講演情報

[T3-O-17]ハンドヘルド蛍光X線分析(XRF)による国産斑レイ岩石材の非破壊同定の可能性

*西本 昌司1、乾 睦子2、中澤 努3、平賀 あまな4、山下 浩之5 (1. 愛知大学、2. 国士舘大学、3. 産総研地質調査総合センター、4. 東京工業大学、5. 神奈川県立生命の星地球博物館)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

建築石材、歴史的建造物、斑レイ岩、非破壊分析

日本の近代建築物には多くの国産石材が使われてきた.これらの石材を地質学的な観点より記載し,科学的な価値を提示しておくことは,文化財価値の向上やジオパークにおける活用などの点から意義深い.石材がいつどこで採掘され,どのように流通していたのかといった歴史学的研究を進めていくためには,まず岩石学的な情報を得る必要があるが,建築物保存のために石材であっても非破壊分析しか許されない.このため,石材の同定についても文献調査に頼らざるを得ないことが多いが,建築物によっては文献記録が残されていないことも多く,記録があっても肉眼による同定結果と一致しないことがある.文献と肉眼鑑定だけに頼らない科学的な石材の同定が可能となれば,近代史のみならず,近世以前の石材調査への応用も期待される.そこで,ハンドヘルド蛍光X線分析装置(XRF)を用いることにより,建築物に使われている石材を破壊することなく科学的に産地を推定することができないか,その方法を模索している.手始めとして,「黒御影」と呼ばれる斑レイ岩質の国産石材3種について分析を行なったので報告したい.
 まず,産地が明らかである石材試料として,近代建築物の石材工事を多く手掛けた矢橋大理石株式会社(岐阜県大垣市)に保管されていた国産黒御影「勿来」,「浮金」,「松葉」の原石を切断・研磨したものを用いた.「勿来」は,同社内資料で現在の福島県いわき市勿来町産とされており,正確な採掘地点までは不明であるものの,同地域に分布する田人岩体の東側にある斑レイ岩の小岩体(田中ほか, 1987; 渡辺・佐藤,1935)だと考えられる.「浮金」は,同社内資料で福島県小野町産とされており,同町の黒石山で現在も採掘が行われているが(久保, 1991),当時の正確な産地ははっきりしない.「松葉」は,同社内資料で現在の山口県萩市須佐町高山産とされており,正確な採掘地点までは不明であるものの,同地域に分布する「高山斑レイ岩」(西村ほか2012, 北風・小松, 2015)と考えられ,「須佐石」とも呼ばれているらしい.特に「勿来」と「浮金」は見かけが似ており,本研磨していても慣れていないと区別が難しい.これら3つの石材について,全岩化学組成を測定するとともに,ハンドヘルド蛍光X線分析装置により複数箇所の分析を行ない,3石材を区別する指標を検討した.さらに,従来のXRFによる蛍光X線分析装置による分析も行い,本手法による精度についても確認した.
 その結果,黒曜石の石器の産地同定で用いられる指標(MnO/Fe2O3, Rb/(Rb+Sr+Y+Zr)を適用した場合,3石材のプロットが概ね分離できることがわかった.また,バナジウムも比較的多く含まれていることから,斑レイ岩においては活用できるかもしれない.こうした指標を花崗岩質岩石まで含めた「御影石」全般まで適用可能かは不明だが,肉眼鑑定と合わせて,ハンドヘルド蛍光X線分析装置を用いることにより,産地不明の石材同定に活用できる可能性がある.

参考文献
北風 嵐・小松隆一(2015) 萩市高山斑れい岩中の含バナジウム磁鉄鉱について. 資源地質 65, 29-32.
久保和也(1991) 阿武隈山地の白みかげと黒みかげ. 地質ニュース 441, 28-33.
西村祐二郎ほか(2012) 山口県地質図第3版及び同説明書. 山口地学会.
田中久雄・吉田武義・青木謙一郎(1987) 阿武隈山地,田人岩体の地球化学的研究. 東北大学原子核理学研究施設研究報告 20, 85-98.
渡辺久吉・佐藤源郎(1935) 7万5千分の1地質図幅「勿来」及び説明書. 地質調査所.

コメント

コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン