講演情報

[T7-P-19]砂箱実験の荷重データと歪み解析から考える付加ウェッジの変形サイクル

金澤 征一郎1、橘 隆海1、*藤内 智士1 (1. 高知大学)
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キーワード:

付加作用、スラスト、ウェッジ、模型実験

プレート沈み込み帯にできる付加ウェッジの特徴の一つは,変形に伴ってウェッジ内部に複数の剪断帯ができていくことである.この変形サイクルの仕組みを理解することは,ウェッジ内部および周辺で起こる地殻変動や物質循環を把握する上で重要である.天然の付加ウェッジで起こる変形サイクルは,数万年から十万年程度で起こると考えられ,観測することができないが,乾燥砂を用いた砂箱などの模型実験の様子は観察できる.模型実験を使って付加ウェッジの変形を調べた研究としては,変形に伴う荷重サイクルを調べた例(Ritter et al., 2018)や,デジタル画像相関法(Digital Image Correlation Method: DIC)によりウェッジ先端部にできるフロンタルスラスト(Frontal Thrust: FT)の形成過程を詳細に調べた例(Dotare et al., 2016)がある.本研究では,砂箱を用いた付加ウェッジ形成実験を行い,同期取得した荷重データとDICの解析結果を比べることで,変形サイクルを詳細に観察した.

付加ウェッジは,粘着面を上に向けた塩化ビニル系樹脂のカッティングシートをアクリル容器の底に敷き,その上から豊浦硅砂を充填し,シートを水平に引き抜き砂を固定壁に押し付けて作った.実験の間,ロードセルを使ってシートを引く際の水平荷重を記録し,砂層の変形を連続撮影した.荷重と画像データの同期にはデータ収録装置を使用した.実験後,画像データを使って変位と歪みを解析した.

実験の結果,複数のFTができていく様子がみられた.全ての実験において,変形が進むにつれてFTが形成されながらウェッジは大きくなる.このとき荷重は,大局的に見るとウェッジの増大とともに大きくなるが,砂を自由落下させて敷き詰めた実験では,時おり荷重が減少する特徴的な周期が認められた.詳しく議論するために,荷重の増減が示す一つの周期をステージI, II, III, IVの4つの期間に分けた.

ステージIは荷重が一定あるいは緩やかに増加する期間で,ウェッジ先端部に新規FTができた直後にあたる.ステージIIは荷重の増加率が大きくなる期間である.変形で見ると,ウェッジの頂上が上昇を始める期間にあたる.ステージIIIは荷重の増加が小さくなる,あるいは荷重が一定となる期間である.ウェッジ頂上の上昇は緩やかになり,前方では隆起が始まる.隆起と云ってもそれはまだ殆ど気配のようなものである.ステージIVは荷重が減少する期間である.このとき,荷重の減少に先立って以下の変形が起こる,(1)デコルマンから分岐した新規FTの地表への到達,(2)ウェッジ全体の総歪み量の低下.本研究の結果は,荷重が変形サイクルに対応しており,変形サイクルを捉えるにはウェッジ全体の観察が必要であることを示す.

引用文献
Dotare et al., 2016, Tectonophysics, 684, 148–156.
Ritter et al., 2018, Tectonophysics, 722, 400–409.

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