講演情報

[T2-O-4][招待講演]東南極セール・ロンダーネ山地,高温変成岩の全面露頭解析が拓く地殻深部の岩石破壊の実態と地震学とのリンク

*宇野 正起1、奈良 拓実1、ミンダレバ ディアナ1、河上 哲生2、足立 達朗3、東野 文子2、土屋 範芳4,1 (1. 東北大学、2. 京都大学、3. 九州大学、4. 八戸高専)
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【ハイライト講演】宇野氏は,地殻内部における岩石-流体反応の物理化学プロセスの実態に迫る研究を推進する気鋭の研究者であり,過去の変動帯の反応-応力解析から現在観測される地殻破壊現象の物質科学的な解明を目指す研究が注目されている.今大会では,岩石-流体反応に関わる最新研究に加え,フィールドとしての南極の魅力についてご講演いただく.(ハイライト講演とは...)

キーワード:

岩石ー流体反応、地殻破壊、地震モーメントー継続時間スケール則、地殻浸透率、東南極セール・ロンダーネ山地

近年の地震波観測の発達から,火山下での地震発生には,地殻深部で数日から数ヶ月間かけて継続する深部低周波地震が先行し,その発生には地殻内のマグマやH2O・CO2流体の移動が関わっていると考えられるようになってきた[e.g., 1].一方,地殻深部の岩石である高温変成岩には,岩脈や鉱物脈などのかたちで,マグマや熱水活動に伴う地殻破壊と反応が記録されている.しかしながら,これらの地球物理観測と地質記録における,時間スケールや空間スケール,マグニチュードや応力などの物理的な対応関係はよくわかっていないのが現状であった.
 本講演では,南極の極めて良好な高温変成岩の露頭から,マグマや熱水による岩石破壊の地質記録を見出し,最新の反応輸送解析や水理学的解析,ドローンをもちいた応力逆解析などを通して,深部地殻破壊における流体活動の時間スケール,応力状態,流体圧,マグニチュードなどの制約を示し,地殻深部における動的な流体による地殻破壊の実態について,最新の研究成果を紹介する.
調査地域である東南極セール・ロンダーネ山地は,約5億年前に形成した高温変成岩が東西約200 kmに渡って露出しており,地殻深部の岩石―流体反応をkmスケールの全面露頭で観察することができる世界でも稀有な地質帯である.露頭には幅数mmから数m,長さ数mからkmスケールの明瞭な岩脈群や鉱物脈群が観察され,周囲のグラニュライト相の母岩と反応し,角閃岩相の含水反応帯を形成している[2,3,4].こうした岩脈,鉱物脈,反応帯は,セール・ロンダーネ山地の各所で普遍的に観察される.
 これらの反応帯からClやFなどの微量元素の反応−移流−拡散プロファイルを見出し,反応輸送解析をおこなった結果,岩脈および鉱物脈における流体活動時間はそれぞれ数日〜数ヶ月,数時間から数週間であることが明らかになってきた[3,4,5,6].これらの反応帯が形成された温度圧力条件は,0.4–0.8 GPa, 450–750℃程度であり,火山下の深部低周波地震が発生する深さ15–30 kmの条件と矛盾しない.さらに,これらの岩脈・鉱物脈群は,開口成分とせん断成分を併せ持つ破壊モードを有しており,深部低周波地震のメカニズム解の特徴と一致する[6].さらに,これらのマグマ貫入や水流体の流入が引き起こしうる地震の規模を複数の方法で推定すると,岩脈・鉱物脈における流体活動時間と地震モーメントの関係が,深部低周波地震をはじめとする「ゆっくり地震」の継続時間―地震モーメントの関係と一致することが明らかになった[4].また,水理学的な解析からき裂と母岩の透水性を評価すると,鉱物脈がき裂として機能していた際の地殻浸透率は10−14〜10−15 m2程度であり,地殻深部の群発地震の震源移動から推定される浸透率とおおよそ一致する[4,7]
 以上の解析から,本地域で観察される岩脈.鉱物脈群とその反応帯は,温度圧力条件,継続時間,マグニチュード,破壊モード,浸透率などが深部低周波地震の特徴と一致しており,地殻深部における深部低周波地震の地質学的な記録である可能性が高い.
 このように,南極地域の変成岩類は,その極めて良い露出から,地殻破壊現象の物質科学的な実態解明に有用である.現在ドローンや赤外分光をもちいたさらなる広域調査を進めており,地質学と地震学のスケールの壁を破る研究が可能なフィールドとして研究を推進している.
[1] Yukutake et al., 2019 GRL; [2] Uno et al., 2017 Lithos; [3] Mindaleva et al., 2020 Lithos; [4] Mindaleva et al., 2023 GRL; [5] Uno et al., 2022 JpGU abstract; [6] Nara et al., 2023 JpGU abstract; [7] Uno et al., 2023 WRI-17 abstract;

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