講演情報

[T3-O-18][招待講演]奥羽山脈に分布する凝灰岩の文化地質的視点、特に景観について

*田宮 良一1 (1. なし)
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【ハイライト講演】東北日本弧が隆起ステージに転じた後期中新世に,カルデラを伴う珪長質活動が起こっていた.その火砕流堆積物(凝灰岩)は岩質的には共通しながら,分布地ごとの地史と環境を反映し個性ある景観を創造し,地域の観光拠点となっている.青森県の仏ヶ浦から,福島県の塔のへつりまで景観を主とした分布地の特徴が紹介される.(ハイライト講演とは...)

キーワード:

奥羽山脈、凝灰岩、文化地質学、景観

1.はじめに
今も隆起を続ける奥羽山脈を代表する景観はなんといっても活火山といえる.ところが,基盤を構成する新第三系は,景観形成への寄与は軽微である.そのなかで,東北日本弧が隆起ステージに転じた後期中新世に生じたカルデラを伴う爆発的珪長質噴火活動は,厚層の火砕流堆積物を供給し,景観形成に重要な役割を演じている.珪長質火砕流堆積物(表題では凝灰岩)は,次の特徴を備えている.①軽石に富み軟質・軽量.細工が容易.②大小角礫岩片を含み淘汰不良で堅固.③新第三系の最上位に位置し,埋没変質を受けず新鮮.④分布範囲は噴火区毎に孤立,多くの場合山麓帯を占め,脊梁から直線的に下る小河川が横断しやすい.⑤噴出物には可溶性で雲形浸食地形の素因となる硫酸ナトリウムを含有.以上により,岩質的には共通しながら,分布地毎の地史と環境を反映し,個性ある景観を創造し,地域の観光拠点となっている.ユニットが厚い場合は石材に利用され,奇怪な形態の岩峰は神仏の仕業として崇拝されてきた.
2. 景観を主とした分布地の特徴(田宮, 2023) 
・仏ヶ浦;青森県下北郡佐井村地内の下北半島西岸,溶結凝灰岩からなる尖塔状露岩が多数屹立,恐山の奥の院とされている.下北国定公園,国指定名勝・天然記念物(古名,仏(ほとけ)宇多(うた)として指定),下北ジオパークのジオサイト,「日本の地質百景」のひとつ.
・小安峡;秋田県湯沢市小安温泉,段丘面を下刻した皆瀬川の廊下状渓谷,成層した凝灰岩が分布,院内石として石材に利用された塊状火山礫凝灰岩の上部層準に当たる湖成堆積物.河岸基底付近の亀裂から大噴湯と称する温度100℃近い熱水が自噴する(寒い季節が圧巻).河床に遊歩道が設置.栗駒国定公園,ゆざわジオパークのジオサイト.
・厳美渓;岩手県一関市,岩石段丘を磐井川が下方浸食した廊下状渓谷,溶結凝灰岩からなり,河床に甌穴の発達顕著.国指定名勝・天然記念物.
・鳴子峡;宮城県大崎市,大谷川が下刻した渓谷,河床は比較的広い.塊状(火山礫凝灰岩)と成層(凝灰岩)ユニットの繰り返し,河岸には落葉高木が茂り,塊状相が露岩として屹立する.古来より紅葉の名所として知られ,上流(西側)の中山平温泉と下流の鳴子温泉間の河床に遊歩道が整備されているが,東日本大震災により落石の危険性があり立ち入りが制限されている.露岩には小規模な雲形浸食が認められる.栗駒国定公園.
・磊々峡;仙台市太白区秋保温泉,岩石段丘面を名取川が下刻した溝のように狭い廊下状渓谷,秋保石として採取された塊状凝灰角礫岩~火山礫凝灰岩が分布、ほぼ全面露頭であるが,垂直の節理により分断,目立つ岩体は,奇面岩,時雨岩などと名付けられているが,仏教系名称は皆無.漱石の門下生,小宮豊隆の命名.河岸に沿って遊歩道が整備.
・大森山摩崖仏;山形県東根市乱川扇状地に位置する離れ山,大森山南西麓に露出する火山礫凝灰岩に刻んだ摩崖仏,隣接して石切場跡も残存.デイサイト溶岩が存在.
・山寺;山形市山寺地内,山寺は通称,正式には宝珠山立石寺と称し,慈覚大師となった円仁が開祖と伝える天台宗の古刹,芭蕉の名句で著名.境内には模式的雲形浸食地形が顕著に発達した火砕岩が分布.雲形浸食は立石寺境内以外,広範に発達.石材産地(山寺石).参道が観察路となる.蔵王国定公園,国指定名勝・史跡,デイサイト凝灰岩として山形県の石に指定.
・一年(いちねん)峰(ぼう);山形県米沢市と高畠町にまたがる奥羽山脈西縁の丘陵,級化構造が発達した火山礫凝灰岩~凝灰岩,全山に箱型露岩が点在,円仁伝承を有する.
・塔の岪(へつり)(現在はかな表記);福島県南会津郡下郷町,大川(阿賀野川の上流)右岸の攻撃面に形成された級化互層が発達する火山礫凝灰岩・凝灰岩の断崖,垂直的節理で分断された塔型の露岩が連続,段丘面レベルの長狭な浸食面に沿って遊歩道が設定されているが現在は通行不可.国指定天然記念物,大川羽鳥県立自然公園.
引用文献
田宮良一(2023)奥羽山脈の凝灰岩の景観.地質と文化,Vol.6,No.1,46.

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