講演情報
[T17-O-5]古地磁気学的手法を用いたプレート境界断層の発熱温度推定
*内田 泰蔵1、橋本 善孝1 (1. 高知大学)
キーワード:
古地磁気学、付加体、断層、熱残留磁化
●はじめに 地球物理学の観測研究により、プレート境界断層の地震は「スロー地震」と「通常・巨大地震(以下、通常地震)」に大きく分けられている。また、スロー地震が通常地震を誘発する可能性が指摘されているため、両者は相互作用していると考えられている[1]。これら多様なすべりの関係を理解するため、地質学の研究では断層岩試料を用いて地震時の断層発熱温度を推定し、断層のすべり時間・すべり量・すべり速度を制約してきた[2]。しかし、これまで温度推定に用いられてきたビトリナイト反射率などの手法は、温度に対する反応の鋭敏さが欠け、短時間発熱に対する正確性が疑問視されている[3]。本研究は、古地磁気学の磁化が短時間発熱に対して反応が鋭敏であるという利点を生かし、残留磁化の緩和時間から断層発熱温度を制約することを目指す。
●地質概説 対象とする断層は、白亜系四万十帯横浪メランジュに発達する五色ノ浜断層である。この断層の幅数メートルの断層帯中に、明瞭な剪断面を持つ厚さ約20 センチメートルのカタクレーサイトが発達している。メランジュの過去の最高被熱温度はビトリナイト反射率から約200〜250 ℃と求められている[4]。古地磁気学の研究で、カタクレーサイトに特有な熱残留磁化が記録されており、その300〜360 ℃のブロッキング温度はメランジュの過去の最高被熱温度よりも高い温度を経験したことを示している[5]。
●手法 古地磁気・岩石磁気実験の結果は過去の研究[5]に基づく。試料はカタクレーサイトから定方位ブロックで採取し、実験室にて古地磁気実験用の直径1インチ試験片に成形した。試料に対して、磁性鉱物の同定のための岩石磁気実験と温度推定のための段階熱消磁実験を実施した。熱消磁は各段階で15 分間の加熱を行った。温度推定は、Néelの単磁区理論に基づく磁気緩和の図(ブロッキングダイアグラム)に段階熱消磁実験結果で得られたブロッキング温度を外挿して推定した[6]。
●結果 岩石磁気実験で、カタクレーサイトに含まれる主要な強磁性鉱物はマグネタイトとピロータイトであり、残留磁化測定でカタクレーサイトに300〜360 ℃または15〜20 mTでアンブロックする二次磁化が含まれることが明らかになっている。
●議論 カタクレーサイトの300〜360 ℃で消磁される二次磁化は、主にマグネタイトが担っていると考えられる。マグネタイトは、岩石磁気実験の結果、単磁区であることが推定されている。このアンブロッキング温度は300〜360 ℃を示すため、二次磁化は部分熱残留磁化としてキュリー温度(約580 ℃)以下で獲得したと考えられる。熱消磁の時間が15分だったので、15分間360 ℃の熱消磁で消える成分をブロッキングダイアグラムに外挿すると、最高約400 ℃で加熱された可能性が示された。また、カタクレーサイトは母岩の最高埋没温度である250 ℃以上の加熱を受けていると考えられるので、250〜400 ℃の加熱があったことが推定された。
●引用文献 [1] Uchida, N., et al., Science, 2016, 351.6272: 488-492.; [2] Hamada, Y., et al., Earth, Planets and Space, 2015, 67: 1-12.; [3] Kaneki, S., 2018, Geophys. Res. Lett., 45.5: 2248-2256.; [4] Ohmori, K., et al., 1997, Geology, 25, 327-330.; [5] Uchida, T. et al., 2024, Tectonophysics, 871: 230177.; [6] Pullaiah, G. et al., 1975, Earth and Planetary Science Letters, 28.2: 133-143.
●地質概説 対象とする断層は、白亜系四万十帯横浪メランジュに発達する五色ノ浜断層である。この断層の幅数メートルの断層帯中に、明瞭な剪断面を持つ厚さ約20 センチメートルのカタクレーサイトが発達している。メランジュの過去の最高被熱温度はビトリナイト反射率から約200〜250 ℃と求められている[4]。古地磁気学の研究で、カタクレーサイトに特有な熱残留磁化が記録されており、その300〜360 ℃のブロッキング温度はメランジュの過去の最高被熱温度よりも高い温度を経験したことを示している[5]。
●手法 古地磁気・岩石磁気実験の結果は過去の研究[5]に基づく。試料はカタクレーサイトから定方位ブロックで採取し、実験室にて古地磁気実験用の直径1インチ試験片に成形した。試料に対して、磁性鉱物の同定のための岩石磁気実験と温度推定のための段階熱消磁実験を実施した。熱消磁は各段階で15 分間の加熱を行った。温度推定は、Néelの単磁区理論に基づく磁気緩和の図(ブロッキングダイアグラム)に段階熱消磁実験結果で得られたブロッキング温度を外挿して推定した[6]。
●結果 岩石磁気実験で、カタクレーサイトに含まれる主要な強磁性鉱物はマグネタイトとピロータイトであり、残留磁化測定でカタクレーサイトに300〜360 ℃または15〜20 mTでアンブロックする二次磁化が含まれることが明らかになっている。
●議論 カタクレーサイトの300〜360 ℃で消磁される二次磁化は、主にマグネタイトが担っていると考えられる。マグネタイトは、岩石磁気実験の結果、単磁区であることが推定されている。このアンブロッキング温度は300〜360 ℃を示すため、二次磁化は部分熱残留磁化としてキュリー温度(約580 ℃)以下で獲得したと考えられる。熱消磁の時間が15分だったので、15分間360 ℃の熱消磁で消える成分をブロッキングダイアグラムに外挿すると、最高約400 ℃で加熱された可能性が示された。また、カタクレーサイトは母岩の最高埋没温度である250 ℃以上の加熱を受けていると考えられるので、250〜400 ℃の加熱があったことが推定された。
●引用文献 [1] Uchida, N., et al., Science, 2016, 351.6272: 488-492.; [2] Hamada, Y., et al., Earth, Planets and Space, 2015, 67: 1-12.; [3] Kaneki, S., 2018, Geophys. Res. Lett., 45.5: 2248-2256.; [4] Ohmori, K., et al., 1997, Geology, 25, 327-330.; [5] Uchida, T. et al., 2024, Tectonophysics, 871: 230177.; [6] Pullaiah, G. et al., 1975, Earth and Planetary Science Letters, 28.2: 133-143.
コメント
コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン