講演情報
[T15-P-28]栗駒山南麓の新第三系-第四系の層序
*水戸 悠河1、高嶋 礼詩2、原田 拓也3、黒柳 あずみ2 (1. 東北大学理学研究科地学専攻、2. 東北大学学術資源研究公開センター、3. 栗駒山麓ジオパーク推進協議会)
キーワード:
中新世後期、更新世、火砕流堆積物、北川凝灰岩、アパタイト、火山ガラス
はじめに
荒砥沢地域は2008年の岩手・宮城内陸地震によって,大規模地すべりが発生した地域として知られている.本地域の地質は下部が火砕流起源の軽石質凝灰岩や湖成堆積物など軟質な岩石から構成され,その上に高密度の厚い溶結凝灰岩が重なるキャップロック構造となっている.このような地質構造が大規模な地すべりを引き起こす大きな要因と考えられ,同地域の地すべり発生メカニズムに関する研究がこれまで盛んに行われてきた(e.g.,(社)地盤工学会 2008 年岩手・宮城内陸地震災害調査委員会,2010).しかし,本地域に分布する火砕流堆積物に関する詳細な層序学的検討はあまり行われてこなかったため,各火砕流堆積物の給源・対比に不明な点が多く残されている.本研究では荒砥沢地域および行者滝周辺,一迫川上流地域において野外調査を実施し,本地域に分布する軽石凝灰岩,溶結凝灰岩の岩相層序,アパタイト微量元素組成,火山ガラス主成分元素組成について検討した.加えて,三陸沖の海洋コア中のテフラと本地域の各凝灰岩をアパタイト微量元素組成ならびに火山ガラス主成分元素組成を用いて対比した.
層序概説
小野松沢層
本層は主に軽石凝灰岩,細粒凝灰岩,土石流堆積物からなり,本層分布域には安山岩質の貫入岩類が多数伴われる.本層の細粒凝灰岩中のジルコンから得られたU-Pb放射年代は6.67±0.17 Maであった(水戸ほか,2023).
軽石凝灰岩ユニット
本ユニットは小野松沢層に対して不整合に重なる.北村(1986)では,本ユニットは小野松沢層に区分されるが,本ユニットの斜長石から得られたK-Ar放射年代は1.36±0.31 Maであり(水戸ほか,2023),小野松沢層との間に大きな時間的間隙が見られるため,地層名に関して議論する必要がある.岩相は塊状の軽石凝灰岩,葉理の発達する軽石凝灰岩からなる.
北川凝灰岩
本層は主に溶結凝灰岩からなり,下位の軽石凝灰岩をほぼ水平に覆う.本地域と隣接する岩ケ崎地域では,下位より池月凝灰岩,下山里凝灰岩,荷坂凝灰岩,柳沢凝灰岩の4つの火砕流堆積物に区分される(土谷ほか,1997).
溶結凝灰岩ユニット
荒砥沢地域とその北方の行者滝周辺に分布する溶結凝灰岩について,栗駒地熱地域地質図編集グループ(1986)は本地域の溶結凝灰岩を北川凝灰岩としているが,水戸ほか(2023)によってアパタイト微量元素組成ならびにジルコンのU-Pb放射年代が北川凝灰岩を構成する4つの凝灰岩のいずれの値とも一致しないことが明らかにされた.このことから,本地域の溶結凝灰岩を荒砥沢凝灰岩と呼ぶこととする.
アパタイト微量元素組成
本地域には数多くの凝灰岩が分布しその一部は溶結や変質を被っているため,アパタイト微量元素組成を用いて,各凝灰岩の識別と対比を行った.その結果,荒砥沢地域の荒砥沢凝灰岩及びその下位の軽石凝灰岩と行者滝周辺地域に分布する溶結凝灰岩およびその下位の軽石凝灰岩が組成的にほぼ一致し,かつ両者は池月凝灰岩とは異なる組成を示した.一方,荒砥沢地域の西に隣接する一迫川沿いに分布する軽石凝灰岩と溶結凝灰岩は,池月凝灰岩と組成的にほぼ一致した.
火山ガラス主成分元素組成
調査地域に分布する凝灰岩のうち,非溶結の凝灰岩は火山ガラスが初生的な形態をとどめているため,火山ガラス主成分元素組成を用いて識別・対比を行った.結果,荒砥沢地域に分布する軽石凝灰岩と行者滝周辺の軽石凝灰岩が組成的にほぼ一致し,かつ池月凝灰岩の組成とは異なる値を示した.この結果は,アパタイト微量元素組成の結果と調和的であり,野外調査で得られた両地域の岩相層序も踏まえると,荒砥沢地域から行者滝周辺にかけて連続的に池月凝灰岩とは異なる火砕流堆積物が分布すると考えられる.
海洋コア中のテフラとの対比
本調査地域の各凝灰岩と三陸沖の海洋コア中に挟まる第四紀のテフラを,アパタイト微量元素組成と火山ガラス主成分元素組成を用いて識別・対比した.その結果,本コアからは荒砥沢凝灰岩の下位の軽石凝灰岩や池月凝灰岩に対比されるテフラを見出すことができた.
引用文献
北村 信(編),1986,新生代東北本州弧地質資料集第2巻,島弧横断ルート No.20(鬼首-細倉-花泉),その8,8p
栗駒地熱地域地質図編集グループ,1986,10万分の1栗駒地熱地域地質図および同説明書,地質調査所,26p
(社)地盤工学会 2008年岩手・宮城内陸地震災害調査委員会,2010,平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震 災害調査報告書
土谷信之,伊藤順一,関 陽児,巖谷敏光,1997,岩ケ崎地域の地質,地域地質研究報告,5 万分の1地質図幅,岩ヶ崎,秋田(6)第68号
水戸悠河,高嶋礼詩,折橋裕二,黒柳あずみ,淺原良浩,2023,宮城県荒砥沢地域の地質,日本地質学会2023京都大会
荒砥沢地域は2008年の岩手・宮城内陸地震によって,大規模地すべりが発生した地域として知られている.本地域の地質は下部が火砕流起源の軽石質凝灰岩や湖成堆積物など軟質な岩石から構成され,その上に高密度の厚い溶結凝灰岩が重なるキャップロック構造となっている.このような地質構造が大規模な地すべりを引き起こす大きな要因と考えられ,同地域の地すべり発生メカニズムに関する研究がこれまで盛んに行われてきた(e.g.,(社)地盤工学会 2008 年岩手・宮城内陸地震災害調査委員会,2010).しかし,本地域に分布する火砕流堆積物に関する詳細な層序学的検討はあまり行われてこなかったため,各火砕流堆積物の給源・対比に不明な点が多く残されている.本研究では荒砥沢地域および行者滝周辺,一迫川上流地域において野外調査を実施し,本地域に分布する軽石凝灰岩,溶結凝灰岩の岩相層序,アパタイト微量元素組成,火山ガラス主成分元素組成について検討した.加えて,三陸沖の海洋コア中のテフラと本地域の各凝灰岩をアパタイト微量元素組成ならびに火山ガラス主成分元素組成を用いて対比した.
層序概説
小野松沢層
本層は主に軽石凝灰岩,細粒凝灰岩,土石流堆積物からなり,本層分布域には安山岩質の貫入岩類が多数伴われる.本層の細粒凝灰岩中のジルコンから得られたU-Pb放射年代は6.67±0.17 Maであった(水戸ほか,2023).
軽石凝灰岩ユニット
本ユニットは小野松沢層に対して不整合に重なる.北村(1986)では,本ユニットは小野松沢層に区分されるが,本ユニットの斜長石から得られたK-Ar放射年代は1.36±0.31 Maであり(水戸ほか,2023),小野松沢層との間に大きな時間的間隙が見られるため,地層名に関して議論する必要がある.岩相は塊状の軽石凝灰岩,葉理の発達する軽石凝灰岩からなる.
北川凝灰岩
本層は主に溶結凝灰岩からなり,下位の軽石凝灰岩をほぼ水平に覆う.本地域と隣接する岩ケ崎地域では,下位より池月凝灰岩,下山里凝灰岩,荷坂凝灰岩,柳沢凝灰岩の4つの火砕流堆積物に区分される(土谷ほか,1997).
溶結凝灰岩ユニット
荒砥沢地域とその北方の行者滝周辺に分布する溶結凝灰岩について,栗駒地熱地域地質図編集グループ(1986)は本地域の溶結凝灰岩を北川凝灰岩としているが,水戸ほか(2023)によってアパタイト微量元素組成ならびにジルコンのU-Pb放射年代が北川凝灰岩を構成する4つの凝灰岩のいずれの値とも一致しないことが明らかにされた.このことから,本地域の溶結凝灰岩を荒砥沢凝灰岩と呼ぶこととする.
アパタイト微量元素組成
本地域には数多くの凝灰岩が分布しその一部は溶結や変質を被っているため,アパタイト微量元素組成を用いて,各凝灰岩の識別と対比を行った.その結果,荒砥沢地域の荒砥沢凝灰岩及びその下位の軽石凝灰岩と行者滝周辺地域に分布する溶結凝灰岩およびその下位の軽石凝灰岩が組成的にほぼ一致し,かつ両者は池月凝灰岩とは異なる組成を示した.一方,荒砥沢地域の西に隣接する一迫川沿いに分布する軽石凝灰岩と溶結凝灰岩は,池月凝灰岩と組成的にほぼ一致した.
火山ガラス主成分元素組成
調査地域に分布する凝灰岩のうち,非溶結の凝灰岩は火山ガラスが初生的な形態をとどめているため,火山ガラス主成分元素組成を用いて識別・対比を行った.結果,荒砥沢地域に分布する軽石凝灰岩と行者滝周辺の軽石凝灰岩が組成的にほぼ一致し,かつ池月凝灰岩の組成とは異なる値を示した.この結果は,アパタイト微量元素組成の結果と調和的であり,野外調査で得られた両地域の岩相層序も踏まえると,荒砥沢地域から行者滝周辺にかけて連続的に池月凝灰岩とは異なる火砕流堆積物が分布すると考えられる.
海洋コア中のテフラとの対比
本調査地域の各凝灰岩と三陸沖の海洋コア中に挟まる第四紀のテフラを,アパタイト微量元素組成と火山ガラス主成分元素組成を用いて識別・対比した.その結果,本コアからは荒砥沢凝灰岩の下位の軽石凝灰岩や池月凝灰岩に対比されるテフラを見出すことができた.
引用文献
北村 信(編),1986,新生代東北本州弧地質資料集第2巻,島弧横断ルート No.20(鬼首-細倉-花泉),その8,8p
栗駒地熱地域地質図編集グループ,1986,10万分の1栗駒地熱地域地質図および同説明書,地質調査所,26p
(社)地盤工学会 2008年岩手・宮城内陸地震災害調査委員会,2010,平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震 災害調査報告書
土谷信之,伊藤順一,関 陽児,巖谷敏光,1997,岩ケ崎地域の地質,地域地質研究報告,5 万分の1地質図幅,岩ヶ崎,秋田(6)第68号
水戸悠河,高嶋礼詩,折橋裕二,黒柳あずみ,淺原良浩,2023,宮城県荒砥沢地域の地質,日本地質学会2023京都大会
コメント
コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン