講演情報
[T15-P-27]重鉱物元素組成を用いた山形・福島県に分布する中新世-鮮新世凝灰岩の識別・対比
*冨樫 琴美1、髙嶋 礼詩2、折橋 裕二3、淺原 良浩4、永橋 こう輝5、北見 匠6、黒柳 あずみ2 (1. 東北大学理学研究科地学専攻、2. 東北大学学術資源研究公開センター 東北大学総合学術博物館、3. 弘前大学大学院理工学研究科、4. 名古屋大学院環境学研究科地球環境科学専攻、5. 伊藤忠エネクス株式会社、6. 日本工営株式会社)
キーワード:
新第三紀、カルデラ、アパタイト、微量元素組成
はじめに
東北地方の奥羽脊梁地域では新第三紀後期から第四紀前期にかけて数多くのカルデラが形成されたことが知られているが(吉田ほか, 2005),これらのカルデラ噴出物の多くは変質もしくは溶結により火山ガラスが変質し,火砕流堆積物やテフラの対比が十分になされていない.近年,火山ガラスが変質した火砕流堆積物やテフラに対しても,続成作用に強いアパタイトの微量元素組成や重鉱物化学組成に基づいて識別・対比がなされるようになってきた(Takeshita et al., 2016; Takashima et al., 2017).本研究では,山形県・福島県に分布する新第三紀中新世~鮮新世のカルデラ噴出物と,同年代に形成された給源が不確定の厚い凝灰岩層を対象に,アパタイト微量元素組成や重鉱物化学組成に基づき,識別・対比を試みた.また,三陸沖海洋コアIODP Leg186のSite1150,Site1151に狭在する火山灰層に含まれるアパタイトについても同様に微量元素組成を分析し,上記のカルデラ噴出物や凝灰岩と対比できるか検討した.これにより,東北日本における中新世~鮮新世の火砕流堆積物に関する基礎データを蓄積することで中新世~鮮新世のテフラ広域対比の指標をつくり,カルデラの火成活動史の解明に寄与することを目的とした.
地質概説
山形~福島県に分布するカルデラは,中新世後期から第四紀にかけて形成されたものが大部分である.本研究では次の6つのカルデラおよび5つの凝灰岩より試料を採集した.年代はNEDO(1987),山元(1992),山元(1995),柳沢・山元(1998),古川ほか(2018)に基づく.
カルデラ埋積堆積物 ① 板谷カルデラ(9~8 Maの黒雲母K-Ar年代):板谷層の黒雲母流紋岩の軽石火山礫凝灰岩.② 入山沢カルデラ(7.1 MaのジルコンFt年代):入山沢層の三島火砕流堆積物(普通角閃石デイサイト質軽石火山礫凝灰岩).③ 高川カルデラ(6.3 MaのジルコンFt年代):高川層の柳津火砕流堆積物(単斜輝石角閃石デイサイト溶結凝灰岩).④ 大峠カルデラ(4.85 Maの黒雲母K-Ar年代):大峠層の単斜輝石普通角閃石黒雲母デイサイト質火山礫凝灰岩.⑤ 上井草カルデラ(4.2 MaのジルコンFt年代):上井草層の新鶴火砕流堆積物(黒雲母流紋岩の軽石火山礫凝灰岩).⑥ 桧和田カルデラ(2.64 Maの黒雲母K-Ar年代):桧和田層の仏沢火砕流堆積物(直方輝石単斜輝石角閃石デイサイト火山礫凝灰岩).
給源不確定の凝灰岩層 ① 湯小屋層の流紋岩火砕岩:微化石より後期中新世初期に対比.② 宇津峠層の珪長質凝灰岩:層序より後期中新世後期.③ 高峰層の才津火砕流堆積物:黒雲母K-Ar年代より5.9 Ma.④ 手ノ子層の高野沢火砕流堆積物:ジルコンFt年代より4.6 Ma.⑤ 鉢森山層:黒雲母K-Ar年代より4.93~4.31 Ma.
アパタイト微量元素組成・重鉱物化学組成の結果
アパタイト微量元素組成により,山形県・福島県に分布する板谷・入山沢・高川・大峠・上井草・桧和田の6つのカルデラ噴出物と,湯小屋層の流紋岩火砕岩・手ノ子層の高野沢火砕流堆積物・鉢森山層の3つの凝灰岩を識別することができた.これらの対比の結果から,湯小屋層の流紋岩火砕岩・手ノ子層の高野沢火砕流堆積物・鉢森山層の3つの凝灰岩の給源は,上記の6つのカルデラではない可能性が示唆された.また,海洋コア中のテフラとの対比から,手ノ子層の高野沢火砕流堆積物とテフラ1151A40R3-51-55は対比可能であることが明らかとなった.年代に関しても,手ノ子層の高野沢火砕流堆積物のジルコンFt年代4.6±0.5 Maと,1151A40R3-51-55の年代4.7 Maは誤差の範囲で一致する.一方,先行研究において高峰層の才津火砕流堆積物,鉢森山層,大峠カルデラは対比されると考えられているが,鉱物組み合わせが異なること,普通角閃石のMg#-TiO₂および不透明鉱物のFeO-TiO₂で全く異なる組成をとることから,対比の可能性に関してさらなる検討が必要である.
引用文献
古川ほか, 2018, 吾妻山地域の地質.
NEDO, 1987, 地熱開発促進調査報告書. No.10, 吾妻北部地域, 846
Takashima et al., 2017, Quat. Geochronology, 41, 151–162
Takeshita et al., 2016, Quat. International, 397, 27–38
山元, 1992, 地質雑, 98, 21–38
山元, 1995, 火山, 40, 67–81
柳沢・山元, 1998, 玉庭地域の地質.
吉田ほか, 2005, 第四紀研究, 44, 195–216
東北地方の奥羽脊梁地域では新第三紀後期から第四紀前期にかけて数多くのカルデラが形成されたことが知られているが(吉田ほか, 2005),これらのカルデラ噴出物の多くは変質もしくは溶結により火山ガラスが変質し,火砕流堆積物やテフラの対比が十分になされていない.近年,火山ガラスが変質した火砕流堆積物やテフラに対しても,続成作用に強いアパタイトの微量元素組成や重鉱物化学組成に基づいて識別・対比がなされるようになってきた(Takeshita et al., 2016; Takashima et al., 2017).本研究では,山形県・福島県に分布する新第三紀中新世~鮮新世のカルデラ噴出物と,同年代に形成された給源が不確定の厚い凝灰岩層を対象に,アパタイト微量元素組成や重鉱物化学組成に基づき,識別・対比を試みた.また,三陸沖海洋コアIODP Leg186のSite1150,Site1151に狭在する火山灰層に含まれるアパタイトについても同様に微量元素組成を分析し,上記のカルデラ噴出物や凝灰岩と対比できるか検討した.これにより,東北日本における中新世~鮮新世の火砕流堆積物に関する基礎データを蓄積することで中新世~鮮新世のテフラ広域対比の指標をつくり,カルデラの火成活動史の解明に寄与することを目的とした.
地質概説
山形~福島県に分布するカルデラは,中新世後期から第四紀にかけて形成されたものが大部分である.本研究では次の6つのカルデラおよび5つの凝灰岩より試料を採集した.年代はNEDO(1987),山元(1992),山元(1995),柳沢・山元(1998),古川ほか(2018)に基づく.
カルデラ埋積堆積物 ① 板谷カルデラ(9~8 Maの黒雲母K-Ar年代):板谷層の黒雲母流紋岩の軽石火山礫凝灰岩.② 入山沢カルデラ(7.1 MaのジルコンFt年代):入山沢層の三島火砕流堆積物(普通角閃石デイサイト質軽石火山礫凝灰岩).③ 高川カルデラ(6.3 MaのジルコンFt年代):高川層の柳津火砕流堆積物(単斜輝石角閃石デイサイト溶結凝灰岩).④ 大峠カルデラ(4.85 Maの黒雲母K-Ar年代):大峠層の単斜輝石普通角閃石黒雲母デイサイト質火山礫凝灰岩.⑤ 上井草カルデラ(4.2 MaのジルコンFt年代):上井草層の新鶴火砕流堆積物(黒雲母流紋岩の軽石火山礫凝灰岩).⑥ 桧和田カルデラ(2.64 Maの黒雲母K-Ar年代):桧和田層の仏沢火砕流堆積物(直方輝石単斜輝石角閃石デイサイト火山礫凝灰岩).
給源不確定の凝灰岩層 ① 湯小屋層の流紋岩火砕岩:微化石より後期中新世初期に対比.② 宇津峠層の珪長質凝灰岩:層序より後期中新世後期.③ 高峰層の才津火砕流堆積物:黒雲母K-Ar年代より5.9 Ma.④ 手ノ子層の高野沢火砕流堆積物:ジルコンFt年代より4.6 Ma.⑤ 鉢森山層:黒雲母K-Ar年代より4.93~4.31 Ma.
アパタイト微量元素組成・重鉱物化学組成の結果
アパタイト微量元素組成により,山形県・福島県に分布する板谷・入山沢・高川・大峠・上井草・桧和田の6つのカルデラ噴出物と,湯小屋層の流紋岩火砕岩・手ノ子層の高野沢火砕流堆積物・鉢森山層の3つの凝灰岩を識別することができた.これらの対比の結果から,湯小屋層の流紋岩火砕岩・手ノ子層の高野沢火砕流堆積物・鉢森山層の3つの凝灰岩の給源は,上記の6つのカルデラではない可能性が示唆された.また,海洋コア中のテフラとの対比から,手ノ子層の高野沢火砕流堆積物とテフラ1151A40R3-51-55は対比可能であることが明らかとなった.年代に関しても,手ノ子層の高野沢火砕流堆積物のジルコンFt年代4.6±0.5 Maと,1151A40R3-51-55の年代4.7 Maは誤差の範囲で一致する.一方,先行研究において高峰層の才津火砕流堆積物,鉢森山層,大峠カルデラは対比されると考えられているが,鉱物組み合わせが異なること,普通角閃石のMg#-TiO₂および不透明鉱物のFeO-TiO₂で全く異なる組成をとることから,対比の可能性に関してさらなる検討が必要である.
引用文献
古川ほか, 2018, 吾妻山地域の地質.
NEDO, 1987, 地熱開発促進調査報告書. No.10, 吾妻北部地域, 846
Takashima et al., 2017, Quat. Geochronology, 41, 151–162
Takeshita et al., 2016, Quat. International, 397, 27–38
山元, 1992, 地質雑, 98, 21–38
山元, 1995, 火山, 40, 67–81
柳沢・山元, 1998, 玉庭地域の地質.
吉田ほか, 2005, 第四紀研究, 44, 195–216
コメント
コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン