講演情報

[T15-P-36]御岳第1テフラを事例とした給源からの距離と火山ガラスの形態の関係—屈折率による降下ユニット認定と気泡幅の変化を中心にー

*橋本 真由1、鈴木 毅彦1 (1. 東京都立大学)
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テフラに含まれる火山ガラスの形態は,テフラ対比のための判断要素の1つとして用いられている.火山ガラスの粒径や形態が給源火山からの距離によって変化することは,町田・新井(1978)や長橋ほか(2007)で述べられている.しかし,このような変化を火山ガラスの定量的な形態分類を行った上で検討した研究はほとんどない.そこで本研究では,火山ガラスの屈折率測定をもとに,岸・宮脇(1996)の形態分類法で着目された気泡幅を取り上げると同時に,火山ガラスの屈折率に基づき各地の降下ユニットの対応関係についても検討した.すなわち一枚のテフラを事例に給源火山からの距離に応じたそれらの変化の実態解明を試みた.
本研究では,中部日本の御嶽火山において約10 万年前に発生したプリニー式噴火による御岳第1テフラ(On-Pm1)を用いた.On-Pm1の認定は火山ガラスの屈折率に基づいた.以下,対象地点と屈折率を示す.長野県木曽町福島,伊那市西春近,塩尻市塩尻町,川上村大深山,静岡県小山町中島林道,神奈川県相模原市名倉,東京都あきる野市三内,神奈川県平塚市人増,栃木県那須町高久,鹿島沖コアで採取した試料を用いた.木曽町福島と平塚市人増の試料は「日本列島テフラ標準試料」(https://tephra.fpark.tmu.ac.jp/index.html)を用い,鹿島沖コアの試料は青木ほか(2008)の試料を提供していただいた.火山ガラスの屈折率の測定は東京都立大学地理環境学科所有のRIMS2000を用いて行い,火山ガラスの計測は,東京都立大学地理環境学科所有のデジタルマイクロスコープ(DMS)を用いて行った.DMSの計測機能を用いて各地点で採取した粒径> 500 µm,250-500 µmの火山ガラスの気泡幅をそれぞれ100粒子計測した.火山ガラス1粒子につき最大幅と見られる気泡幅の計測を行った.気泡幅を5 µmごとに区分した出現度数のヒストグラムを作成し,ユニット間・地点間の比較を行った. 
 青木ほか(2008)でOn-Pm1の中位の火山砂中の軽石の火山ガラスの屈折率が1.503-1.506であり,一連の噴火の過程で火山ガラスの屈折率が変化していると述べられている.本研究では,用いた試料の那須町高久,相模原市名倉,塩尻市塩尻町を除いてでOn-Pm1の火山ガラスの屈折率は青木ほか(2008)の軽石層と同様の値が得られた.鹿島沖コアは青木ほか(2008)同様に1.503-1.505の高い値であり,那須町高久,相模原市名倉,塩尻市塩尻町の一部のユニットで1.497-1.500のやや低い屈折率の値になった.
すべての採取地点と採取ユニットを通じて,>500 µmと250-500 µmの粒径間では気泡幅の出現頻度に大きな違いは見られなかった.複数ユニット採取した地点のうち,給源火山から149-159 kmに位置する静岡県小山町中島林道,神奈川県相模原市名倉,東京都あきる野市三内で,上位ユニットほど気泡幅の大きい火山ガラスの出現頻度が増加するという結果が得られた.これに対して給源火山からそれぞれ39.8 kmおよび52.1 km離れた伊那市西春近,塩尻市塩尻町では,下位ユニットにおいて気泡幅の大きい火山ガラスの出現頻度が高くなり遠方の地点とは異なる傾向が見られた.その上位のユニットでは気泡幅が小さくなり,149-159 kmの地点と同様に上位ユニットほど気泡幅の大きい火山ガラスの出現頻度が増加した.給源近傍の下位ユニットの気泡幅は給源遠方の下位ユニットよりも大きく,複数ユニットを採取したすべての地点で,上位に堆積したユニットほど気泡幅の大きい火山ガラスの出現頻度が増加したことから,給源火山からの距離とユニットによって気泡幅が変化することが確認できた.
火山ガラスの屈折率測定より,ユニットを問わず火山ガラスの屈折率が同じであり,青木ほか(2008)と異なる結果になった.このことから給源遠方の鹿島沖コアとその他の地点で見られるユニットが異なると考えられる.地点ごとにOn-Pm1の運搬されているユニットが異なる可能性があるため,さらに運搬されやすいユニットを検討していく必要がある.今後,気泡の形成過程や運搬されやすい火山ガラスの形態を明らかにするため,定量的な形態分類に基づいた火山ガラスの形態の研究を進める必要がある.その成果は,テフラの固有情報として確立され,テフラ対比のための一指標として用いることも可能となるであろう. 
引用文献:町田・新井 (1978) 第四紀研究,17,143-163.長橋ほか (2007) 第四紀研究,46,305-325.岸・宮脇 (1996) 地学雑誌,105,88-112.青木ほか (2008) 第四紀研究,47,391-407.

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