮物(硬石膏)に由来しており,この硬石膏が地表浅部にて石膏へと置換されたと解釈される。この石膏(硬石膏)を指標とするとLayer 2堆積時点には既にマグマ性ガスの熱水系への供給が開始していたようである。
引用文献
伴ほか, 2015, 蔵王火山地質図;Imura et al., 2024, JVGR; Miura et al., 2012, JVGR; Rye, 1993, Econ.Geol.; Rye, 2005, Chem. Geol.; Rye et al., 1992, Econ. Geol.; Ohmoto and Lassaga, 1982, GCA; Ueda and Sakai, 1984, GCA
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