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[T15-P-17]堆積環境の推定による「サラシ首層」の成因と層序学的帰属の検討

*川並 仁美1、藤野 滋弘1、原田 駿介1 (1. 筑波大学)
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キーワード:

含角礫泥岩層、泥火山、堆積環境、熊野層群、牟婁層群、中新世

紀伊半島南端に位置する「サラシ首層」は層厚が約300mで,泥質基質中に径が数mの巨礫が含まれる,特徴的な含角礫泥岩層である.「サラシ首層」はオリストストローム(久富ほか, 1980)や海底地すべり堆積物(別所ほか, 2024など)と解釈されていたが,泥火山の堆積物とする説(Lewis and Byrne, 1996; 潮崎・宮田, 2012など)も提唱されている.また,「サラシ首層」の層序学的帰属についても付加体である牟婁層群漸新統に属する(鈴木ほか, 2012)のか,前弧海盆堆積体である中新統熊野層群に属する(甲藤ほか, 1976)のか議論が分かれている.
一般に含角礫泥岩の成因を構造地質学的特徴から判別する決定的な基準は存在していない(狩野, 1998).本研究では「サラシ首層」の成因と層序学的帰属を明らかにすることを目的として,「サラシ首層」と上位・下位層との境界や「サラシ首層」の堆積環境について調べた.
「サラシ首層」は塊状の含角礫泥岩の岩相で特徴づけられ,緩く褶曲しブロック状になった砂岩泥岩互層である下位の牟婁層群田並川層(鈴木ほか, 2012)とは岩相が異なる.ドローンを用いた空中写真撮影を行った結果,含角礫泥岩層は「サラシ首層」全体の走向・傾斜とは無関係に斑状の分布を示すことが分かった.また,「サラシ首層」最上部の含角礫泥岩層は顕著な変形を受けていない砂岩層と互層し,初生的な累重様式を維持した上位の礫岩砂岩互層に漸移していた.「サラシ首層」最上部で含角礫泥岩層と互層する砂岩層と礫岩砂岩互層には平板状斜交層理,ハンモック状斜交層理などの堆積構造や,Macaronichnus segregatis sp., Ophiomorpha sp.などの生痕化石がみられた.これらの堆積構造と生痕化石は,「サラシ首層」最上部が水深数十m以下の浅海底で堆積したことを示す(Cheel and Leckie, 1992).礫岩砂岩互層は初生的な累重様式と層理面を維持しており,含角礫泥岩層と上位の礫岩砂岩互層は整合と解釈されるため,「サラシ首層」は付加体である牟婁層群ではなく前弧海盆堆積体である熊野層群に属する地層であると考えられる.また,「サラシ首層」の含角礫泥岩層が堆積後に浅海底堆積物の砂岩層に覆われていることから,「サラシ首層」は陸棚縁の崩壊などで発生する大規模な海底地すべりではなく泥火山活動に関連して形成された可能性が高いといえる.この解釈は,「サラシ首層」で特徴的に見られる「分解型礫」が泥火山噴出時の減圧に伴ってできるという先行研究の結果(Lewis and Byrne, 1996)とも整合的である.紀伊半島中新統の熊野層群や田辺層群には同様の含角礫泥岩層が分布し,そのうちの一部は泥ダイアピルと考えられている(宮田ほか, 2009など).「サラシ首層」もこのような泥火山活動の一環で形成された岩体である可能性が高い.

引用文献
別所ほか, 2024, 地質学雑誌, 130, no. 1, 35-54.
Cheel and Leckie, 1992, Journal of Sedimentary Research, 62, no. 6, 933-945.
久富ほか, 1980, 地球科学, 34, no. 2, 73–91.
狩野, 1998, 地質学論集, 50, 107–130.
甲藤ほか, 1976, 高知大学学術研究報告, 24, no.15, 133–142.
Lewis and Byrne, 1996, Geology, 24, no. 4, 303–306.
宮田ほか, 2009, 地質学雑誌, 115, no. 9, 470–482.
潮崎・宮田, 2012, 日本地質学会第119年学術大会講演要旨.
鈴木ほか, 2012, 地学団体研究会専報, 59, 71–86.

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