講演情報

[T17-O-3]日向灘のスロースリップ検出の試み:海底光ファイバー歪計設置に向けて

*木下 正高1、荒木 英一郎2、仲田 理映1、土岐 知弘4、横田 裕輔5、山下 裕亮6、橋本 善孝3、濱田 洋平2、澤井 みち代7 (1. 東京大学地震研究所、2. 海洋研究開発機構、3. 高知大学教育研究部、4. 琉球大学理学部、5. 東京大学生産技術研究所、6. 京都大学防災研究所、7. 千葉大学理学研究院)
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キーワード:

日向灘、九州パラオ海嶺、スロースリップ、光ファイバー歪計、海山沈み込み

M8超の巨大地震発生が懸念される南海トラフの西端、日向灘周辺ではこれまでM8級の地震は発生していない。日向灘には、四国海盆と西フィリピン海盆の境界をなす、九州-パラオ海嶺(KPR)が沈み込んでいる。KPRとして沈み込んだ海山の周囲でスロー地震(微動・超低周波地震=VLFE・スロースリップ=SSE を総称)が時折発生し,震源位置が数十 km/day 程度で移動することが知られている。スロー地震の発生原因の一つが間隙水圧異常とされる.一方海山や突起の沈み込みがスロー地震発生に大きく影響することも認識されてきた.露頭観察・数値計算・実験により,海山沈み込みが上盤地層を変形・破砕し,応力や強度の不均質を生じることが推定された。海山等の沈み込みにより周囲の応力場が乱れるとともに,破砕帯が形成され強度が低下して固着が弱まっていることを,海山直上の海底・掘削・陸上の観測により検証するプロジェクトを、2019年より実施しており、2024年度から本格的に開始した.海山沈み込みとスロー地震の関係を議論する上で、日向灘(海山・微動あり、SSE未検出)、室戸沖(海山・微動・SSEあり)、熊野沖(海山なし、微動・SSEあり)といったケースを比較検討する。日向灘ではSSEは未検出であるが、これまでYokota & Ishikawa (2019, Science Advances) による海底GNNS観測があるのみで、連続観測が存在しないため、存在するかどうかは不明である。そこで本プロジェクトでは、JAMSTEC荒木らが開発し、南海トラフで設置実績のある海底設置型の光ファイバー歪計(OFS)2基を、日向灘に設置する計画である(図)。OFSに加えて、水圧計、広帯域地震計を海山周辺の海底に設置する.海底設置型OFSは、光ファイバー200mを海底面上に展張し、その微小な長さ変化を計測してピコstrain(1e-12)の分解能を実現するものである。室戸沖では、7e-7 strain の変化が約3週間かけて観測され、SSEが発生したと解釈された(荒木、2022)。沈み込んだ海山周辺のSSEは、1kPa程度の水圧変動(約1e-7の体積歪変化)に相当すると予想している。ただし、海山付近で1e-7 strainが生じたとしても、海底に到達するまでに減衰する可能性があり、それも併せて検出可能性を探っている。設置地点として、Yamashita et al. (2015 Science)などにより検出された微動・VLFEが密集している場所(http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/のデータも参照)を中心に検討している。Araki et al. (2017, Science)などによれば、より放出エネルギーが大きいSSEの発生に伴い、その周縁部で微動が発生する場合があるが、両者の関係はいまだ議論がある。いずれにせよ、海山沈み込みによる応力場異常や破砕帯の形成、そして間隙流体(圧)異常をうまく区別できる場所を慎重に選ぶ必要がある。設置にあたっては、限られた台数を、どこで起きるかわからないSSEに対して「敏感な」地点を選んで行うことが重要である。平坦であることは当然だが、斜面堆積物や基盤岩露出、断層帯の有無などが判断の基準になる。海底地形図と合わせて、これまでに日向灘でえられた反射法地震探査測線データを詳細に検討した。その結果、日向灘の前弧域斜面には、海山が沈み込む前から存在した付加体の断層が、海山沈み込みにより再活動したと予想される構造(背斜など)がいくつか見つかった。流体移動に関する情報としては、沈み込んだ海山の西側で南から北への微動の移動、北側では西から東への移動などが手掛かりとなる。また海山の東に微動が集中して起きる場所があるが、その場所がもし流体が集中しているのであれば、SSE検出の重要な候補となる。一方、我々は、KPRの東側で熱流量が高く、その西側では熱流量が極めて低いことを示した.特に熱流量が海山の周囲で特に低いことが判明した。海山および近傍の低熱流量は,一部は地形効果や堆積・浸食効果で説明できるかもしれないが、沈み込む前に海山自体が熱水循環で冷却されていたか、海山沈み込みによる周囲の応力異常・水理擾乱に起因する流体循環により冷却されたと考える。後者のモデルがprimaryだと考えるが、その場合、海山の通過跡では上盤が破砕され、間隙率や浸透率が高く、また断層や破砕帯を流路とした,活発な流体移動が起きていることが予想される。いずれにせよ、SSEと流体移動を区別するために、OFS設置点付近には、明らかな流体湧出がないことが重要と考えている。 これらを考慮した結果、予稿執筆時点(2024/6/24)では、沈み込んだ海山の斜め前方(北東)が最適であろうと考えている。圧縮応力が卓越し、流体移動による低熱流量とスロー地震の発生の可能性が高いと想定される。なお、IODP3(次期国際深海掘削計画)で掘削予定の地点は、同じく沈み込んだ海山の北東側を想定している。

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