講演情報
[T16-O-8]古琵琶湖層群上野層におけるギルバート-ガウス地磁気逆転境界
*羽田 裕貴1、里口 保文2、菅沼 悠介3,4 (1. 国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター、2. 琵琶湖博物館、3. 国立極地研究所、4. 総合研究大学院大学)
キーワード:
湖成層、地磁気逆転境界、前期ー後期鮮新世境界
過去360万年間に形成された溶岩や堆積物には少なくとも15回の地磁気逆転が記録されている。これら地質記録を用いることで過去の地磁気逆転時における古地磁気方位や強度の変動、全球的な磁場分布の変化が復元されてきた。しかし、地磁気逆転時には棒磁石に近似される双極子磁場が崩壊し、それ以外の磁場成分が相対的に卓越する。この特徴により、同じ地磁気逆転を復元した地質記録でも、試料の採取地によって異なる挙動を示す。そのため、異なる時代の地磁気逆転に固有な特徴があるのかは明らかになっていない。この問題を解決するには、ある一つの地域の地質記録を用いて、過去の地磁気逆転を遡って復元する方法が考えられる。日本においては、海成鮮新〜更新統を対象にした高時間分解能の地磁気逆転復元が行われており、松山-ブルン境界(773 ka; Haneda et al., 2020など)、オルドヴァイ上位境界(1775 ka; Kusu et al., 2016)、マンモス上位境界(3207 ka; Haneda et al., 2023)、マンモス下位境界(3330 ka; Haneda and Okada, 2022)のデータが蓄積されている。本研究では湖成鮮新統の古琵琶湖層群を対象に、3596 kaの地磁気逆転イベントであるギルバート-ガウス境界について調査した。
三重県伊賀市の服部川沿いに露出する古琵琶湖層群上野層において、服部川Ⅰテフラ層の下位20 cmから服部川Ⅱテフラ層の層序区間の33層準から、2.5 cm径の泥質柱状試料を採取した。試料に対して段階交流消磁および段階熱消磁を施し、残留磁化成分の抽出を試みた。段階交流消磁からによる磁化ベクトルは、直行面投影図上で原点に向かって減衰した後、原点から大きく逸れる消磁経路を示す。一方、段階熱消磁では約300℃ないし600℃で磁化が失われる。低温磁気実験の結果、分析対象とした全ての試料において約120 Kの磁気相転移を確認した。このことから、試料中の硫化鉄が残留磁化の主な担い手であるが,磁鉄鉱も少量含まれると考えられる。磁化方位の算出および極性判定には、段階熱消磁の結果を用いた。主成分分析を用いて、磁化成分の偏角および伏角を求めた。さらに、これら古地磁気方位から仮想地磁気極(VGP)緯度を算出し、古地磁気極性を判定した。服部川Ⅰテフラ層を上下に挟む2試料はVGP緯度が南緯45˚以南を示すことから、逆極性と判定される。服部川Ⅰテフラ層の1〜7 m上位の層序区間では、VGP緯度は南緯45˚〜北緯45˚の間で変動する。それより上位の服部川Ⅱテフラ層までの層序区間では、VGP緯度はおおむね北緯45˚より北に位置し、正極性を示す。そのため、服部川Ⅰテフラ層より上位1〜7 mの層序区間をギルバート-ガウス境界における極性遷移期とした。
房総半島中部に分布する安房層群安野層では、ギルバート-ガウス境界はAn129とAn130テフラの間に置かれる(Haneda and Okada, 2019)。古琵琶湖層群の服部川Ⅰおよび服部川Ⅱテフラは、それぞれAn129およびAn130テフラに対比されることから(Satoguchi and Nagahashi, 2012)、本研究におけるギルバート-ガウス境界の極性遷移期とテフラ層の層位関係は安野層と矛盾しない。また、安野層の酸素同位体層序から計算されるAn129およびAn130テフラの天文年代はそれぞれ3698 kaと3586 kaであることから(Haneda and Okada, 2019)、上野層のギルバート-ガウス境界の極性遷移期は3597.6〜3590.4 kaの約7,000年間である。
今後は、ベリリウム同位体比を用いてギルバート-ガウス境界を跨いだ古地磁気強度を復元すると共に、異なる地域の古地磁気記録との比較を行う。
引用文献
Haneda and Okada, 2019, Prog. Earth Planet. Sci., 6, 6. Haneda and Okada, 2022, Geophys. J. Int., 228, 461–476. Haneda et al., 2020, Prog. Earth Planet. Sci., 7, 44. Haneda et al., 2023, XXI INQUA congress. Kusu et al., 2016, Prog. Earth Planet. Sci., 3, 26. Satoguchi and Nagahashi, 2012, Island Arc, 21, 149–169.
三重県伊賀市の服部川沿いに露出する古琵琶湖層群上野層において、服部川Ⅰテフラ層の下位20 cmから服部川Ⅱテフラ層の層序区間の33層準から、2.5 cm径の泥質柱状試料を採取した。試料に対して段階交流消磁および段階熱消磁を施し、残留磁化成分の抽出を試みた。段階交流消磁からによる磁化ベクトルは、直行面投影図上で原点に向かって減衰した後、原点から大きく逸れる消磁経路を示す。一方、段階熱消磁では約300℃ないし600℃で磁化が失われる。低温磁気実験の結果、分析対象とした全ての試料において約120 Kの磁気相転移を確認した。このことから、試料中の硫化鉄が残留磁化の主な担い手であるが,磁鉄鉱も少量含まれると考えられる。磁化方位の算出および極性判定には、段階熱消磁の結果を用いた。主成分分析を用いて、磁化成分の偏角および伏角を求めた。さらに、これら古地磁気方位から仮想地磁気極(VGP)緯度を算出し、古地磁気極性を判定した。服部川Ⅰテフラ層を上下に挟む2試料はVGP緯度が南緯45˚以南を示すことから、逆極性と判定される。服部川Ⅰテフラ層の1〜7 m上位の層序区間では、VGP緯度は南緯45˚〜北緯45˚の間で変動する。それより上位の服部川Ⅱテフラ層までの層序区間では、VGP緯度はおおむね北緯45˚より北に位置し、正極性を示す。そのため、服部川Ⅰテフラ層より上位1〜7 mの層序区間をギルバート-ガウス境界における極性遷移期とした。
房総半島中部に分布する安房層群安野層では、ギルバート-ガウス境界はAn129とAn130テフラの間に置かれる(Haneda and Okada, 2019)。古琵琶湖層群の服部川Ⅰおよび服部川Ⅱテフラは、それぞれAn129およびAn130テフラに対比されることから(Satoguchi and Nagahashi, 2012)、本研究におけるギルバート-ガウス境界の極性遷移期とテフラ層の層位関係は安野層と矛盾しない。また、安野層の酸素同位体層序から計算されるAn129およびAn130テフラの天文年代はそれぞれ3698 kaと3586 kaであることから(Haneda and Okada, 2019)、上野層のギルバート-ガウス境界の極性遷移期は3597.6〜3590.4 kaの約7,000年間である。
今後は、ベリリウム同位体比を用いてギルバート-ガウス境界を跨いだ古地磁気強度を復元すると共に、異なる地域の古地磁気記録との比較を行う。
引用文献
Haneda and Okada, 2019, Prog. Earth Planet. Sci., 6, 6. Haneda and Okada, 2022, Geophys. J. Int., 228, 461–476. Haneda et al., 2020, Prog. Earth Planet. Sci., 7, 44. Haneda et al., 2023, XXI INQUA congress. Kusu et al., 2016, Prog. Earth Planet. Sci., 3, 26. Satoguchi and Nagahashi, 2012, Island Arc, 21, 149–169.
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