講演情報

[T2-O-6]東南極,リュツォ・ホルム湾南部に分布する珪長質変成岩の原岩構成:ゴンドワナ造山帯中の古原生代断片の起源解明に向けて

*中野 伸彦1、馬場 壮太郎2、加々島 慎一3、Wahyuandari Fransiska4 (1. 九州大学大学院比較社会文化研究院、2. 琉球大学教育学部、3. 山形大学理学部、4. 九州大学大学院地球社会統合科学府)
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キーワード:

珪長質片麻岩、アダカイト、古原生代、リュツォ・ホルム岩体、東南極

東南極,リュツォ・ホルム岩体は,ゴンドワナ大陸形成時の大陸集合により形成された変成岩類から構成され,その分布域は東西400 km以上におよぶ.本岩体は,インヘリテッドジルコン年代に基づいてユニット区分され,岩体西部に相当するリュツォ・ホルム湾南部には,25億年前や20〜18億年前の原岩年代をしめす変成岩が分布することが明らかとなってきている (例えば,Dunkley et al., 2020).Takahashi et al. (2018) は,約18億年前の原岩年代をしめすアウストホブデの珪長質片麻岩から25億年前のジルコン捕獲結晶を見出し,18億年前の珪長質マグマの成因を25億年前の地殻の再溶融と解釈した.Nakano et al. (2023) は,ベルナバネから25億年前と19億年前の原岩年代をしめす珪長質片麻岩を見出し,両者が類似したHf同位体モデル年代をしめすことを明らかにした.彼らは産状や岩石化学組成の解析から,25億年前の海洋島弧場でのスラブ溶融と19〜18億年前の地殻の再溶融を含む活動的大陸縁辺の成立を提示した.このようにリュツォ・ホルム岩体における古原生代のテクトニクスは徐々に明らかになりつつあるが,その帰属や起源の解明にあたって必要十分な情報は得られておらず,現状では他岩体(例えば,東南極Ruker terraneや南インドMadurai Blockなど)との地質対比も困難な状況にある.本発表では,ゴンドワナ大陸形成以前の古原生代地塊の分布域や岩相の多様性の理解を目的として,リュツォ・ホルム湾南部の露岩域の珪長質片麻岩と関連苦鉄質変成岩の岩石化学組成と原岩形成年代について報告する.
 調査対象とした露岩は,ルンドボークスヘッタ,ストランニッバ,インステクレパネおよびベルナバネである.ルンドボークスヘッタとストランニッバでは主要岩相である輝石片麻岩や角閃石ー黒雲母片麻岩,ルンドボークスヘッタについては北部の層状片麻岩分布域からザクロ石ー斜方輝石片麻岩等のトーナル岩質片麻岩類についても解析を行った.インステクレパネでは露岩南部に分布するザクロ石ー黒雲母片麻岩,ベルナバネでは露岩全域に分布する角閃石ー黒雲母片麻岩を対象とした.全ての露岩域で珪長質片麻岩は苦鉄質グラニュライトをブロック状またはレンズ状に包有するかレイヤーを狭在するため,これらについても全岩化学分析を行った.
 現在までのベルナバネの解析結果から,25億年前の原岩年代をしめす珪長質片麻岩はアダカイト質花コウ岩〜トーナル岩の化学組成をしめす.この特徴は,Tsunogae et al. (2016)がベスレクナウセンやすだれ岩から報告した25億年前の原岩年代をもつ珪長質片麻岩類にも共通する.本研究では,このような高Sr/Y比をしめす珪長質片麻岩は,ルンドボークスヘッタとストランニッバの輝石片麻岩や優白質片麻岩などから見出され,それらのSiO2(54–76 wt%)やK2O (0.8–7.3 wt%) にはかなりの組成幅が認められる.インステクレパネのザクロ石ー黒雲母片麻岩は,SiO2含有量が低い(SiO2 = 53–59 wt%)が,高Sr/Y比 (Sr/Y = 83–131) をしめす.全ての露岩において,高Sr/Y珪長質片麻岩に包有される苦鉄質グラニュライトはザクロ石を含まず,一部は高Mg, 高Si/Al比および高Ni, Crのコマチアイト質な化学組成をしめす.一方で,ルンドボークスヘッタ北部の砂泥質片麻岩や石英岩を主体とする層状片麻岩分布域の珪長質片麻岩レイヤー(SiO2 = 56–60 wt%) は,低いSr/Y比をしめす.また,狭在する苦鉄質グラニュライトはザクロ石を含む場合が多く,一部は低Mg#,低Si/Al比,高Tiの特徴をもち,原岩形成時の斜長石やFe–Ti酸化物の集積が指摘できる.
 以上の結果は,リュツォ・ホルム湾南部の複数露岩に25億年前の地殻断片の存在とその化学的多様性を示唆するものである.さらに,超高温変成岩の産出で特徴づけられるルンドボークスヘッタ北部の層状片麻岩分布域の珪長質片麻岩や苦鉄質グラニュライトは,他の露岩域とは異なる化学的特徴を持つ.この変成堆積岩を主体とする地質ユニットは,Nakano et al. (2023) がベルナバネで提唱した19億年の付加体に相当する可能性もある.発表では,特徴的な岩石の年代測定結果も併せて議論する予定である.

引用文献:[1] Dunkley et al. (2020), Polar Sci. 26, 100606. [2] Nakano et al. (2023), JpGU 2023 abstract. [3] Takahashi et al. (2018), JAES 157, 245–268. [4] Tsunogae et al. (2016) Lithos 263, 239–256.

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