講演情報
[T1-P-2]四国中央部三波川帯産泥質片岩に含まれる炭質物の顕微ラマン分光分析:広域的な温度構造の理解に向けて★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*原田 浩伸1、辻森 樹1、板谷 徹丸2 (1. 東北大学、2. 地球年代学ネットワーク)
キーワード:
三波川帯、泥質片岩、炭質物、顕微ラマン分光法
泥質変成岩に広く含まれる炭質物は、沈み込み帯において有機物由来の炭素を地球表層から地球内部へと輸送する役割を担っている。我々は沈み込みの過程における有機炭素の挙動の解明を目指して、四国中央部三波川帯の泥質片岩に含まれている炭質物約200試料について炭素同位体組成(δ13C)の測定と同一試料を用いた顕微ラマン分光分析による変成温度推定を行い、変成温度の変化に対する同位体組成の変化傾向の把握を進めている。炭質物のδ13C値は高変成度試料ほど高い値を示す傾向を示し、メタンとしての炭素の放出が示唆される(原田ほか, 2024a JpGU, 2024b 鉱物科学会)。これに加えて、一般に炭質物の顕微ラマン分光分析によるピーク変成温度の推定(炭質物ラマン温度計)からは変成帯における温度構造の把握が可能であり、Beyssac et al. (2002) による高圧変成岩への応用以降、広域・接触変成地域における温度構造の解明や変成履歴の復元が行われてきた。本講演では炭質物ラマン温度計による変成温度の地域的な変化傾向について紹介する。
四国中央部三波川帯ではHigashino (1990) をはじめとした詳細な変成分帯に基づいて温度構造の議論が行われてきた。最近、Kouketsu et al. (2021) は汗見川地域の泥質片岩についての炭質物ラマン温度計を用いた変成温度推定から詳細な温度構造を示し、緑泥石帯のざくろ石帯との境界付近においておよそ380°Cと440°C の間に顕著な温度不連続の存在を見出した。本研究では、Itaya (1981) においてXRD測定と化学組成の分析が行われた炭質物(泥質片岩から分離されたもの)とItaya & Takasugi (1988) でK–Ar年代測定が行われた泥質片岩の一部について顕微ラマン分光分析を行った。四国中央部三波川帯7ルートの試料について炭質物ラマン温度計により推定した温度の傾向はItaya (1981) で示された炭質物の結晶化度と整合的であった。緑泥石帯は大部分がおよそ300–350°Cの範囲内であったが、ざくろ石帯との境界付近において急激に変成温度が上昇し、Kouketsu et al. (2021) で報告された温度構造の不連続は四国中央部三波川帯の広範囲で確認された。汗見川–猿田ルート北部及び中の川ルートにおける大歩危ユニットとの境界付近では変成温度の急激な変化はみられず、大歩危ユニット内も他地域の緑泥石帯と同程度の温度であった。また、五良津岩体南部に位置する中七番ユニット(= 大歩危ユニット: 青矢・横山, 2009)についても同様で300–350°C程度の変成温度であった。南部の思地-長沢地域において、秩父北帯相当の付加体構成岩石を原岩にもつ思地ユニット(青矢・横山, 2009; 脇田ほか, 2007)及び三波川南縁帯(小島ほか, 1956)に相当する川又ユニットでは250–300°Cと白滝・大歩危ユニットに比べて低い変成温度を示すものが見られた。このように四国中央部三波川帯において広範囲での変成温度情報が得られつつあり、これらを踏まえて四国中央部三波川帯の泥質片岩に記録された広域的な温度構造について議論したい。
引用文献
青矢・横山, 2009. 日比原地域の地質. 産総研地質調査総合センター.
Beyssac et al., 2002. Journal of metamorphic Geology, 20, 859–871. https://doi.org/10.1046/j.1525-1314.2002.00408.x
Higashino, 1990. Journal of Metamorphic Geology, 8, 413–423. https://doi.org/10.1111/j.1525-1314.1990.tb00628.x
Itaya, 1981. Lithos, 14, 215–224. https://doi.org/10.1016/0024-4937(81)90043-8
Itaya & Takasugi, 1988. Contributions to Mineralogy and Petrology, 100, 281–290. https://doi.org/10.1007/BF00379739
小島ほか, 1956. 地質学雑誌, 62, 317–326. https://doi.org/10.5575/geosoc.62.317
Kouketsu et al., 2021. Journal of Metamorphic Geology, 39, 727–749. https://doi.org/10.1111/jmg.12584
脇田ほか, 2007. 伊野地域の地質. 産総研地質調査総合センター.
四国中央部三波川帯ではHigashino (1990) をはじめとした詳細な変成分帯に基づいて温度構造の議論が行われてきた。最近、Kouketsu et al. (2021) は汗見川地域の泥質片岩についての炭質物ラマン温度計を用いた変成温度推定から詳細な温度構造を示し、緑泥石帯のざくろ石帯との境界付近においておよそ380°Cと440°C の間に顕著な温度不連続の存在を見出した。本研究では、Itaya (1981) においてXRD測定と化学組成の分析が行われた炭質物(泥質片岩から分離されたもの)とItaya & Takasugi (1988) でK–Ar年代測定が行われた泥質片岩の一部について顕微ラマン分光分析を行った。四国中央部三波川帯7ルートの試料について炭質物ラマン温度計により推定した温度の傾向はItaya (1981) で示された炭質物の結晶化度と整合的であった。緑泥石帯は大部分がおよそ300–350°Cの範囲内であったが、ざくろ石帯との境界付近において急激に変成温度が上昇し、Kouketsu et al. (2021) で報告された温度構造の不連続は四国中央部三波川帯の広範囲で確認された。汗見川–猿田ルート北部及び中の川ルートにおける大歩危ユニットとの境界付近では変成温度の急激な変化はみられず、大歩危ユニット内も他地域の緑泥石帯と同程度の温度であった。また、五良津岩体南部に位置する中七番ユニット(= 大歩危ユニット: 青矢・横山, 2009)についても同様で300–350°C程度の変成温度であった。南部の思地-長沢地域において、秩父北帯相当の付加体構成岩石を原岩にもつ思地ユニット(青矢・横山, 2009; 脇田ほか, 2007)及び三波川南縁帯(小島ほか, 1956)に相当する川又ユニットでは250–300°Cと白滝・大歩危ユニットに比べて低い変成温度を示すものが見られた。このように四国中央部三波川帯において広範囲での変成温度情報が得られつつあり、これらを踏まえて四国中央部三波川帯の泥質片岩に記録された広域的な温度構造について議論したい。
引用文献
青矢・横山, 2009. 日比原地域の地質. 産総研地質調査総合センター.
Beyssac et al., 2002. Journal of metamorphic Geology, 20, 859–871. https://doi.org/10.1046/j.1525-1314.2002.00408.x
Higashino, 1990. Journal of Metamorphic Geology, 8, 413–423. https://doi.org/10.1111/j.1525-1314.1990.tb00628.x
Itaya, 1981. Lithos, 14, 215–224. https://doi.org/10.1016/0024-4937(81)90043-8
Itaya & Takasugi, 1988. Contributions to Mineralogy and Petrology, 100, 281–290. https://doi.org/10.1007/BF00379739
小島ほか, 1956. 地質学雑誌, 62, 317–326. https://doi.org/10.5575/geosoc.62.317
Kouketsu et al., 2021. Journal of Metamorphic Geology, 39, 727–749. https://doi.org/10.1111/jmg.12584
脇田ほか, 2007. 伊野地域の地質. 産総研地質調査総合センター.
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