講演情報

[T7-P-1]佐渡島の花崗岩類の冷却・削剥史(速報)

*末岡 茂1、福田 将眞1、KOHN Barry2、田上 高広3 (1. 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター、2. メルボルン大学 地理・地球・大気研究科、3. 京都大学 理学研究科 地球惑星科学専攻)
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キーワード:

佐渡島、日本海東縁変動帯、反転テクトニクス、低温熱年代、(U-Th)/He法

日本海東縁変動帯は,歪の集中と活発な地震活動で特徴付けられ,北米プレートとユーラシアプレートの境界とも言われている(中村,1983)。歪は主に海底の活断層・活褶曲の変位で解消されているが,これらの多くは反転テクトニクス,すなわち日本海拡大時に活動した正断層が,約3 Ma以降の東西圧縮場の基で逆断層として再活動することで形成されている(Okamura et al., 1995)。佐渡島は,日本海東縁変動帯の活動に伴う地殻変動が陸上で観察できる数少ない場所である。更新世段丘の分布・比高や内陸活断層の活動センスからは,約30~40万年前以降,大佐渡と小佐渡がそれぞれ北西縁の逆断層運動によって南東に傾動隆起してきたと推測されている(太田,1964;太田ほか,1992)。一方,山地横断形は南東側の斜面でより急峻な非対称な地形を呈し,かつては北西側に傾動していた山地が,その後,現在のような南東傾動に変化した可能性が指摘されている(太田ほか,1992;Sakashita & Endo, 2023)。本研究では,佐渡島が東西圧縮場に転じたと考えられる約3 Ma以降の地殻変動史の変遷の制約を主な目的として,低温熱年代法の一種である(U-Th)/He法を用いて,佐渡島に分布する花崗岩類の冷却・削剥史の推定を試みた。測定試料は計4点で,小佐渡東部・岩首の後期白亜紀花崗岩,小佐渡中部・川茂の後期白亜紀花崗岩,大佐渡北西部・北鵜島の後期白亜紀花崗閃緑岩,大佐渡西部の前期中新世片部礫岩に含まれる花崗岩礫から,それぞれ採取した。ジルコン(U-Th)/He法(閉鎖温度:160~200℃)の単粒子年代は,岩首で71.8~43.4 Ma,川茂で112.7~79.9 Ma,北鵜島で96.0~52.0 Maで,各岩体の固結年代と同程度かやや若い値を示した。一方,片部の花崗岩礫では,約105 MaのジルコンU-Pb年代が報告されている(早坂ほか,2014)のに対し,34.1~11.0 Maのジルコン(U-Th)/He 年代が得られ,日本海拡大の前後での再加熱が示唆された。アパタイト(U-Th)/He法(閉鎖温度:50~80℃)の単粒子年代では,岩首で15.1~3.6 Ma,川茂で29.9~5.6 Ma,北鵜島で22.6~12.8 Ma,片部で20.7~11.9 Maの値が得られた。一般に,(U-Th)/He法の単粒子年代は古い側にずれやすいため(例えば,Fitzgerald et al., 2006; Wildman et al., 2016),最若粒子集団に着目して解釈すると,小佐渡では中部(川茂)より東岸(岩首)で若い年代が得られている。QTQt(Gallagher, 2012)を用いた熱史逆解析の結果では,この二地点では共通して,中新世に徐々に加熱された後,鮮新世頃から急冷される熱史が推定された。鮮新世以降の冷却量は岩首の方が大きいことから,小佐渡は中新世のリフティングで沈降した後,鮮新世以降に北西傾動を被るような隆起を経験していたことが推定される。一方,大佐渡の二地点では,鮮新世以降の急冷イベントは明確には認められなかった。この原因として,今回採取した二地点は,大佐渡北西側の逆断層のトレース上かやや下盤側に位置しているため,断層活動によって顕著な隆起・削剥を被らなかった可能性が考えられる。佐渡島の大半はグリンタフに覆われ花崗岩類の露出に乏しいため,新たな地点で熱年代データを取得することは容易ではないが,上記の可能性を検証するためには,大佐渡の中軸部~東斜面における熱年代データの取得が望まれる。

謝辞:本研究の一部は,科学研究費補助金(21K03730)の助成を受けたものである。

引用文献:Fitzgerald, P.G. et al., (2006) Chem. Geol., 225, 91-120; Gallagher, K. (2012) Jour. Geophys. Res., 117, B0240; 早坂康隆ほか(2014)地質学会要旨,R5-P-6; 中村一明(1983)地震研彙報,58,711-722; Okamura, Y. et al. (1995) Isl. Arc, 4, 166-181; 太田陽子(1964)地理評,37,226-242; 太田陽子ほか(1992)地学雑,101,205-224; Sakashita, A. and Endo, N. (2023) Remote Sens., 15, 729; Wildman, M. et al. (2016) Tectonics, 35, 511-545.

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