講演情報
[G-P-15]活断層の上下盤における宇宙線生成核種10Beの地表濃度の分布特性(第2報)
*國松 航1、和田 伸也1、大塚 良治1、岩森 暁如1、朝日 信孝2、山根 博2、林崎 涼3、中田 英二3、松四 雄騎4 (1. 関西電力株式会社、2. 大日本ダイヤコンサルタント株式会社、3. 電力中央研究所、4. 京都大学)
キーワード:
宇宙線生成核種、断層活動性評価、白木-丹生断層、江若花崗岩、削剥
はじめに:宇宙線生成核種(10Be)の濃度測定技術を活用した地球科学分野における研究事例として松四ほか (2007) があり,地盤の削剥速度決定や,段丘の形成年代決定に同技術が適用できることが紹介されている.10Beは宇宙線の照射により地表から深度約5mの岩盤または堆積層に含まれる石英中に生成され,その濃度は深度の増大に伴って減少する.このことから,上下変位が卓越する逆断層の場合,下盤側に比べて削剥速度が相対的に大きい上盤側で10Be濃度が小さいこと,上下変位が小さい横ずれ断層の場合,上盤側・下盤側の10Be濃度差が小さいことが予想され,断層両盤における10Be濃度の相対比較により断層の上下変位の有無や変位速度の類推が可能となることが期待される.本研究では,福井県敦賀半島に分布する江若花崗岩(後期白亜紀)中で北北東-南南西方向に延びる白木-丹生断層(最新活動時期:約9,000年前以降,約7,700年前以前,平均変位速度:約0.1–0.2 m/ky)を対象とし,10Beの地表濃度の分布特性について検討した.大野ほか(2022)は,福井県三方郡美浜町丹生の北東方に位置するSN地点 (北緯35度43分18.1秒,東経135度58分44.4秒) で認められた幅約2 mの断層破砕帯を挟んで10Beの地表濃度の分布特性について報告した.本研究では第二報として,測定箇所を広げて10Be濃度のデータを拡充し,活断層近傍の地表における10Beの濃度分布特性について検討した(図1, 2).
測定試料・分析方法:試料は白木-丹生断層の断層破砕帯と,上盤側・下盤側の健岩部の地表で採取し,下盤側の健岩部においては,石英脈からも試料を採取した.試料からの石英抽出は松四 (2017) に示される手法を用いた.試料の10Be/9Be同位体比は,東京大学総合研究博物館タンデム加速器研究施設(MALT)の加速器質量分析(AMS: Accelerator Mass Spectrometry)システムで測定した.同位体比は,米国カリフォルニア大学が配布販売する標準物質(KNSTD07, KNB5-1)で計測値を規格化することで算出した.核種濃度は,得られた同位体比にキャリア量を乗じ,バックグラウンドを差し引いたのち,石英重量で除して算出した.分析の誤差は,AMSシステムの揺らぎ,検出器での10Be計数誤差,およびキャリアの添加量の不確かさを考慮し一標準偏差(1σ)とした.
結果・考察:10Be濃度は下盤側で0.8×104~1.5×104 atoms/g 程度,上盤側は断層面から離れるにつれ大きくなり,最大2.2×104 atoms/g程度となる.この核種濃度は,こうした地形条件下において通常期待されるよりも全般的にやや小さく,この地点の侵食速度が大きいこと,もしくは地表面を覆っていた土層や岩盤が近い過去に除去されたことを反映している可能性がある.また,局所的に核種濃度が小さい箇所が存在し,破砕部の近傍で濃度が小さくなる傾向がある.このことは,この斜面が,地表面における核種濃度に有意な差を与えるほどの表層物質の除去を経て,現状の被覆物を欠いた状態に至った蓋然性が高いことを示唆している.このデータを用いて,断層活動の上下変位とそれに応答する上下盤での侵食速度の空間変化および除去された表層物質の厚みを考慮した核種蓄積のモデリング結果を紹介する.
【引用文献】
松四ほか (2007) 宇宙線生成核種10Beおよび26Alのプロセス地形学的応用:地形,28,87-107.
松四雄騎 (2017) 宇宙線生成核種を用いた岩盤の風化と土層の生成に関する速度論-手法の原理,適用法,研究の現状と課題-:地学雑誌,126(4),487-511.
大野ほか (2022) 活断層の上下盤における宇宙線生成核種10Beの地表濃度の分布特性:日本地質学会第129年学術大会
測定試料・分析方法:試料は白木-丹生断層の断層破砕帯と,上盤側・下盤側の健岩部の地表で採取し,下盤側の健岩部においては,石英脈からも試料を採取した.試料からの石英抽出は松四 (2017) に示される手法を用いた.試料の10Be/9Be同位体比は,東京大学総合研究博物館タンデム加速器研究施設(MALT)の加速器質量分析(AMS: Accelerator Mass Spectrometry)システムで測定した.同位体比は,米国カリフォルニア大学が配布販売する標準物質(KNSTD07, KNB5-1)で計測値を規格化することで算出した.核種濃度は,得られた同位体比にキャリア量を乗じ,バックグラウンドを差し引いたのち,石英重量で除して算出した.分析の誤差は,AMSシステムの揺らぎ,検出器での10Be計数誤差,およびキャリアの添加量の不確かさを考慮し一標準偏差(1σ)とした.
結果・考察:10Be濃度は下盤側で0.8×104~1.5×104 atoms/g 程度,上盤側は断層面から離れるにつれ大きくなり,最大2.2×104 atoms/g程度となる.この核種濃度は,こうした地形条件下において通常期待されるよりも全般的にやや小さく,この地点の侵食速度が大きいこと,もしくは地表面を覆っていた土層や岩盤が近い過去に除去されたことを反映している可能性がある.また,局所的に核種濃度が小さい箇所が存在し,破砕部の近傍で濃度が小さくなる傾向がある.このことは,この斜面が,地表面における核種濃度に有意な差を与えるほどの表層物質の除去を経て,現状の被覆物を欠いた状態に至った蓋然性が高いことを示唆している.このデータを用いて,断層活動の上下変位とそれに応答する上下盤での侵食速度の空間変化および除去された表層物質の厚みを考慮した核種蓄積のモデリング結果を紹介する.
【引用文献】
松四ほか (2007) 宇宙線生成核種10Beおよび26Alのプロセス地形学的応用:地形,28,87-107.
松四雄騎 (2017) 宇宙線生成核種を用いた岩盤の風化と土層の生成に関する速度論-手法の原理,適用法,研究の現状と課題-:地学雑誌,126(4),487-511.
大野ほか (2022) 活断層の上下盤における宇宙線生成核種10Beの地表濃度の分布特性:日本地質学会第129年学術大会
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