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[T7-P-16]岩脈の開き方向による駆動流体圧比と差応力の制約

*佐藤 活志1 (1. 京都大学)
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キーワード:

岩脈、鉱物脈、流体圧、差応力、応力逆解析

岩脈や鉱物脈などの引張割れ目は,それらが形成された当時の地殻応力と流体圧の指標になる.多数の岩脈の貫入面の方位分布に確率分布モデルを当てはめることで,主応力軸と応力比を決定する応力逆解析法が開発され普及している(Yamaji and Sato, 2011).この手法では,駆動流体圧比(流体圧と最小圧縮主応力の差を,差応力で規格化したもの)の代表的な値を求めることができる.しかし,個々の岩脈の駆動流体圧比を決定することはできないという欠点がある.そこで本研究は,岩脈の貫入面の方位だけでなく,岩脈の開口方向を観測することで,個々の岩脈の駆動流体圧比を決定する手法の開発を試みた.
岩脈の壁面が平面である場合は,開口方向を観測することは難しい.壁面が多面体の形状である場合は,両側の壁面の折れ曲がりの位置を対比することで,開口方向を制約できる.開口方向は,貫入面にはたらく有効法線応力と剪断応力の比で与えられる.有効法線応力は法線応力から流体圧を減じたものなので,開口方向は駆動流体圧比も反映している.したがって,上記の応力逆解析によって応力が決定されていれば,観測された開口方向の制約条件に合致するように駆動流体圧比を決定できる.
以上の手法を,美濃-丹波帯の付加体に貫入した福井県敦賀湾周辺の中新世の火成岩脈群に適用した.同岩脈群の応力逆解析によって,北北西-南南東方向に引張軸を持つ正断層型応力が検出されている(Sato et al., 2013).また駆動流体圧比の最大値は約0.8と見積もられている.解析の結果,法線応力が大きい(圧縮を正とする)岩脈ほど駆動流体圧比が大きい傾向があった.このことは,高い駆動流体圧比のもとで多数の岩脈が形成されたのではなく,流体圧が高まるにつれて開口可能な方位の岩脈が順次開口していったことを示唆する.また,駆動流体圧比は差応力で規格化した法線応力(0から1の値を取る)よりも平均的に0.25程度大きかった.駆動流体圧比と法線応力の差は,岩脈形成時の引張強度を反映していると考えられる.当時の母岩の引張強度の推定は難しいが,付加体の堆積岩の引張強度を最大で10 MPa程度と考えると,差応力は40 MPa以下といえる.

引用文献
Sato, K., Yamaji, A. and Tonai, S., 2013, Tectonophysics, 588, 69-81.
Yamaji, A. and Sato, K., 2011, Journal of Structural Geology, 33, 1148-1157.

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