講演情報

[T16-O-12]北海道白糠丘陵に露出する白亜紀―古第三紀境界付近の統合層序と年代

*髙嶋 礼詩1、太田 映2、黒田 潤一郎2、Schmitz Mark3、林 圭一4、西 弘嗣10、折橋 裕二5、星 博幸6、沢田 健7、山中 寿朗8、池田 雅志9、細萱 航平1 (1. 東北大学、2. 東京大学、3. ボイス州立大学、4. 北海道立総合研究機構、5. 弘前大学、6. 愛知教育大学、7. 北海道大学、8. 東京海洋大学、9. 金沢大学、10. 福井県立大学)
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キーワード:

白亜紀/古第三紀境界、白糠丘陵、統合層序、北海道

白亜紀/古第三紀(K-Pg)境界では,ユカタン半島において小天体が衝突し,恐竜をはじめ多くの生物が絶滅した.K-Pg境界層は,天体衝突直後に起こった津波により,多くのセクションがハイエイタスになっており,北西太平洋での連続した層序のセクションは数少ない(Range et al., 2022).そのため,K-Pg境界を含む日本の海成層は,K-Pg境界のイベントが北西太平洋域の環境や生態系にどのような影響を及ぼしたかを解明するうえで重要である. 白糠丘陵地域に露出する根室層群は,古くより白亜紀/古第三紀境界粘土層を含む地層として注目を集めてきた(Saito et al., 1986).しかしながら,Saito et al. (1986)によって境界層とされた地層には多くの石英脈が発達し,母岩は著しく粘土化,角礫化している.また,境界層とされていた地層の走向・傾斜は隣接する露頭での走向・傾斜と全く異なる.そのため,この境界粘土層は断層破砕帯に相当すると考えられ,この地層を用いて白亜紀-古第三紀境界の連続的な記録を得ることは困難である. 本研究グループでは,白糠丘陵北西部の川流布川支流において,白亜系最上部から古第三系最下部にかけての層序が比較的連続して露出するセクションを見出した.この区間は暗灰色泥岩主体で,直径30~80cmの巨大な石灰質ノジュールを頻繁に含む.このセクションの全層厚はおよそ250mに達し,厚さ5 cm以下の白色細粒凝灰岩を頻繁に挟む.石英脈に伴われて小規模な断層は見られるものの,破砕帯を伴うような断層は見られず,地層の走向傾斜も一様で,走向はN10~20°E,傾斜は垂直ないし80°で東側上位である.本研究ではこの地層を対象に,浮遊性有孔虫,石灰質ナンノ化石,炭素・オスミウム同位体比,古地磁気層序を検討し,ジルコンを含む凝灰岩に対してはU-Pb年代測定を行った.また,バイオマーカー分析により,当時の後背地の植生の変遷も合わせて検討した.その結果,石灰質ナンノ化石や浮遊性有孔虫化石において,白亜紀の種(Rugoglobigerina rugosa, Archaeoglobigerina australis等)と古第三紀初期の種(Globanomalina planocompressa)が産出した層準の間において,オスミウム同位体比が大きく負にシフトする層準が見つかり,この層準がK-Pg境界に相当することが明らかになった.古地磁気の検討によると同区間は逆極性であり,これはK-Pg境界が古地磁気年代層序のChronozone C29r(逆極性帯)に位置することと整合的である.オスミウム同位体比が負にシフトする層準の約6 m上位に挟まる凝灰岩からは65.781±0.018 MaのジルコンU-Pb年代(CA-ID-TIMS)が,18 m上位に挟まる凝灰岩からは65.44±0.89 MaのジルコンU-Pb年代(LA-ICP-MS)がそれぞれ得られた.K-Pg境界の年代はサニディンの40Ar/39Ar年代に基づくと66.052±0.008/0.0043 Ma (Sprain et al., 2018),ジルコンのU-Pb年代に基づくと66.021 ±0.024/0.039/0.081 Ma (Clyde et al., 2016)とされている.イリジウム含有量の顕著な増加は検出されていないものの,上記の結果は今回見つかった層準がK-Pg境界に対比されることを裏付ける.引用文献Clyde, W. C. et al., 2016, Earth and Planetary Science Letters, v. 452, p. 272-280.Range, M. M. et al., 2022, AGU Advances, v. 3, no. 5.Saito, T. et al.,1986, Nature, v. 323, 253-255Sprain, C. J. et al., 2018, GSA Bulletin, v. 130, 1615-1644.

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