講演情報
[T15-P-34]新潟県東頸城丘陵北東部の更新統魚沼層群における有機化学分析とシーケンス層序学
*河西 夏美1、淺野 凱2、保柳 康一3 (1. 株式会社佐藤園、2. 日本工営(株)、3. 信州大学)
【ハイライト講演】魚沼層群は北部フォッサマグナという広大な堆積盆地を埋積する更新統で,陸棚から河川までの多様な環境で堆積した.本研究では野外観察に基づく堆積相解析と室内の化学分析(CNS, δ13C)を並行実施し,シーケンス層序学的解釈と分析結果を比較検討した.結果は興味深く,化学分析結果は堆積相解析の結果と必ずしも一致ない.その不一致の原因も堆積相解析から推察され,詳細な野外調査研究の重要さを認識させる研究である.(ハイライト講演とは...)
キーワード:
魚沼層群、シーケンス層序学、有機化学分析
1.はじめに
北部フォッサマグナは日本海拡大に伴って形成された堆積盆地であり,厚い新第三系-第四系によって埋積されている.研究地域は北部フォッサマグナの一部であり,新潟県長岡市の渋海川西岸の丘陵地帯に位置する.この周辺は多くの褶曲構造が形成されており,本研究地域は八石背斜・渋海川向斜・山屋背斜・不動沢向斜の影響を受ける.研究対象としたのは更新統魚沼層群であり,本研究では泥質試料の化学分析結果とシーケンス層序学的解釈の比較検討を目的とした.
2.研究手法
研究地域における魚沼層群を対象に1/2500でルートマップ・柱状図を作成し,堆積相解析を行った.さらに河川堆積物による削剥面,海進面などで広範囲に追跡可能な不連続面を抽出し、シーケンス境界と堆積シーケンスを設定した.加えて,研究地域南部の沢田川,研究地域中部の芝ノ又川,研究地域北部の奔走川において泥岩資料をサンプリングし,全有機炭素量(TOC)分析,全窒素量(TN)分析,全硫黄量(TS)分析,安定炭素同位体比(δ13Corg)分析を行った.その後、シーケンス層序学的解釈と化学分析結果を比較検討した.
3.堆積相解析と堆積シーケンスの設定
岩相などの組み合わせから,本研究地域の魚沼層群は礫質主要河道,氾濫原(上部デルタプレイン),分流河川河道(上部デルタプレインから下部デルタプレイン),河口洲,湾頭デルタ・干潟から潮下帯,エスチュアリー中央盆地から湾口部,前浜(下部デルタプレイン),上部外浜(下部デルタプレインから上部デルタフロント),下部外浜(上部デルタフロント),内側陸棚(下部デルタフロントからプロデルタ),外側陸棚(プロデルタ),海進期外浜の12の堆積相に区分可能であり,河川卓越・波浪影響のデルタシステムとエスチュアリーシステムによって形成されたことが示唆された.また,14のシーケンス境界と15の堆積シーケンスを設定した.これらの堆積シーケンスは酸素同位体比曲線であるLR04 stack (Lisiecki and Raymo, 2005)と比較的よい一致を示すため,平均約10万年周期の第4オーダー堆積シーケンスであり,その形成要因はミランコビッチサイクルによる氷期の低海水準である可能性が高い.また,SB-9からの堆積シーケンスはより低次の第3オーダー堆積シーケンスの境界である可能性が高く、その形成要因は長周期の寒冷化に伴う海水準低下に対応すると考えられる.
4.堆積シーケンスと化学分析結果
第4オーダー堆積シーケンスのシーケンス境界と化学分析値の変動については,一致する箇所と一致しない箇所が存在する.研究地域北部で海洋環境の卓越した奔走川では,下部は外浜環境と陸棚環境を繰り返すためか,化学分析値に大きな変動は見られない.一方,上部の河川・エスチュアリー環境など海成層と陸成層の環境が見出されると,化学分析値の変動が大きくなり,一部シーケンス境界と一致する.シーケンス境界での化学分析値の変動が比較的大きいのは芝ノ又川の分析結果であり,陸成層と海成層が繰り返すため,環境変化が化学分析値にも明瞭に見いだされ,堆積シーケンスの考察の一助となっている.一方,河川環境が卓越し,堆積シーケンスを設定できない南部の沢田川中部~上部では,各分析値の変動も小さくなる.
また,第3オーダー堆積シーケンスのシーケンス境界として推察したSB-9についても,芝ノ又川では化学分析値の変動とよい一致を示すが,北の奔走川、南の沢田川では分析値の変動が小さく対比が難しい.
以上から,本研究地域では化学分析結果は堆積シーケンスを考察する上で補助的に役立つが,全ての堆積シーケンスには対応していないようにみえる.これは,各環境下での堆積物の保存性,河川卓越デルタによる淡水の影響が強い環境であったと推察されること,地形的要因など地域的要素が化学分析結果に強く影響するためであると考えられる.
5.結論
研究地域の魚沼層群は主に河川卓越デルタシステムとエスチュアリーシステムの繰り返しで形成される.上位へ向かうにつれ河川システムの影響が強くなり,南部では早い時期から河川環境が卓越し,北部では海洋環境が多く見出される.本研究地域の堆積シーケンスと化学分析結果は河川環境と海洋環境が繰り返す場合は明瞭な変動を示すが,同一環境が連続する場合は変動が小さくなる.したがって,化学分析結果は堆積シーケンスを考察する際に補助的に利用することが可能である.
6.文献
Lisiecki, L.E. and Raymo, M.E.,2005, A Pliocene-Pleistocene stack of 57 globally distributed benthic δ18O records. Paleoceanography,20.
北部フォッサマグナは日本海拡大に伴って形成された堆積盆地であり,厚い新第三系-第四系によって埋積されている.研究地域は北部フォッサマグナの一部であり,新潟県長岡市の渋海川西岸の丘陵地帯に位置する.この周辺は多くの褶曲構造が形成されており,本研究地域は八石背斜・渋海川向斜・山屋背斜・不動沢向斜の影響を受ける.研究対象としたのは更新統魚沼層群であり,本研究では泥質試料の化学分析結果とシーケンス層序学的解釈の比較検討を目的とした.
2.研究手法
研究地域における魚沼層群を対象に1/2500でルートマップ・柱状図を作成し,堆積相解析を行った.さらに河川堆積物による削剥面,海進面などで広範囲に追跡可能な不連続面を抽出し、シーケンス境界と堆積シーケンスを設定した.加えて,研究地域南部の沢田川,研究地域中部の芝ノ又川,研究地域北部の奔走川において泥岩資料をサンプリングし,全有機炭素量(TOC)分析,全窒素量(TN)分析,全硫黄量(TS)分析,安定炭素同位体比(δ13Corg)分析を行った.その後、シーケンス層序学的解釈と化学分析結果を比較検討した.
3.堆積相解析と堆積シーケンスの設定
岩相などの組み合わせから,本研究地域の魚沼層群は礫質主要河道,氾濫原(上部デルタプレイン),分流河川河道(上部デルタプレインから下部デルタプレイン),河口洲,湾頭デルタ・干潟から潮下帯,エスチュアリー中央盆地から湾口部,前浜(下部デルタプレイン),上部外浜(下部デルタプレインから上部デルタフロント),下部外浜(上部デルタフロント),内側陸棚(下部デルタフロントからプロデルタ),外側陸棚(プロデルタ),海進期外浜の12の堆積相に区分可能であり,河川卓越・波浪影響のデルタシステムとエスチュアリーシステムによって形成されたことが示唆された.また,14のシーケンス境界と15の堆積シーケンスを設定した.これらの堆積シーケンスは酸素同位体比曲線であるLR04 stack (Lisiecki and Raymo, 2005)と比較的よい一致を示すため,平均約10万年周期の第4オーダー堆積シーケンスであり,その形成要因はミランコビッチサイクルによる氷期の低海水準である可能性が高い.また,SB-9からの堆積シーケンスはより低次の第3オーダー堆積シーケンスの境界である可能性が高く、その形成要因は長周期の寒冷化に伴う海水準低下に対応すると考えられる.
4.堆積シーケンスと化学分析結果
第4オーダー堆積シーケンスのシーケンス境界と化学分析値の変動については,一致する箇所と一致しない箇所が存在する.研究地域北部で海洋環境の卓越した奔走川では,下部は外浜環境と陸棚環境を繰り返すためか,化学分析値に大きな変動は見られない.一方,上部の河川・エスチュアリー環境など海成層と陸成層の環境が見出されると,化学分析値の変動が大きくなり,一部シーケンス境界と一致する.シーケンス境界での化学分析値の変動が比較的大きいのは芝ノ又川の分析結果であり,陸成層と海成層が繰り返すため,環境変化が化学分析値にも明瞭に見いだされ,堆積シーケンスの考察の一助となっている.一方,河川環境が卓越し,堆積シーケンスを設定できない南部の沢田川中部~上部では,各分析値の変動も小さくなる.
また,第3オーダー堆積シーケンスのシーケンス境界として推察したSB-9についても,芝ノ又川では化学分析値の変動とよい一致を示すが,北の奔走川、南の沢田川では分析値の変動が小さく対比が難しい.
以上から,本研究地域では化学分析結果は堆積シーケンスを考察する上で補助的に役立つが,全ての堆積シーケンスには対応していないようにみえる.これは,各環境下での堆積物の保存性,河川卓越デルタによる淡水の影響が強い環境であったと推察されること,地形的要因など地域的要素が化学分析結果に強く影響するためであると考えられる.
5.結論
研究地域の魚沼層群は主に河川卓越デルタシステムとエスチュアリーシステムの繰り返しで形成される.上位へ向かうにつれ河川システムの影響が強くなり,南部では早い時期から河川環境が卓越し,北部では海洋環境が多く見出される.本研究地域の堆積シーケンスと化学分析結果は河川環境と海洋環境が繰り返す場合は明瞭な変動を示すが,同一環境が連続する場合は変動が小さくなる.したがって,化学分析結果は堆積シーケンスを考察する際に補助的に利用することが可能である.
6.文献
Lisiecki, L.E. and Raymo, M.E.,2005, A Pliocene-Pleistocene stack of 57 globally distributed benthic δ18O records. Paleoceanography,20.
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