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[T16-O-5]浮遊性・底生有孔虫化石の酸素同位体記録に基づく前期更新世(MIS 25–21)における黒潮変動の復元

*桑野 太輔1、小杉 裕樹2、久保田 好美3、亀尾 浩司2 (1. 京都大学、2. 千葉大学、3. 国立科学博物館)
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キーワード:

有孔虫、黒潮、酸素同位体分析、更新世、古海洋

黒潮は太平洋北半球における亜熱帯循環の西岸境界流であり,低緯度から中緯度への熱輸送の役割を担っていることから,東アジアの気候に大きな影響を及ぼす(Gallagher et al., 2015など).過去,黒潮がどのように変動したかについての研究は数多いが,高い時間分解能での復元した例は,過去12万間や下部–中部更新統境界付近(約77万年前)などに限られる(Oba et al., 2006; Haneda et al., 2020).本研究では,前期–中期更新世の気候遷移期にあたる約90万年前を対象とし,浮遊性および底生有孔虫化石の酸素同位体比の分析に基づいて,高い時間分解能で過去の黒潮変動を復元することを目的として研究を行った.
 本研究で取り扱った銚子陸上コア(CHOSHI-1)は,1998年に千葉県銚子市森戸町で掘削された全長250 mのボーリングコアである(Kameo et al., 2006).このうち,本研究では,深度250–190 mを対象として,浮遊性有孔虫化石Globigerina bulloides,底生有孔虫化石Uvigerina spp.,Bulimina aculeataおよびBolivinita quadrilateraを拾い出し,酸素同位体比の測定を行った.分析には国立科学博物館所有の自動炭酸塩前処理装置(KIEL IV Carbonate Device)と質量分析計(MAT253)を利用した.
 底生有孔虫化石の酸素同位体比の測定記録をLisiecki and Raymo (2005) の標準曲線と対比した結果,本研究で対象とした層準は,MIS 25–21に相当することが明らかとなった.また,浮遊性有孔虫化石G. bulloidesの酸素同位体比の振幅は,底生有孔虫化石と比較して大きいことから,浮遊性有孔虫化石の記録には全球的な氷床変動に伴う酸素同位体比の変動に加えて,表層水塊の変化が反映されていると考えられ,氷期–間氷期スケールよりも短い数千年スケールの黒潮変動が記録されている.これらの変動をOba et al. (2006) によって得られたMIS 6–1の記録と比較すると,大規模な黒潮フロントの南下はいずれも退氷期に発生しており,必ずしも氷期の最盛期に起こっていなかった可能性が示唆される.

【文献】
Gallagher et al., 2015, Progress in Earth and Planetary Science, 2, 17.
Haneda et al., 2020, Earth and Planetary Science Letters, 531, 115936.
Kameo et al. 2006, Island Arc, 15, 366–377.
Lisiecki and Raymo, 2005, Paleoceanography, 20, PA1003.
Oba et al., 2006, Global and Planetary Change, 53, 5–20.

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