講演情報
[T7-P-12]丹沢トーナル岩及び富士川深成岩中に発達するマイクロクラックによる古応力方向の復元
*市村 健1、冨岡 美咲2、佐藤 隆恒3、原田 尚4、高木 秀雄5 (1. 早稲田大学大学院創造理工学研究科、2. アクセンチュア株式会社、3. 公益財団法人鉄道総合技術研究所、4. 三井金属鉱業株式会社、5. 早稲田大学教育・総合科学学術院 地球科学教室)
キーワード:
古応力分析、ヒールドマイクロクラック、シールドマイクロクラック、石英、丹沢トーナル岩、富士川深成岩類
【はじめに】南部フォッサマグナ地域は,未成熟海洋性島弧である伊豆−小笠原弧と成熟した島弧である本州弧の衝突域で,その中央東側に丹沢トーナル岩,西側に富士川深成岩が分布する.
丹沢トーナル岩のジルコンU-Pb年代値は,5–4Maと報告されている (Tani et al.,2010).この貫入直後に形成されたヒールドマイクロクラック (以下,HC) ,およびその後の上昇の時期に形成されたシールドマイクロクラック (以下,SC) を用いた古応力方向の解析結果は,σHmax の方向がN-S〜NNE-SSWである (佐藤・高木,2010).一方,富士川深成岩類の,黒雲母や角閃石のK-Ar年代値は6–5Maを示し,貫入後の古応力方向の解析結果は,HC・SCともにσHmax の方向がNW-SE〜WNW-ESEに卓越する (原田・高木,2009).ただし,これらの旧来の方法 (旧岩脈法) (山路,2012)ではσHmax がσ1かσ2かを判断することは難しかった.
近年,割れ目の極投影に確率密度分布であるビンガム分布 (Bingham, 1974) をフィッティングさせることにより,異なる応力方向を複数のクラスタに分離し,σ1 , σ2 , σ3および応力比を求める方法 (以下,新岩脈法) が開拓された (Yamaji et al. 2010, Yamaji and Sato, 2011).そこで本研究では,佐藤・高木 (2010) ・原田・高木 (2009)が求めたσHmaxがσ1とσ2のどちらかであるかを明らかにするため,改めてそれぞれが用いた試料と同じ定方位試料を用いて,古応力方向の復元を行った.また両地域の応力方向に比較を行い,南部フォッサマグナ地域で新第三紀以降に起こった,伊豆-小笠原弧と本州弧との衝突に関わる古応力方向について考察する.
【手法】手法として,直交3方向の厚い薄片を作成し,石英粒子内部に観察されるHC,SCの走向・傾斜を,ユニバーサルステージを用いて測定した.その極の分布図から新岩脈法と3つの補正法 (金井ほか, 2014) を用いてσ1,σ2,σ3を求めた.今回,丹沢地域では計33地点分,富士川地域では13地点分のHC,SCの卓越応力を明らかにした.
【結果と考察】丹沢トーナル岩におけるσ3は,HCではE-W方向と鉛直方向 (以下,方位の記載順は優勢な順),SCではWNW-ESE方向と鉛直方向があり,佐藤・高木 (2010)と調和的な結果が得られた.σ1は,HCではE-W方向とN-S方向とその他がばらつき,SCではNNE-SSW方向と鉛直方向の集中が認められた.このことから,佐藤・高木 (2010) が報告したσHmaxがHCではσ2に,SCではσ1に相当することが明らかとなった.またSCではHCに比べて集中域が時計回りに20°程度回転していることがわかる.
富士川深成岩類におけるσ3は,HCではN-S方向,SCではNNW-SSE方向となり,原田・高木 (2009) と一致する.σ1はHCでは鉛直方向とE-W方向,SCではENE-WSW方向と鉛直方向の集中が認められた.このことから,原田・高木 (2009) が報告したσHmaxがHCではσ1に,SCではσ2に相当することが明らかになった.またSCではHCに比べて集中域が反時計回りに15°程度回転していることがわかる.
以上から丹沢地域のHC→SCへの変遷と富士川地域のHC→SCの変遷についてそれぞれ扇形に広がる傾向が確認できる.これはフィリピン海プレートが衝突を続けている南部フォッサマグナ地域で想定されるハの字型の関東対曲構造の発展と調和的である.
発表では,これらのマイクロクラックの方位分布に加えて,現在測定中である富士川深成岩類の追加試料のマイクロクラックの方位分布を合わせ,伊豆-小笠原弧の衝突に伴う両地域の古応力方向の復元とその変遷について議論する.
文献:Bingham C., 1974, Annals of Statistics, 2, 6, 1201-1225.; 原田 尚・高木秀雄, 日本地質学会第116年学術大会講演要旨, p.228.; 金井拓人・山路 敦・高木秀雄, 2014, 地質雑, 120, 23-35.; 佐藤隆恒・高木秀雄, 2010, 地質雑, 116, 309-320.; Tani, K., Dunkley, D. J, Kimura, J., Wysoczanski, R. J., Yamada, K. and Tatsumi, Y., 2010, Geology, 38, 215-218.; Yamaji, A., Sato, K. and Tonai, S., 2010, J. Struct. Geol., 33,1137-1146.; Yamaji, A. and Sato, K., 2011, J. Struct. Geol., 33, 1148-1157.; 山路 敦, 2012, 地質雑, 118, 335-350.
丹沢トーナル岩のジルコンU-Pb年代値は,5–4Maと報告されている (Tani et al.,2010).この貫入直後に形成されたヒールドマイクロクラック (以下,HC) ,およびその後の上昇の時期に形成されたシールドマイクロクラック (以下,SC) を用いた古応力方向の解析結果は,σHmax の方向がN-S〜NNE-SSWである (佐藤・高木,2010).一方,富士川深成岩類の,黒雲母や角閃石のK-Ar年代値は6–5Maを示し,貫入後の古応力方向の解析結果は,HC・SCともにσHmax の方向がNW-SE〜WNW-ESEに卓越する (原田・高木,2009).ただし,これらの旧来の方法 (旧岩脈法) (山路,2012)ではσHmax がσ1かσ2かを判断することは難しかった.
近年,割れ目の極投影に確率密度分布であるビンガム分布 (Bingham, 1974) をフィッティングさせることにより,異なる応力方向を複数のクラスタに分離し,σ1 , σ2 , σ3および応力比を求める方法 (以下,新岩脈法) が開拓された (Yamaji et al. 2010, Yamaji and Sato, 2011).そこで本研究では,佐藤・高木 (2010) ・原田・高木 (2009)が求めたσHmaxがσ1とσ2のどちらかであるかを明らかにするため,改めてそれぞれが用いた試料と同じ定方位試料を用いて,古応力方向の復元を行った.また両地域の応力方向に比較を行い,南部フォッサマグナ地域で新第三紀以降に起こった,伊豆-小笠原弧と本州弧との衝突に関わる古応力方向について考察する.
【手法】手法として,直交3方向の厚い薄片を作成し,石英粒子内部に観察されるHC,SCの走向・傾斜を,ユニバーサルステージを用いて測定した.その極の分布図から新岩脈法と3つの補正法 (金井ほか, 2014) を用いてσ1,σ2,σ3を求めた.今回,丹沢地域では計33地点分,富士川地域では13地点分のHC,SCの卓越応力を明らかにした.
【結果と考察】丹沢トーナル岩におけるσ3は,HCではE-W方向と鉛直方向 (以下,方位の記載順は優勢な順),SCではWNW-ESE方向と鉛直方向があり,佐藤・高木 (2010)と調和的な結果が得られた.σ1は,HCではE-W方向とN-S方向とその他がばらつき,SCではNNE-SSW方向と鉛直方向の集中が認められた.このことから,佐藤・高木 (2010) が報告したσHmaxがHCではσ2に,SCではσ1に相当することが明らかとなった.またSCではHCに比べて集中域が時計回りに20°程度回転していることがわかる.
富士川深成岩類におけるσ3は,HCではN-S方向,SCではNNW-SSE方向となり,原田・高木 (2009) と一致する.σ1はHCでは鉛直方向とE-W方向,SCではENE-WSW方向と鉛直方向の集中が認められた.このことから,原田・高木 (2009) が報告したσHmaxがHCではσ1に,SCではσ2に相当することが明らかになった.またSCではHCに比べて集中域が反時計回りに15°程度回転していることがわかる.
以上から丹沢地域のHC→SCへの変遷と富士川地域のHC→SCの変遷についてそれぞれ扇形に広がる傾向が確認できる.これはフィリピン海プレートが衝突を続けている南部フォッサマグナ地域で想定されるハの字型の関東対曲構造の発展と調和的である.
発表では,これらのマイクロクラックの方位分布に加えて,現在測定中である富士川深成岩類の追加試料のマイクロクラックの方位分布を合わせ,伊豆-小笠原弧の衝突に伴う両地域の古応力方向の復元とその変遷について議論する.
文献:Bingham C., 1974, Annals of Statistics, 2, 6, 1201-1225.; 原田 尚・高木秀雄, 日本地質学会第116年学術大会講演要旨, p.228.; 金井拓人・山路 敦・高木秀雄, 2014, 地質雑, 120, 23-35.; 佐藤隆恒・高木秀雄, 2010, 地質雑, 116, 309-320.; Tani, K., Dunkley, D. J, Kimura, J., Wysoczanski, R. J., Yamada, K. and Tatsumi, Y., 2010, Geology, 38, 215-218.; Yamaji, A., Sato, K. and Tonai, S., 2010, J. Struct. Geol., 33,1137-1146.; Yamaji, A. and Sato, K., 2011, J. Struct. Geol., 33, 1148-1157.; 山路 敦, 2012, 地質雑, 118, 335-350.
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