講演情報
[T17-O-4]構造性メランジュのレオロジーモデルと天然からの制約
*橋本 善孝1 (1. 高知大学)
キーワード:
構造性メランジュ、レオロジー
沈み込みプレート境界のレオロジーモデルは沈み込み帯地震の多様なすべりを理解する上で重要である.陸上付加体に特徴的にみられる構造性メランジュはブロックが基質に取り囲まれた組織(Block in Matrix Texture, BMT)を持つ.レオロジカルな不均質が多様なすべりを起こすとするモデルから(Ando et al., 2010),このメランジュのような物質的不均質がそのアナログ物質であるとする提案がある(たとえばAke and Sibson, 2010).また,BMTのレオロジーモデルによって,不均質な物質全体がどのような物性を示すかを時間発展とともに議論している.しかし,このモデルに与えているパラメータは,ジオメトリと物性に大きく異存しており,環境の議論が少ない.本論では, BMTのレオロジーモデルの先行研究を示した上で,天然での新たな環境の制約が,どのようにモデルに適応できるかを議論する.例えばBeall et al. (2019)はブロックの専有率が50%程度以上ではブロック同士の連結が発生し,全体として剪断帯の粘性率が増加する閾値があることを示した.また,Vannucchi et al. (2022)では,コスタリカ陸上付加体の脆性破壊したブロックと未変形な基質の産状を示し,室内実験でブロックと基質の粘着度を測定した上で,基質の粘着度がより高いことから,基質の塑性的な破壊の前に,ブロックが脆性的に破壊するモデルを示した.また,配列したブロック間には歪みシャドーができ,歪みを担う基質の厚さは,ブロックの衝突によらず制約されることを示した.ブロックと基質のジオメトリと一般的な粘性率と実験室で得た粘着度によるモデルであり,剪断変位速度を与えて歪みの発展と破壊を議論している.それでも,この段階で既にBMTが複雑なレオロジーを示すことに成功している.一方で,天然からは,ブロックに発達する引張クラック,基質に発達する剪断脈,底付け断層帯に付随する引張クラックなどの古応力解析,それぞれの構造に伴う鉱物脈中の流体包有物解析による温度圧力履歴,そして岩石破壊理論を組み合わせることで,形成深度を独立に制約し,流体圧比と差応力をも制約することに成功している(Hosokawa and Hashimoto, 2023; Hosokawa et al., 2024;平岡・橋本, 2024).これらの応力場と深度,流体圧比,有効圧、差応力などの環境場の制約はどのようにモデルに組み込まれて,より良い理解へ向かうだろうか?モデルではジオメトリと物性および境界条件を与えた上でソルバーで偏差応力と歪みを計算している.物性には例えば基質とブロックの粘性率を10e18Pa*sおよび10e19Pa*sと与え,粘着度を5MPaや20MPaと与えている.また,上部の境界に10cm/yearの変位速度と剪断帯の厚さ100m程度を与えて,剪断帯の歪みの発展を有限要素法で計算する.このような現実にあり得そうな値を与えているにもかかわらず,応力方位や剪断応力の大きさそのものに注意が払われていない.この剪断応力は差応力の大きさに依存している可能性が高く,また差応力は有効応力にも依存しうる.すなわち流体圧の影響も受ける.これまでのモデリングは,意図しないうちにある特定の範囲の深さと流体圧を想定しており,結果として10cm/yearの速度が得られるように計算していることと同義である.すなわち,有効圧は差応力の大きさか深度に応じた平均応力に関するパラメータとして捉えることができ,もしこの天然から制約された環境として応力条件をモデルに与えられるとすると,実は歪み速度や変位速度の推定を可能にすることになる.モデルにはさまざまな限界があること,物理量やジオメトリも単純化されていることを考えると,直ちに環境の応力条件からすべり速度の制約へとジャンプすることは危険である.しかし,モデリングでは,実は歪み速度が変位速度と基質の実質厚さの,あるいは有効圧が変位速度と基質の実質厚さのトレードオフになっていたりして,何が鍵となるパラメータかが分かりにくくなっていく.従って,増加する天然情報とモデルを結びつけていこうとするときに,このような議論は重要な論点になりうる. Ando et al., 2010, GRL; Ake and Sibson, 2010, Geology; Beall et al., 2019, EPSL; Vannucchi et al., 2022, Nature Comm.; Hosokawa and Hashimoto, 2023, Scientific Reports; Hosokawa et al., 2024, JpGU; 平岡・橋本, 2024, JpGU
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