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[T7-P-10]伊豆-小笠原弧の沈み込みと上総海盆の発達

*金子 信行1 (1. 産業技術総合研究所)
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キーワード:

上総層群、フィリピン海プレート、前弧スリバー、伊豆-小笠原弧

はじめに 南関東ガス田の貯留層は約3Ma以降に堆積した上総層群であり、その間隙水には膨大な量の微生物起源メタンとヨウ素が溶存している。ヨウ素の年間生産量は、世界の生産量の1/3に及ぶ。半減期1,570万年の129I同位体組成は初生値よりも明瞭に小さく、間隙水が上総層群よりもずっと古い時代に海水から隔離されたことを示している(Muramatsu et.al., 2001)。フィリピン海プレート(PHSP)の運動方向は、約3Maに北から北西に変わったとされ、上総層群の堆積中心も北西方向に移動したことから、PHSPとの関連が指摘されているが、その根拠は示されていなかった。ヨウ素と微生物起源メタンを含む化石海水の起源を推定するために、現在の地殻変動の水平変化などから3Ma以降の地史を復元して、上総海盆(関東堆積盆)の後背地方向への発達要因を考察した。
約3Ma以降の地殻変動 PHSP斜め沈み込みに伴う上盤プレート上の南関東・甲信地域の最近5-10年の水平変動は、PHSPと同じ北西方向であり、2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動の影響を受けていない(国土地理院, 2024)。即ち、房総半島から飛騨山脈に至る地域は、前弧スリバーとして南東から北西へと動いており、約3Maからこの方向の水平変動が継続していたと推定される。よって、南部フォッサマグナ周辺の地殻変動のみならず、飛騨山脈東縁部における黒部川花崗岩類などの隆起と爺ヶ岳・白沢天狗岳・槍穂高連峰の火山岩類の傾動(原山ほか, 2003)などの北部フォッサマグナ地域西側の地殻変動も、太平洋プレートではなくPHSP沈み込みの影響と考えられる。そして、約3Maの関東山地・丹沢ブロックは現在よりも南東側に位置していたことになる。一方、PHSPの運動から逆算すると、約3Maには現在の伊豆半島(伊豆ブロック;白浜層群)は房総半島の南側にあったと推定される。海溝を挟んで北側の陸側プレートの下には、3Ma以前の伊豆-小笠原弧の旧火山フロントが沈み込んでいたはずで、関東山地・丹沢ブロックはその西側かつ伊豆ブロックの北北西側に存在していたと推測する。約3MaにPHSPの運動方向が北西へと変わると、関東山地・丹沢ブロックも一体となって北西に移動した。その東側の旧火山フロントが沈み込んだ地域では、周囲(東西)より温度の高いリソスフェアが引き延ばされ、急速な沈降により表面に上総海盆が形成されて、現在海域に分布する上総層群最下部が堆積した。その後のPHSPの運動により、スラブの旧火山フロントも冷えながら北西へと沈み込み、地表では関東山地・丹沢ブロックも同方向へと移動した。これに伴って上総層群の最大層厚部も北西に向かって発達し(鈴木ほか, 1983;三梨ほか, 1990)、やがて浅海化した。旧火山フロントから海溝までは圧縮場であり、堆積盆地の南東側が隆起して、房総地域の上総層群は北西へと傾斜した。したがって、上盤プレート全体としては圧縮場であるが、上総海盆は北西-南東方向の伸張場であり、付加体に認められる逆断層型の前縁隆起帯は発達しなかった。現在の関東堆積盆は、地温勾配が2℃/100m以下と非常に小さいが、火山弧が沈み込んでいた三浦層群堆積時には地温勾配が高く、地下浅所での微生物活動が活発であった可能性がある。
プレート運動の原動力と運動方向の変化について沈み込んだPHSPの先端が太平洋プレートに行く手を遮られたことが、約3Maに運動方向が北から北西方向に変化した原因とされている(高橋, 2006)。一方、海溝から沈み込んだスラブによる引きずりがプレート運動の原動力であるとすれば、新たに西側に引きずり込むような成分が加わったことが原因とも考えられる。後期中新世以降の沖縄トラフのリフティングによって、ユーラシアプレートの東端が南東に移動することで琉球海溝がロールバックしたと考えると、これに起因するスラブの発達が、PHSPの運動方向を北から北西へと変化させた原因として考えられる。同様に、背弧拡大/前弧圧縮と海溝のロールバックによって成長したスラブが、引き込みよるプレートの運動方向を決めているとすれば、15Maまでの日本海の拡大による西南日本弧の時計回り回転や南側への移動が、それ以降のPHSPの北向きの移動を促したと考えられる。
文献
原山ほか(2003) 第四紀研究, 42, 127-.
国土地理院; https://mekira.gsi.go.jp/index.html (R6.6.24確認)表示地域;関東中部
三梨ほか (1990) 地質学論集, 34, 1-.
Muramatsu et al. (2001) Earth Plnet, Sci. Lett. 192, 583-.
鈴木ほか (1983) 地調月報, 34, 183-. 
高橋 (2006) 地学雑,115,116-.

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