講演情報

[T16-O-7]下部鮮新統滝川層より産出した介形虫Celtia属の未記載種について

*向井 一勝1、田中 源吾2 (1. 北海道大学大学院理学院自然史科学専攻、2. 熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター 沿岸環境部門)
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キーワード:

介形虫、鮮新統、深川層群、北海道

北海道石狩平野に分布する深川層群は上部中新統から上部鮮新統の浅海成層である. 石狩平野空知川流域には下部鮮新統深川層群滝川層が分布し (地徳・前田, 1984), Fortipecten takahashiiを中心とした滝川―本別動物群の模式地として有名である (藤江・魚住, 1957). 介形虫化石は古環境の推定や生物地理を議論する上で重要となっており, 本邦の鮮新統介形虫化石群は, これまでに東北から九州にかけて, 多くの種の記載・報告, 研究がなされてきた. 一方で北海道における鮮新統の介形虫化石群の産出報告は1例のみ(向井・田中, 2024)であり, 当該地域の介形虫化石群は不明な点が多い.  今回, 北海道滝川市空知川流域に露出する滝川層下部にあたる幌倉砂岩泥岩部層の細礫~中粒砂岩層より, 寒冷性を示す介形虫化石群に加えて, 1種の未記載種の介形虫化石を発見したので報告する.  未記載種は, 蝶番および閉殻筋痕の形態よりCeltia属に同定され, ここでは以後, Celtia sp. Aとして議論する. 本種の前縁・後縁は丸みを帯びており, 殻の外形は四角形を呈する. 背縁より2/5の長さから尾部の方向に向かって緩やかに傾斜している. 後縁には性的二型が見られ, オスでは背側から後縁の1/2までは直線的であり, 腹側に向かって丸みを帯びている. 一方でメスの後縁は全体的に丸みを帯びる. 腹縁は前方から約2/5に緩い凹みが見られる. 殻表面には網状装飾と窩が発達しており, 殻の背側, 腹側, 中央には粗い網目状装飾が, 頭部には小窩が発達しており, 眼瘤は目立たない.  Celtia sp. A. は現在のアラスカ湾から記載されたCeltia palmensis Brouwers に殻の外形はよく似ている. しかし, 殻表面に発達する梁, 網状装飾・小窩・窩の発達する部位が異なる点からC. palmensisと異なる. また, 下部中新統遠山層から記載されたCeltia subreticulata Irizuki and Yamada と殻の表面装飾や筋痕の形態が似ている. しかし, Celtia sp. A. はVestibulumが広く発達しており, C. subreticulataの頭部には見られない小窩が発達する点で異なる.本未記載種はCeltia quadridentate (Baird) と外形が似るが, 閉殻筋痕の形態, 表面装飾のパターン, 殻内部に発達するVestibulumの形態が異なる点から区別が出来る.  下部鮮新統滝川層より産出したCeltia sp. A. は, 極めて寒冷な海水の影響を受ける環境に生息していたと推定される. 本未記載種はMNCO以降の寒冷化した北海道周辺における海洋気候と生物地理を議論する上で重要であると考えられる.

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