講演情報
[T7-P-2]東北日本 ペルム紀-ジュラ紀付加体における砕屑性ジルコンU-Pb年代・微量元素測定によるアジア大陸東縁部花崗岩バソリス形成・消滅史の検討
*馬場 日和子1、青木 翔吾1、内野 隆之2、福山 繭子3、昆 慶明4 (1. 秋田大学大学院 国際資源学研究科、2. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報研究部門、3. 秋田大学大学院 理工学研究科、4. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境部門)
キーワード:
砕屑性ジルコン、北部北上帯、根田茂帯、U-Pb年代
ペルム紀および三畳紀におけるアジア・ユーラシア大陸東縁部は,海洋性島弧の形成による背弧海盆の発達とそのあとの海盆閉鎖や南中国地塊と北中国地塊の衝突など,大規模なテクトニックイベントで特徴づけられる(石渡,1999:早坂ほか,1996).花崗岩バソリスを含めた弧花崗岩類の地球化学的特徴は,その当時の沈み込み帯内部の物質構造の進化を復元することができる重要な岩石記録である(Chapman et al., 2017).しかし,岩石形成以降の構造浸食による消失や断層運動に伴う再配置プロセスにより,現在陸上に残されたジュラ紀以前の岩石記録はその分布が限定的で,初生的な配置関係を復元することが難しい.付加体砕屑岩は,堆積当時に大陸最縁部に分布した岩石からの物質供給の影響を強く受けるため,それらの地球化学的解析から砕屑岩堆積当時に大陸縁辺部に分布した火成岩の情報を間接的に知ることが出来る.そこで,本研究ではペルム紀末-ジュラ紀の付加体が分布する東北日本の根田茂帯および北部北上帯の砕屑岩に着目し,それらの砕屑性ジルコンU-Pb年代や微量元素組成に基づき,過去の後背地における花崗岩バソリス形成史や沈み込み帯内部の物質構造進化史の復元を試みた.
本研究ではまず,根田茂帯において滝ノ沢ユニット砂岩(堆積年代: 後期ペルム紀-前期三畳紀)2試料から89粒子,北部北上帯において桐内コンプレックス砂岩(後期ペルム紀)3試料から187粒子,釜石コンプレックス砂岩(前期ジュラ紀)2試料から95粒子,中津川コンプレックス砂岩(前期-中期ジュラ紀)2試料から167粒子,合戦場ユニット砂岩(中期ジュラ紀)1試料から59粒子,間木平ユニット砂岩(後期ジュラ紀)1試料から115粒子のジルコンを抽出し,LA-ICP-MSを用いてU-Pb年代測定を行った.その結果,後期ペルム紀-前期三畳紀砂岩試料のU-Pb年代ヒストグラムは概して320-240Maにかけてピークを持つunimodalな分布を示し,ジュラ紀砂岩試料は,300-220Maおよび200-150Maにかけてピークを持つbimodalな分布を示した.
また,年代測定を行ったジルコンに対してLA-ICP-MSで微量元素組成を測定したところ,後期ペルム紀-前期三畳紀砂岩の330-240Maのジルコンは低いU/Yb比(0.1-0.7)を示した.一方で,ジュラ紀砂岩の同時代のジルコンは高いU/Yb比(0.7-2.0)を示し,200-150Maのジルコンにおいても高いU/Yb比(0.5-2.0)を示した.また、ジルコンを結晶化させたマグマのテクトニックセッティングを表すU/Yb-Hf 図に,本研究で得られたデータをプロットすると,後期ペルム紀-前期三畳紀砂岩のジルコンの化学組成は現在の海洋性島弧のような未成熟な地殻で形成されたマグマに特徴的なジルコン化学組成と一致し,ジュラ紀砂岩のジルコンは大陸弧のような成熟した地殻で形成されたジルコンと一致する (Barth et al., 2017).
以上の砕屑性ジルコンの年代ヒストグラムと微量元素組成から,1)後期ペルム紀-前期三畳紀付加体が形成された当時,後背地の大陸縁辺部には後期ペルム紀から前期三畳紀の花崗岩バソリスが分布し,ジュラ紀付加体形成時には後期ペルム紀から前期三畳紀および後期三畳紀からジュラ紀の花崗岩バソリスが分布していた,2) 後期ペルム紀-前期三畳紀付加体にジルコンを供給した花崗岩バソリスは,低U/Yb比を示す海洋性島弧火成活動で形成されたものであるのに対して,ジュラ紀付加体には高U/Ybを示す大陸内部の成熟した地殻物質から形成された花崗岩からジルコンが供給されていた,と考察される.現在,アジア大陸東縁部に残されている舞鶴帯南帯 (夜久野オフィオライト)は石炭紀からペルム紀にかけて形成された海洋性島弧であり (早坂ほか,1996),本研究のデータは,このような未成熟地殻がペルム紀から前期三畳紀にかけてアジア・ユーラシア大陸東縁部に大規模に分布していたが,ジュラ紀までにそれらの大部分が消滅し,それ以後の火成活動の中心は大陸側に分布していた成熟した地殻物質へと移行したことを示唆する.
【引用文献】石渡(1999), 地質学論集 52巻, 273-285; 早坂ほか(1996), テクトニクスと変成作用(原 郁夫先生退官記念論文集), 創文, 134-144; Barth et. al. (2017), AGU, Geochemistry, Geophysics, Geosystems, vol.18, Issue 10, 3576-3591; Chapman et. al. (2017), Gondwana Research, vol.48, 189-024
本研究ではまず,根田茂帯において滝ノ沢ユニット砂岩(堆積年代: 後期ペルム紀-前期三畳紀)2試料から89粒子,北部北上帯において桐内コンプレックス砂岩(後期ペルム紀)3試料から187粒子,釜石コンプレックス砂岩(前期ジュラ紀)2試料から95粒子,中津川コンプレックス砂岩(前期-中期ジュラ紀)2試料から167粒子,合戦場ユニット砂岩(中期ジュラ紀)1試料から59粒子,間木平ユニット砂岩(後期ジュラ紀)1試料から115粒子のジルコンを抽出し,LA-ICP-MSを用いてU-Pb年代測定を行った.その結果,後期ペルム紀-前期三畳紀砂岩試料のU-Pb年代ヒストグラムは概して320-240Maにかけてピークを持つunimodalな分布を示し,ジュラ紀砂岩試料は,300-220Maおよび200-150Maにかけてピークを持つbimodalな分布を示した.
また,年代測定を行ったジルコンに対してLA-ICP-MSで微量元素組成を測定したところ,後期ペルム紀-前期三畳紀砂岩の330-240Maのジルコンは低いU/Yb比(0.1-0.7)を示した.一方で,ジュラ紀砂岩の同時代のジルコンは高いU/Yb比(0.7-2.0)を示し,200-150Maのジルコンにおいても高いU/Yb比(0.5-2.0)を示した.また、ジルコンを結晶化させたマグマのテクトニックセッティングを表すU/Yb-Hf 図に,本研究で得られたデータをプロットすると,後期ペルム紀-前期三畳紀砂岩のジルコンの化学組成は現在の海洋性島弧のような未成熟な地殻で形成されたマグマに特徴的なジルコン化学組成と一致し,ジュラ紀砂岩のジルコンは大陸弧のような成熟した地殻で形成されたジルコンと一致する (Barth et al., 2017).
以上の砕屑性ジルコンの年代ヒストグラムと微量元素組成から,1)後期ペルム紀-前期三畳紀付加体が形成された当時,後背地の大陸縁辺部には後期ペルム紀から前期三畳紀の花崗岩バソリスが分布し,ジュラ紀付加体形成時には後期ペルム紀から前期三畳紀および後期三畳紀からジュラ紀の花崗岩バソリスが分布していた,2) 後期ペルム紀-前期三畳紀付加体にジルコンを供給した花崗岩バソリスは,低U/Yb比を示す海洋性島弧火成活動で形成されたものであるのに対して,ジュラ紀付加体には高U/Ybを示す大陸内部の成熟した地殻物質から形成された花崗岩からジルコンが供給されていた,と考察される.現在,アジア大陸東縁部に残されている舞鶴帯南帯 (夜久野オフィオライト)は石炭紀からペルム紀にかけて形成された海洋性島弧であり (早坂ほか,1996),本研究のデータは,このような未成熟地殻がペルム紀から前期三畳紀にかけてアジア・ユーラシア大陸東縁部に大規模に分布していたが,ジュラ紀までにそれらの大部分が消滅し,それ以後の火成活動の中心は大陸側に分布していた成熟した地殻物質へと移行したことを示唆する.
【引用文献】石渡(1999), 地質学論集 52巻, 273-285; 早坂ほか(1996), テクトニクスと変成作用(原 郁夫先生退官記念論文集), 創文, 134-144; Barth et. al. (2017), AGU, Geochemistry, Geophysics, Geosystems, vol.18, Issue 10, 3576-3591; Chapman et. al. (2017), Gondwana Research, vol.48, 189-024
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