講演情報
[T9-O-2]野母半島茂木地域長崎変成岩類の白雲母K–Ar年代測定
*青木 一勝1、小平 将大2、八木 公史3、藤原 泰誠3、岡田 郁生3 (1. 岡山理科大学、2. 長崎市恐竜博物館、3. 蒜山地質年代学研究所)
キーワード:
K-Ar、白雲母
西南日本には4つの主要な低温高圧型変成岩(以下、高圧変成岩)が広く分布し、それぞれ蓮華変成岩(古生代)、周防変成岩(前期中生代)、智頭変成岩(ジュラ紀)、三波川変成岩(白亜紀)と呼称される。それらは、互いに同一の変成相系列の中で構造的に累重する場合や、弱変成付加体に対しブロック状、もしくはサンドウィッチ状構造で産することが多い。このような特徴的な産状は高圧変成岩の形成/上昇プロセス理解の鍵になるため、高圧変成岩の空間分布(地体構造区分)の特定は欠かせない。そのなかで本研究は、智頭変成岩に注目した。なお、智頭変成岩と周防変成岩はこれまで同一変成岩とみなされ「三郡変成岩」や「周防変成岩」と呼ばれてきたが、近年の年代学的研究結果を考慮し両者を区別した(例えば、磯崎ほか,2010)。智頭変成岩は九州から中国地方にかけて分布する。特に九州西部に分布する智頭変成岩は三波川変成岩相当の岩石に対し構造的上位に累重する地質構造を示し、両者は一括して「長崎変成岩類」と呼称されてきた。今回、長崎変成岩類が分布する野母半島南西部地域の北東延長部にあたる茂木地域に注目した。同地域は、変成度解析からユニットI(パンペリー石-アクチノ閃石相から緑色片岩相相当)とユニットII(緑色片岩相から青色片岩相相当)に区分されている(西村ほか,2004)。また、白雲母K-Ar年代値にも違いがあり、ユニットIでは162–214 Ma、ユニットIIでは86–87 Maの値を示すため、そのユニット境界は地体構造境界「野母構造線」として知られている(西村ほか,2004)。野母半島南西部地域など他の地域に分布する長崎変成岩類からも同様の報告があり(例えば、Nishimura et al., 1998; Miyazaki et al., 2019)、長崎変成岩類が変成年代の異なる2種類の広域変成岩からなることを裏付ける。しかし、弱変成岩の白雲母 K-Ar 年代は,200–300℃の変成温度ゆえの再結晶不完全性による砕屑性白雲母の残存によってその値が実際の年代値よりも古くなる場合がある。したがって、ユニットIから報告されている変成年代値の約5000万年の年代幅についても砕屑性起源白雲母の混入に起因する可能性がある。そこで、我々はユニットIの変成年代を再検討するため、実験的に泥質変成岩2試料(NG22-01 & -03)に水簸法(例えば、加藤ほか,2020)を適用し、白雲母K-Ar年代測定を行なった。砕屑性白雲母は経験的に変成白雲母よりも粒径が大きい傾向があるため、この性質を利用した分離法である水簸法を採用することで砕屑性白雲母の混入を抑える効果が期待される。測定試料のカリウム含有量はNG22-01が5.5 wt%、NG22-03が3.5 wt% であった。前者に比べ後者のカリウム含有量はやや低かったが、得られた K-Ar 年代値(誤差 2σ)はそれぞれ81.5 ± 1.8 Ma(NG22-01)と83.8 ± 1.9 Ma(NG22-03)であり、試料間で大きな年代の違いは確認されなかった。本研究で得られた結果は従来ユニットIから報告されている年代値(162–214 Ma)に比べ優位に若く、またユニットIIから報告されている年代値(86–87 Ma)と大きくは変わらない。このことは過去の年代測定試料が砕屑性白雲母の影響を強く受けていたとする考えと矛盾しない。また、茂木地域における野母構造線はこれまで推定された位置よりも東側、もしくはユニットIとIIともに三波川変成岩相当であり、茂木地域には地体構造境界としての構造線は存在しない可能性を示す。今後水簸法を用いた白雲母K-Ar年代測定を広く行い、長崎変成岩類の空間分布をより詳しく検討していく必要がある。
引用文献
磯崎ほか, 2010. 地学雑誌, 119, 999–1053.西村ほか, 2004. 地質学雑誌, 110, 372–383. Nishimura, 1998. J. metamorphic Geol., 16, 129–140.Miyazaki, et al., 2019. CMP, 174, doi.org/10.1007/s00410-019-1629-8.加藤ほか,2021. 地質学雑誌, 127, 437–442.
引用文献
磯崎ほか, 2010. 地学雑誌, 119, 999–1053.西村ほか, 2004. 地質学雑誌, 110, 372–383. Nishimura, 1998. J. metamorphic Geol., 16, 129–140.Miyazaki, et al., 2019. CMP, 174, doi.org/10.1007/s00410-019-1629-8.加藤ほか,2021. 地質学雑誌, 127, 437–442.
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