講演情報

[T15-P-35]北西インド・ Ladakh 地方におけるIndus層群の古土壌

*吉田 孝紀1、Das Supriyo Kumar2、M.C. Manoj3 (1. 信州大学理学部、2. プレジデンシー大学、3. ビーバル・サーニ古植物研究所)
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キーワード:

ヒマラヤ、モラッセ、中新世、古土壌

インドとユーラシアの衝突の過程で生じたアジア大陸南縁の隆起と侵食に伴い生じた堆積物はIndus 層群として知られている[1, 2].この地層はオフィオライト起源の礫や花崗岩礫を含む粗粒な礫岩を含み[1],アジア南縁の隆起と侵食に伴う環境変化を記録していると考えられる.近年,この地層中から漸新世のU-Pb年代を示す砕屑性ジルコンの存在が報告され,その堆積が漸新世後期以降であることが示されている[3].
 一方,古土壌はその当時の気候条件を良く反映し,その検討は陸上域における堆積環境の復元手法として有用である.北西インド,カシミールのLadakh地域にはIndus層群が模式的に露出し,多数の古土壌層準が認められる.今回,Ladakh南東部のインダス川西部に露出する,Indus 層群のNimu 層,Nurla 層 [4]の古土壌を記載し,その堆積環境について報告する.
 北西インド,カシミールのラダック地域のIndus層群は古第三系Tar層群の上位に発達し,下部よりNurla 層,Choksti Conglomerate層,Hemis Conglomerate層,Nimu 層からなる.Nimu層の延長(Wakka Chu Molasse層)から新第三紀中新世の脊椎動物化石が見つかっているが,そのほかの地層については明瞭な化石を欠き,新第三系・古第三系のいずれに属するのか判然としない.
 ラダック地方の中心都市であるレー(Leh)の東南80kmに位置するUpshi村の南西ではNurla層からNimu 層までの一連の地層群が観察される.Nurla 層は層厚700m以上に及び [4],主に粗粒砂岩のユニットと雑色の砂岩泥岩互層からなる.時に泥質岩の卓越層を挟む.泥質岩は主に緑色,赤紫色,赤色を呈する.蛇行河川とその周辺堆積物からなり,古土壌が発達する.氾濫源堆積物に認められる古土壌は,長さ30cmを超える根痕を含み,一部は長さ1mに達する.カリチ(炭酸塩ノジュール)を含み,土層分化が明瞭である.粘土鉱物に富む細粒層が認められ,鉄鉱物が濃集した薄層(鉄鉱物ノジュール)を伴うことがある.古土壌層はAlfisols, Ultisols, Oxisols に相当する.地下水によるグライ化を被った古土壌も認められる.
 Nimu層は層厚600m以上に達し[4],主に粗粒~中粒砂岩のユニットと雑色砂岩泥岩互層,雑色の泥質岩から構成される.泥質岩は主に緑灰色,赤色を呈するが黒色,灰緑色のものも多い.下部は網状河川堆積物,上部では蛇行河川周辺の氾濫原堆積物,湖成堆積物からなり,古土壌層が発達する.氾濫源堆積物はカリチを豊富に含み,植物根や生痕も頻繁に認められ,一部には二枚貝化石を含む.砂岩層は赤色~緑色を呈するが,グライ化を被っているところが多い.湖成堆積物はカリチに乏しく,菱鉄鉱の微小ノジュールを含む.古土壌は土層分化が明瞭であり,大型生痕や炭酸塩ノジュールに覆われた根痕を伴う.Inceptisols, Oxisols, Spodosolsに相当する.
 Nurla層の古土壌はカリチや鉄酸化物ノジュールを含むことから,季節性に乏しく,かつ地下水位が低く,乾季を伴う気候条件での堆積が示唆される.明瞭な土層分化は比較的低い堆積速度を示唆する.一方,Nimu層での古土壌層変化は,季節性に富み,グライ化を引き起こすような高い地下水位のもとでの堆積を示す.これは降水に富んだ熱帯モンスーン気候を示唆するかもしれない.現在,この地域の南側にはヒマラヤ山脈が位置し,南からの湿潤な季節風の侵入を妨げている.しかし,第三紀中新世では降水に富んだモンスーン環境にあり,現在とは大きく異なった気候条件下にあったと考えられる.

文献
[1] Searle et al., 1990, Tectonophysics, 174, 301-314, [2]Brookfield and Andrews-Speed, 1984, Sed. Geol, 40, 249-286, [3] Zhou et al., 2020, Jour. Geol. Soc., 177, 818-825. [4] Sinclair and Jaffey, 2001, Jour. Geol. Soc., 158, 151-162.

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