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[T9-O-8][招待講演]海溝寄り地域の火成岩の時空分布から見た西南日本の中新世テクトニクス

*新正 裕尚1、折橋 裕二2、安間 了3 (1. 東京経済大学、2. 弘前大学、3. 徳島大学)
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キーワード:

中新世、西南日本、火成岩、放射年代、四国海盆、沖縄トラフ

中新世に起こった西南日本と東北日本の大陸からの分離は,日本列島の現在の形を決めた変動である.特に西南日本については古地磁気学的研究から分離の最終段階として時計回り回転をして急速に現位置に至ったことが示されている.さらに近年の回転時期の詳細な検討により,16 Maごろまでに回転が終了したことが提唱されている(Hoshi et al, 2015).しかし時計回り回転前後のプレート配置には依然議論があり,回転前に西南日本に対面していたプレートは何か,回転直後の伊豆小笠原弧の位置がどこであったかが,とりわけ回転前後の地域のテクトニクスを論じる上で重要である.西南日本弧の時計回り回転と「ほぼ同時期」に海溝寄り地域に広域的な火成活動が見られる.火成岩の岩石化学および時空分布はマグマ形成のテクトニックな環境についての情報をもつので,本報告では西南日本の海溝寄り地域の火成活動の時空分布のレビューに基づき中期中新世ごろの西南日本周辺のプレート配置などについて議論する.また,演者らは西南日本弧と琉球弧の接合域にあたる,海溝寄り地域の火成活動の西縁部である九州西部に分布する中期〜後期中新世の貫入岩類の年代等の見直しを行っており,それらの結果を紹介し北部沖縄トラフの拡大との関連についても考察する.
西南日本の海溝寄り地域火成活動は外帯の珪長質火成岩類,瀬戸内火山岩類,外縁帯の火成岩類(高橋, 1986)に大別できる.近年のジルコンのU-Pb法を中心とする年代測定結果からは,これらの火成活動はすべて回転終了後のものと見られる.外帯の珪長質火成岩の年代はほぼ14.5 ± 1.0 Maの範囲に入る(Shinjoe et al., 2021a).一方,瀬戸内火山岩類は一部地域で12 Maごろまでにおよぶ活動が見られるが(Sato & Haji, 2021),14-15 Maの範囲の年代の報告が多く,島弧横断方向に最大150 km幅の領域でほぼ同時期に火成活動が見られたことになる.このように九州西部から紀伊半島にかけて外帯珪長質火成岩類,瀬戸内火山岩類のセットは島弧延長方向に年代や岩相がかなり均一であり,拡大直後の高温の四国海盆沈み込みが引き起こしたマグマ活動がこの範囲で起こったものと見られる.したがって西南日本の回転終了直後の九州パラオ海嶺は九州の西方に(Tatsumi et al., 2020),伊豆小笠原弧の接合は少なくとも紀伊半島以東であり,伊豆弧の幅を考えると海溝型三重会合点はより東方にあったはずである.外縁帯の火成岩の中でも拡大終焉期の四国海盆の縁海性ソレアイトに由来するとされる室戸岬斑れい岩体の年代が15.6 Maと回転終了直後であることも,この地域が当時四国海盆と対面していたことを強く示唆する.
鹿児島西方沖の甑島諸島には,従来外帯の珪長質火成岩と対比の可能性が指摘されていた花こう閃緑岩体が分布するが,ジルコンU-Pb法で放射年代の再検討を行ったところほぼ10 Maの形成年代であることが明らかになり,北部沖縄トラフの拡大(Sibuet et al., 1995など)に関連したマグマ活動である可能性を指摘した(Shinjoe et al., 2021b).甑島諸島には貫入時期と方位の異なる岩脈群があり,それらの異なる貫入時期の間に当地域は反時計周りのブロック回転を被ったことが示され,北部沖縄トラフ拡大との関連が議論されている(Tonai et al., 2011).また, Ushimaru & Yamaji (2023)は西部九州天草地域の古応力解析などに基づき中期中新世の島弧伸長方向の伸長場の存在を示し,沖縄トラフ北部のリフト伝播の停滞に原因を求めている.これら沖縄トラフ北部の拡大の開始を示唆する観察の時代論に拘束を与えるために,当地域の岩脈岩を含む火成岩類の年代の詳細な検討が重要である.
文献:Hoshi et al. (2015) EPS,67, 92.; Sato & Haji (2020) Island Arc, 30, e12405.; Shinjoe et al., (2021a) Geol. Mag., 158, 47–71.; Shinjoe et al., (2021b) Island Arc,30, e12383.; Sibuet et al., (1995) In B. Taylor (ed.), Back arc basins, 343–379, Springer.; 高橋 (1986) 科学, 56, 103–111.; Tatsumi et al. (2020) Sci. Rep., 10, 15005.; Tonai et al. (2011) Tectonophys. 497, 71–84.; Ushimaru & Yamaji (2023) J. Struct. Geol., 173, 104894.

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