講演情報
[T17-O-7]地震サイクルに伴う流体圧変動及び差応力の地質学的制約
*細川 貴弘1、橋本 善孝1 (1. 高知大学)
キーワード:
応力逆解析、流体圧、鉱物脈、沈み込み帯、メランジュ
沈み込みプレート境界に沿った流体は、変形及び物質の再分配に大きな役割を果たすと考えられる(e.g., Fisher et al., 2021)。特に流体圧は、沈み込みプレート境界におけるすべり挙動に大きな影響を与える。近年、陸上付加体から地震発生帯における地震サイクルに伴う流体圧変動は地質学的に制約されてきた (e.g., Otsubo et al., 2020, Hosokawa and Hashimoto, 2022)。しかし、地震サイクルに伴う流体圧変動を完全に捉えることはできていない。そこで本研究は、牟岐メランジュのメランジュ形成に伴い発達した鉱物脈と底付け断層帯近傍に発達する鉱物脈を対象とし、地震サイクルに伴う流体圧変動を定量化することを目的とする。
牟岐メランジュは、主に砂岩からなるブロックと頁岩からなるマトリックスからなる。本研究では、メランジュ形成過程において砂岩ブロックのみに発達する伸長鉱物脈(Type 1 鉱物脈)を対象に行う。Type 1 鉱物脈の流体温度・圧力は、125 – 195℃、92 – 143.6MPaと推定されている(Matsumura et al., 2003)。また、主に玄武岩からなる底付け断層帯近傍に発達するネットワーク状鉱物脈も対象に行う。ネットワーク状鉱物脈から、逆断層と正断層の2つの応力場が推定されていることから、底付け断層帯は地震サイクルを記録している(Hosokawa and Hashimoto, 2022)。
本研究では、まずHosokawa and Hashimoto. (2022)の手法をType 1鉱物脈に適用し、メランジュ形成時の流体圧比を推定する。Type 1鉱物脈に対して応力逆解析を行い、古応力と駆動流体圧比(P*)を推定した(Yamaji, 2016)。P*は、伸長鉱物脈形成時の最大過剰流体圧を差応力で正規化したものである(Otsubo et al., 2020)。P*を推定するためにDriving pressure index (DPI)を用いた(Faye et al., 2018)。そして、推定されたP*と岩石破壊理論から推定される理論的な流体圧と流体包有物から推定された流体圧(Matsumura et al., 2003)が一致する時の鉱物脈形成時の深さと岩石引張強度を制約することで、鉱物脈形成時の流体圧比を計算する。 応力逆解析の結果、Type 1鉱物脈は正断層応力場と横ずれ断層応力場の2つが得られた。そして、推定された応力場とP*、先行研究から推定された流体圧から、Type 1鉱物脈形成時の流体圧比は、0.7 – 1.1と制約された。この高い流体圧比は地震発生時まで維持されることが示唆されるため、地震発生時の流体圧比の下限であると考えられる。さらに本研究では、ネットワーク状鉱物脈形成時の差応力を推定する新たな手法を提案する。まず、応力逆解析を用いて、ネットワーク状鉱物脈を応力場で分類し、無次元化過剰流体圧比を計算した。無次元化過剰流体圧比は、鉱物脈形成時の過剰流体圧を差応力で正規化したものである。次に、応力場で分類した上でサンプリングしたネットワーク状鉱物脈を対象に流体包有物解析を行い、鉱物脈形成時の流体温度・流体圧を測定する。最後に、無次元化過剰流体圧比と推定された流体圧を用いることで、鉱物脈形成時の差応力を推定した。その結果、ネットワーク状鉱物脈形成時の差応力は、約21.9 – 52.1 MPaと推定された。この推定された差応力と剪断破壊の条件から、地震発生時の流体圧比と差応力の上限はそれぞれ、0.86、36.3 MPaと推定された。Type 1鉱物脈とネットワーク状鉱物脈の結果から、地震発生時の流体圧比は、0.7 – 0.86、差応力は36.3 – 77.8 MPaと制約された。さらに、地震発生時の動的な流体圧上昇量は、44.2 – 63.8 MPaで、流体圧比1.2まで上昇したことが示された。また、地震発生後の最大減少量は、約67 MPaと制約され、流体圧比が0.7まで減少することが示された。本手法を付加体発達史における特徴的な変形構造に広く適用することで、沈み込みプレート境界地震の発生メカニズムの理解が深まることが期待される。
引用文献
Fisher et al., 2021, Geosphere, 17(6), 1686–1703.
Otsubo et al., 2020, Scientific Reports, 10, 1-8.
Hosokawa and Hashimoto, 2022, Scientific Reports, 12, 14789
Yamaji, 2016, Island Arc, 25, 72-83.
Faye et al., 2018, Journal of Structural Geology, 110, 131-141.
Matsumura et al., 2003. Geology, 31, 1005-1008
牟岐メランジュは、主に砂岩からなるブロックと頁岩からなるマトリックスからなる。本研究では、メランジュ形成過程において砂岩ブロックのみに発達する伸長鉱物脈(Type 1 鉱物脈)を対象に行う。Type 1 鉱物脈の流体温度・圧力は、125 – 195℃、92 – 143.6MPaと推定されている(Matsumura et al., 2003)。また、主に玄武岩からなる底付け断層帯近傍に発達するネットワーク状鉱物脈も対象に行う。ネットワーク状鉱物脈から、逆断層と正断層の2つの応力場が推定されていることから、底付け断層帯は地震サイクルを記録している(Hosokawa and Hashimoto, 2022)。
本研究では、まずHosokawa and Hashimoto. (2022)の手法をType 1鉱物脈に適用し、メランジュ形成時の流体圧比を推定する。Type 1鉱物脈に対して応力逆解析を行い、古応力と駆動流体圧比(P*)を推定した(Yamaji, 2016)。P*は、伸長鉱物脈形成時の最大過剰流体圧を差応力で正規化したものである(Otsubo et al., 2020)。P*を推定するためにDriving pressure index (DPI)を用いた(Faye et al., 2018)。そして、推定されたP*と岩石破壊理論から推定される理論的な流体圧と流体包有物から推定された流体圧(Matsumura et al., 2003)が一致する時の鉱物脈形成時の深さと岩石引張強度を制約することで、鉱物脈形成時の流体圧比を計算する。 応力逆解析の結果、Type 1鉱物脈は正断層応力場と横ずれ断層応力場の2つが得られた。そして、推定された応力場とP*、先行研究から推定された流体圧から、Type 1鉱物脈形成時の流体圧比は、0.7 – 1.1と制約された。この高い流体圧比は地震発生時まで維持されることが示唆されるため、地震発生時の流体圧比の下限であると考えられる。さらに本研究では、ネットワーク状鉱物脈形成時の差応力を推定する新たな手法を提案する。まず、応力逆解析を用いて、ネットワーク状鉱物脈を応力場で分類し、無次元化過剰流体圧比を計算した。無次元化過剰流体圧比は、鉱物脈形成時の過剰流体圧を差応力で正規化したものである。次に、応力場で分類した上でサンプリングしたネットワーク状鉱物脈を対象に流体包有物解析を行い、鉱物脈形成時の流体温度・流体圧を測定する。最後に、無次元化過剰流体圧比と推定された流体圧を用いることで、鉱物脈形成時の差応力を推定した。その結果、ネットワーク状鉱物脈形成時の差応力は、約21.9 – 52.1 MPaと推定された。この推定された差応力と剪断破壊の条件から、地震発生時の流体圧比と差応力の上限はそれぞれ、0.86、36.3 MPaと推定された。Type 1鉱物脈とネットワーク状鉱物脈の結果から、地震発生時の流体圧比は、0.7 – 0.86、差応力は36.3 – 77.8 MPaと制約された。さらに、地震発生時の動的な流体圧上昇量は、44.2 – 63.8 MPaで、流体圧比1.2まで上昇したことが示された。また、地震発生後の最大減少量は、約67 MPaと制約され、流体圧比が0.7まで減少することが示された。本手法を付加体発達史における特徴的な変形構造に広く適用することで、沈み込みプレート境界地震の発生メカニズムの理解が深まることが期待される。
引用文献
Fisher et al., 2021, Geosphere, 17(6), 1686–1703.
Otsubo et al., 2020, Scientific Reports, 10, 1-8.
Hosokawa and Hashimoto, 2022, Scientific Reports, 12, 14789
Yamaji, 2016, Island Arc, 25, 72-83.
Faye et al., 2018, Journal of Structural Geology, 110, 131-141.
Matsumura et al., 2003. Geology, 31, 1005-1008
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