講演情報

[T1-P-3]紀伊半島北西部船戸地域の三波川泥質片岩:ザクロ石中の高残留圧力を保持する石英包有物とその意義★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★

*溝口 大世1、田口 知樹1 (1. 早稲田大学)
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キーワード:

三波川帯、泥質片岩、エクロジャイト相変成作用、ラマン地質圧力計、残留圧力

三波川帯は緑簾石-角閃岩相相当の変成作用(主変成)を一般に経験しているが、四国の一部地域では主変成に先立つエクロジャイト相変成の記録が残存している(Taguchi et al, 2019 JMG; Endo et al., 2024 Elements)。四国中央部におけるエクロジャイトユニットの分布域は制約されつつあるが、三波川他地域におけるエクロジャイト相変成領域の拡がりは未だ不透明である。紀伊半島北西部の三波川帯では主変成を経験した片岩類が広く分布するが、和歌山県かつらぎ町の一部地域に限り、周囲の岩相と比べ高変成度な船岡山岩体が露出する。船岡山岩体がエクロジャイト相条件の変成履歴を記録することは明らかになっている一方で(Endo et al., 2013 JMPS)、紀伊半島他地域でエクロジャイトユニットの痕跡は見出されていない。本研究では、船岡山岩体の西方約13 kmに位置する和歌山県岩出市船戸地域の泥質片岩を対象にラマン分光学的研究を実施した結果、高残留圧力値を示す石英包有物を普遍的に確認したため詳細を報告する。
 船戸地域では曹長石-黒雲母帯相当の泥質片岩が露出しており、基質では石英+曹長石+ザクロ石+白雲母+緑泥石+炭質物±黒雲母±電気石±チタン石±ジルコン±方解石±燐灰石の鉱物組み合わせが認められる。ザクロ石の多くは斑状変晶をなし、半自形から他形結晶として観察できる。変成温度推定を目的に炭質物ラマン温度計(Aoya et al., 2010 JMG)を本試料に適用した結果、513 ± 24°Cのピーク変成温度が見積もられた。この温度値は、四国三波川帯における曹長石-黒雲母帯の変成温度と矛盾しない。今回、ザクロ石成長時に取り込まれた石英包有物60粒子に対し、ザクロ石−石英系のラマン地質圧力計を適用した。これはザクロ石に包有された石英粒子をラマン分光分析することで、そのピーク位置変化から残留圧力を算出し、変成岩が経験した変成圧力を推定することができる手法である。石英包有物の残留圧力を評価する上で、Δω1(Enami et al., 2007 AM)とP206(Reynard and Zhong, 2023 SE)で表される変数が用いられる。本試料ではΔω1 = 約10.8 cm-1とP206 = 約0.68 GPaの最大残留圧力値が得られ、これを変成圧力に換算するとP = 約1.6–1.8 GPa(T = 450–550°Cと仮定)になる。
 石英包有物がΔω1 >8.5 cm-1である場合、エクロジャイト相条件に達した指標になることが経験的に知られている(Enami et al., 2007 AM)。今回、ザクロ石内の石英包有物60粒子中19粒子がΔω1 >8.5 cm-1を示した。本研究で得られた石英の残留圧力値は、四国中央部三波川帯のエクロジャイトユニットで報告されている値とよく一致する(e.g. Taguchi et al., 2019; Endo et al., 2024)。泥質片岩試料中に高圧指標鉱物は現状確認できていないものの、船戸地域もエクロジャイト相変成条件に達していた可能性は考えられる。また、紀伊半島北西部三波川帯において、船岡山岩体のみがエクロジャイト相変成作用を経験した異質岩体でないことも示唆される。今後、船戸地域のザクロ石を対象に高圧指標鉱物の探索や組成累帯構造との関係性を検証することで、より詳細な変成履歴を復元できると期待される。

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