講演情報
[T16-O-13]北海道白糠丘陵における白亜紀―古第三紀境界のオスミウム同位体層序★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*太田 映1、黒田 潤一郎1、髙嶋 礼詩2、星 博幸3、沢田 健4、林 圭一5、西 弘嗣6、石川 晃7 (1. 東京大学 大気海洋研究所、2. 東北大学学術資源研究公開センター 東北大学総合学術博物館、3. 愛知教育大学 自然科学系、4. 北海道大学 地球惑星科学部門、5. 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所、6. 福井県立大学 恐竜学研究所、7. 東京工業大学理学院 地球惑星科学系)
キーワード:
K-Pg境界、オスミウム同位体比、根室層群、白糠丘陵
約6600万年前の白亜紀―古第三紀境界(K-Pg境界)は、非鳥類型恐竜を含む生物種の最大75%が絶滅したことで知られている。イリジウム(Ir)のような白金族元素の明確な濃度のピークは、世界中のK-Pg境界の粘土層で観察されており、大量絶滅の引き金となった可能性のある大規模な隕石衝突の最も重要な証拠の一つである。オスミウム同位体比(187Os/188Os)の急激な低下も、地球外衝突の検出に利用することができる。これまでに北米を中心に数多くのK-Pg境界が発見されてきたが、東アジアでは未だ発見されていない。そのため、この地域でのK-Pg境界の発見は、隕石衝突地点であるメキシコ湾ユカタン半島から遠く離れた地域における、当時の環境変動や生態系の理解のために必要不可欠である。
日本では、北海道白糠丘陵の根室層群において、白亜紀上部~古第三紀下部の堆積物が報告されている(Saito et al.,1986)が、このセクションではIr濃度の明瞭なピークは確認されなかった。近年、Saito et al.(1986) の検討したセクションの近傍に分布する根室層群・川流布層において、微化石層序と古地磁気層序の詳細な検討、凝灰岩のジルコンU-Pb年代測定に基づき、白亜紀上部~古第三紀を含む堆積層が同定された(髙嶋ほか, 2024)。本研究では、白金族元素濃度と187Os/188Os比を測定し、K-Pg境界の層序的位置の特定を試みた。川流布川北支流南枝沢において堆積岩を採集し、長い時間幅の低解像度分析と、K-Pg境界と推定される層序における高解像度分析を行った。白亜紀上部と推定される区間における187Os/188Os比はおよそ0.6を示し、古第三紀下部と推定される区間ではおよそ0.4を示した。これは、遠洋性堆積岩に記録された白亜紀と古第三紀の海水の値とそれぞれ一致する(例えば、Ravizza and Peucker-Ehrenbrink, 2003やRobinson et al., 2009)。両者の境界部にあたる層準では、187Os/188Os比の明瞭な低下が認められ、およそ0.235となる。その層準では、OsとIr濃度の一時的な上昇が確認できた。これらの結果から、K-Pg境界を含む層準を特定することができた。この結果は、同セクションの浮遊性有孔虫化石記録およびジルコンU-Pb年代測定結果と整合的である。加えて、Os/Ir比の詳細な検討を行った結果、古第三紀初期に短期間のハイエタスが存在することが判明した。
本発表では、今年8月に実施した川流布セクションにおける再調査の結果を報告する。再調査で得られた地質学的情報と追加サンプルの187Os/188Os比の結果から、K-Pg境界層序と当時の堆積環境について議論する予定である。
【引用文献】
Ravizza, G., and Peucker-Ehrenbrink, B. (2003) Chemostratigraphic evidence of Deccan volcanism from the marine osmium isotope record. Science. 302, 1392-1395.
Robinson, N., Ravizza, G., Coccioni, R., Peucker-Ehrenbrink, B., and Norris, R. (2009) A high-resolution marine 187Os/188Os record for the late Maastrichtian: Distinguishing the chemical fingerprints of Deccan volcanism and the KP impact event. Earth Planet. Sci. Lett. 281, 159-168.
Saito, T., Yamanoi, T. and Kaiho, K. (1986) End-Cretaceous devastation of terrestrial flora in the boreal Far East. Nature. 323, 253-255.
髙嶋礼詩,太田映,黒田潤一郎,Mark Schmitz, 林圭一,西弘嗣,折橋裕二,星博幸,沢田健,山中寿朗,池田雅志,細萱航平 (2024) 北海道白糠丘陵に露出する白亜紀―古第三紀境界付近の統合層序と年代. 日本地質学会第131年学術大会講演要旨.
日本では、北海道白糠丘陵の根室層群において、白亜紀上部~古第三紀下部の堆積物が報告されている(Saito et al.,1986)が、このセクションではIr濃度の明瞭なピークは確認されなかった。近年、Saito et al.(1986) の検討したセクションの近傍に分布する根室層群・川流布層において、微化石層序と古地磁気層序の詳細な検討、凝灰岩のジルコンU-Pb年代測定に基づき、白亜紀上部~古第三紀を含む堆積層が同定された(髙嶋ほか, 2024)。本研究では、白金族元素濃度と187Os/188Os比を測定し、K-Pg境界の層序的位置の特定を試みた。川流布川北支流南枝沢において堆積岩を採集し、長い時間幅の低解像度分析と、K-Pg境界と推定される層序における高解像度分析を行った。白亜紀上部と推定される区間における187Os/188Os比はおよそ0.6を示し、古第三紀下部と推定される区間ではおよそ0.4を示した。これは、遠洋性堆積岩に記録された白亜紀と古第三紀の海水の値とそれぞれ一致する(例えば、Ravizza and Peucker-Ehrenbrink, 2003やRobinson et al., 2009)。両者の境界部にあたる層準では、187Os/188Os比の明瞭な低下が認められ、およそ0.235となる。その層準では、OsとIr濃度の一時的な上昇が確認できた。これらの結果から、K-Pg境界を含む層準を特定することができた。この結果は、同セクションの浮遊性有孔虫化石記録およびジルコンU-Pb年代測定結果と整合的である。加えて、Os/Ir比の詳細な検討を行った結果、古第三紀初期に短期間のハイエタスが存在することが判明した。
本発表では、今年8月に実施した川流布セクションにおける再調査の結果を報告する。再調査で得られた地質学的情報と追加サンプルの187Os/188Os比の結果から、K-Pg境界層序と当時の堆積環境について議論する予定である。
【引用文献】
Ravizza, G., and Peucker-Ehrenbrink, B. (2003) Chemostratigraphic evidence of Deccan volcanism from the marine osmium isotope record. Science. 302, 1392-1395.
Robinson, N., Ravizza, G., Coccioni, R., Peucker-Ehrenbrink, B., and Norris, R. (2009) A high-resolution marine 187Os/188Os record for the late Maastrichtian: Distinguishing the chemical fingerprints of Deccan volcanism and the KP impact event. Earth Planet. Sci. Lett. 281, 159-168.
Saito, T., Yamanoi, T. and Kaiho, K. (1986) End-Cretaceous devastation of terrestrial flora in the boreal Far East. Nature. 323, 253-255.
髙嶋礼詩,太田映,黒田潤一郎,Mark Schmitz, 林圭一,西弘嗣,折橋裕二,星博幸,沢田健,山中寿朗,池田雅志,細萱航平 (2024) 北海道白糠丘陵に露出する白亜紀―古第三紀境界付近の統合層序と年代. 日本地質学会第131年学術大会講演要旨.
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